十一話
俺がルーシーと恋仲になってさらに半月が過ぎて一ヶ月になっていた。けど、ルーシーは諦めてくれそうにない。
今日も今日とてアプローチを熱心にかけられているのだった。
「ねえ。ステイ、何で答えてくれないのよ。手さえ握ってくれないし」
「アホか。婚約者でもないのにできるかよ」
「…意地悪」
ルーシーはむすっとして黙り込んでしまう。その後、どこかへ行ってしまった。俺はふうとため息をつきながら寮にある自室へと戻った。
「よう。ステイ、今日もルーシーは熱心だな」
フイリップが昼になって俺の部屋に入ってくるなり言った。俺はまたかと思いながら返事をする。
「まあ、そうだな。ルーシーは俺の事を本気でつがいだと思っているらしい」
「…へえ。否定はしないのな」
「それが現実だからな。が、俺はそうは思えない。ルーシーはどっかで間違えてるんじゃないか?」
俺が懐疑的に言うとフイリップはやれやれと肩を竦めた。
「間違えてるか。俺はそうは思えないがな」
「何でわかるんだ?」
俺が問い返すとフイリップはわかってないなと苦笑する。
「…俺から見たらルーシーは本気でステイが好きなんだってわかる。たぶん、竜とか人とかどうだって良いみたいだからな」
はあと言うとフイリップは苦笑を深めた。俺はルーシーが本気でいるのだと指摘されてモヤモヤとした気持ちになった。
「まあ、俺からは頑張れよとしか言えないがな。ただ、ステイ。浮気はするなよ。そんな事をしようもんならルーシーが怒り狂うから」
「わかってるよ」
「だったらいいな。じゃあ、俺はこれで部屋に帰る。夜になったらまた飲みに行こうぜ」
フイリップは手を軽く振ると俺の部屋を出て行った。それを見送りながら一難去ってまた一難という言葉が頭に浮かんだのだった。
あれから、俺はルーシーに少しは触れるようになった。頭を撫でたり手を繋ぐ程度だが。それでも、彼女は嬉しそうだ。今のところ、戦闘に出る事もないために暇ではある。
「ステイ。今日もお庭でお昼にしましょう」
「わかった。確か、シルバーと母さんお手製のマフインとスコーンがあったはずだから。部屋まで取りに行ってくるよ」
「あ、今日も作ってくれたのね。シルバーちゃんとシャンにお礼を言っていたって伝えておいてね」
「伝えておくよ。母さんもルーシーに喜んでもらえたら嬉しいだろうしな」
お願いねと言われつつも俺は自室に戻る。しばらくしてバスケットを持って下りてくるとルーシーは嬉しそうに笑う。庭に二人で向かったのだった。