一話
あれから、かなりの年数は経ったろうか。竜騎士を目指して騎士団に入り、両親の元を離れたのは俺が十四歳の頃だった。
父は竜騎士団長で名をスティーブといった。母も同じ竜騎士で名をシャンティという。
かつて、母の騎竜ことパートナーだったルーベンスは三頭の子供が生まれていて子育てに奮闘中だ。
俺は名をスチュワートといい、普段はスティと呼ばれていた。
俺は今、竜騎士にめでたくなれて早くも四年が過ぎようとしている。年は二十三歳になっていた。ルーベンスの妹のルーシーとペアを組んでから、早くも四年が経過していた。俺は寮の部屋のテーブルに付いている椅子に腰掛けている。窓ガラスの向こうには澄んだ青空が広がっていた。今は秋になっていて十月の中旬だ。
鱗状の雲が空にあって秋から冬になろうとしているのを告げているようだった。
そして、ぼんやりしていると木製のドアがノックされる音が部屋に響いた。俺は返事をして入るように言う。
すると、ドアノブが回されて控えめに開いた。顔を覗かせたのは同僚で都立学園の同級生だったフィリップだった。
「…よう。スティ、部屋の中で何やってんだ。今日は休みだとはいえ、顔くらい見せたらどうだよ」
気さくに声をかけてくる。俺は苦笑いしながら答えた。
「…ああ、悪い。まさか、フィーが部屋まで来るとは思わなかったもんだから」
「おいおい。俺の事を忘れないでくれよ。夕方になったら、一緒に飲みに行こうかと誘いに来たんだがな」
フィリップことフィーも似たような苦笑いで返事をしてくる。
「…飲みにか。まあ、いいだろう。で、どこに行くんだ?」
「城下町の飲み屋で椰子の実て所が安くてうまいんだ。そこへ行こうぜ」
フィーから誘われて俺はだったらと立ち上がる。椰子の実といったら、母の古い友人が経営している店だ。その人も城で女官をしていた。名をエーリカさんという。
「…椰子の実か。エーリカさんの所だったら、確かに安くてうまいからな。たまには顔を出すか」
「ああ、そうだった。あそこの女将さん、スティのお袋さんの古い知り合いだったな。じゃあ、安い酒とか教えてくれ」
「…わかった。じゃあ、今から行くか」
俺は椅子から立ち上がると棚の中から財布を取りだし、フィーと部屋を出た。椰子の実へと向かったのであった。フィーは俺にあそこの売り子の娘が気になると言ってきた。そうかと頷くとお前の妹を紹介してくれとまで言ってきたので首を締め上げた俺だった。たく、冗談じゃない。悪態をついた俺である。