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夢想の形は銃弾で  作者: 衣太
襲撃
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4

「これが、銃ねえ」



 紹介された鍛冶屋の息子――名をアルフレドと言うようだ。彼に機関銃“PKM”を渡すと、興味深そうに覗き込む。



「なんでこんな形になってるのか気になるんだけど、これ、分解しても良い?直せるところまでしか外さないから」


「まあ、その程度なら」



 アルフレドは年も若く、まだ10代半ばに見える。私よりも明らかに年下で、それでもこの鍛冶屋にある銃は彼の製作のようだ。

 銃――そう、この鍛冶屋には銃がある。彼にPKMを見せる代わりに、この鍛冶屋の銃を見せてもらっているが、どれもシンプルな物だった。

 まず、薬莢がない。弾丸は円球状であり、銃本体も、複雑な構造はしていなかった。

 何せ、アンティーク銃に詳しくない私ですらも、構造が分かるほどだ。

 あちらの世界の分類で言うならば、“火縄銃”だ。撃ち方を聞いても、知識にある火縄銃と変わらない。

 銃口に火薬を入れ弾を入れ、火縄で着火する。種子島に鉄砲が伝来した時から、全く進歩していないような、そんな銃だ。



「アルフレドは、いつから銃を?」



 明らかな年下に敬語を使うのは間違っていると彼から指摘され、それもそうだと、彼に敬語を使うのはやめた。流石にフランクすぎるようにも感じるが、年下とコミュニケーションを図るなどこれまでにない経験だったので、彼の言うことに従うことにしたのだ。



「3年くらいかなあ、昔行商が置いてった銃を分解したらなんか作れそうだったから、作ってみたんだよね。まあちゃんとしたのが作れるようになったのは、ここ1年くらいだけど」



 彼は手元のPKMを慎重に分解しながら、顔も向けずに答える。

 年齢は若いが、職人の端くれなのだろう。話し方とは裏腹に、目は真剣そのものだ。



「3年、か」


「ちゃんとって言っても、俺は全然撃てないんだけどね。猟師のおっちゃんからは評判良いから、作れてると思うんだけど。姉ちゃんはどうなの?」



 彼には、「姉ちゃん」と呼ばれている。まあ確かに数個しか変わらない相手ならそう呼ぶのは吝かではないだろうが、全く抵抗なくそう呼ぶ彼に、若干の憧れを感じたと言うのは、嘘ではない。

 私はこれまで、そんな風に人と接することができなかった。ネット上はともかく、リアルではだ。

 彼と話す分には、全く気を遣わないで話していられる。そんな経験は、これまでになかったことだ。



「撃ったことは、ないかな」


「こんなの持ってるのに?ていうか、撃てないならなんで持ってんの?これ。重いし……」



 汎用機関銃としては破格の軽さを誇るPKMといえど、火縄銃と比べると遥かに重い。

 この火縄銃は、3kg程度だろうか。全長は長いがほとんどの素材が木で出来ており、重くなりようがない。

 このくらいの重量なら、私でも撃つことができそうだ。勿論、当てられるかは別だが。



「ここの銃撃ってみたいんだけど……」


「ああ、いいよ。適当に持ってって貰って」


「……え?」


「だってそのへんの、どれも売り物じゃないからさ」



 壁に立て掛けられている火縄銃は、数えてみると13挺。確かに店先には置いていなかったが、売らないのは勿体ないのではないだろうか。



「親父が店に並べるの許してくれないんだよ。まだ売るほどのものじゃないーって。だから鍛冶屋のおっちゃんに頼まれた時に作って売ってるだけで、そこに並んでるのは全部練習作。そのうち溶かして鉄に戻すから、どれ使っても構わないよ」



 銃を使うのが猟師程度なら、あえて店頭に並べる必要はない。直接売れば良いという話だ。

 10代の少年が作って火縄銃程度の性能になるのなら、戦争で使わない理由はないと思うが、やはりそこは、この世界の歪みの一つなのだろう。

 何か、理由がある。戦場で使われない理由がだ。それはまだ分からない。



「どっか、射撃場とかあったりする?」


「ここにはないね。ただ今日の昼に猟師の一人がメンテナンスに来る予定だから、その時に付き合う?一応、村の外にはあるからさ」


「お願いするね。それ、どのくらいかかりそう?」



 PKMの分解を続けている彼を見て言った。何かメモを残しながら分解しているが、やはり、火縄銃までしか銃が発展していない世界の銃鍛冶に、それより500年も後に生まれた銃を解析するのは難しいのだろう。

 根本からして発想が違うのだから無理もない。薬莢がなく、先込め式の銃しかない世界の住人に、ベルト給弾について説明するのは無謀だ。

 私が詳しければ説明もできたのだろうが、私が詳しいのはゲーム的性能のみであり、銃のどこがどうなっているかは分からない。彼に何度か質問をされているが、どれも「分かんない」としか返せていないのだから。そのうち質問すらされなくなった。彼も察したのだろう。



 「とりあえず構造だけでも覚えておきたいから、あと3時間くらいは欲しいかな。ていうか、そんなに待ってると猟師のおっちゃん来ちゃうね。うーん……」


「別に急ぎじゃないから、ゆっくりでいいよ。別に1日置いてっても良いし」


「そう?助かるよ。じゃあどうしよ、姉ちゃん何してる?一旦帰る?」



 そう問われ、少し悩む。帰ってもやることはないし、今知りたいのは銃のことだ。村に何があるかは先程案内されたが、それよりは銃。何より銃だ

 昼になったら猟師が来るのだし、後で試射もさせてもらえるのなら、外に出て闇雲に情報を探すより、ここで待っている方が得策と、そう判断する。



「まあ、話聞かせてもらえたら良いかな?」



 銃鍛冶ではあるが、彼も間違いなくこの世界の住人。それに、鍛冶屋の息子という立場で、戦争について知識があるはずだ。彼は銃しか作っていなくとも、彼の父親は鍛冶屋として、剣や槍を作っているのだから。



「そのくらいなら別に?まあ口くらいしか動かせないけどそんでいいなら」


「別に良いよ。えーと、何から聞こうかな……」



 いざ考えてみると、質問が多すぎてどれから聞くべきなのか分からない。彼に答えられるのがどこまでかも分からない以上、無難なところから聞いていくべきか。



「なんで銃を、猟にしか使ってないの?このくらいの性能なら、戦争に使えると思うんだけど……」


「戦争に?それは無理じゃないかなあ、いや、俺が作った銃がってことじゃなくて、誰が作っても、無理じゃないかなあ」


「その理由は?」



 真剣な目をして作業を続けていた彼の手が止まる。そして、不思議な顔をしてこちらを見る。



「いや、理由というか……動く人には当たらないでしょ、流石に」



 呆れ顔で、彼はそう返した。

 当然の答えだ。だが、それでも銃は人に当たる。相手が動いていようが、当てることはできるのだ。



「こう、銃を持った人を横一列に並べて、一斉に撃てば?」



 机に銃弾を並べて言う。

 横一列。並べた数は10個もないが、これで言いたいことは伝わるはずだ。



「正面から突っ込んできたならそれで当たるだろうけど、それ、正面から来なかったら意味ないよね?」



 それも最もだ。形式だった戦ではないのなら、敵はどこから攻めてくるのか分からない。

 けれど、それでも対策はできる。



「例えば、こうして円形になったら?」



 横一列にしていた弾を、丸く並べる。極端な例だが、これなら全方位に対応可能だ。



「それ、結局当たらなくない?」


「じゃあ、この弾1つ当たり、100人居たとしたら?」



 合計1000人の円陣。いくら何でも極端すぎるが、言いたいことはそういうことだ。直接ぶつかるなら、数で対抗すればいい。数さえ用意できれば、銃を持つのは農民でも良かったのだ。

 鍛えた兵士など必要ない。数が多ければ、撃つことができるなら、誰でも構わない。敵はどれかにあたってくれる。

 長篠の戦いで使われた火縄銃の数は3000挺。動員された織田・徳川軍の38000人に比べたら遥かに少ないが、それでも10人に1人近くは銃を持っていた計算になる。先の例えは極端ではあったが、見当違いのことではないのだ。



「敵が全部そこに向かってくるなら、たぶん当たる。けど――」


「けど?」


「たぶん、弓の良い的だよ、それ」


「……弓?」



 そういえば、弓も使われていると言っていた。しかし、日本の例を上げると、鉄砲伝来以降、急激に銃の数を増やした背景は銃の威力や射程だけではなく、誰でも使える、ということが重要だったのだ。

 弓の訓練をするより速く銃は習得出来、威力は桁違い。連発速度は弓に劣るかもしれないが、それは撃ち手の数を増やせば良い話だ。


 彼の言うことは最もだ。弓が遠戦の主体となっているなら、弓を持った人間が隠れながら、少しずつ矢を撃って行けばいい。そうすれば徐々に銃の数は減り、銃側からすると遠くにいる少人数を撃つのは難しい。

 対応できないならば、歩兵が行けば良い。しかし、銃の射程に味方は入れない。


 当然、当然そのはずだ。ならば何故銃は流行し、弓は使われなくなった?

 誰にでも使えるだけではない。誰にでも使える遠距離高威力武器というだけなら、弓を排除するには至らないはずだ。数が多くとも、この場合勝機とはならない。むしろ、的が増えるだけとも言える。

 射程が、一緒なら――


 射程?



「この銃が、狙って当てれる距離はどのくらい?」



 射程だ。そこを、全く考慮していなかった。

 弓の射程は?火縄銃の射程は?何故同じ“遠距離”で括ろうとした?

 いくら初期の銃だろうが、数十メートルしか飛ばないわけではないはずだ。射程が弓より長かったからこそ、弓兵を全て銃兵に塗り替えるに至った。

 少なくとも日本史では、そのはずだ。



「猟師のおっちゃんには、100メートルまでは当てられるようにしろって言われてるよ。それで文句が出ないってことは、そのくらいは飛んでるってことじゃないかな」



 100m、彼はそう答えた。

 銃弾は、100mで殺傷能力を持っているのに、110mになったら消滅するなんてことはない。

 仮に狙って当てられる距離が100mだとしても、その数倍は殺傷能力を維持したまま飛翔しているはずなのだから。



「じゃあ弓は?」



 ゲーム内に弓はなかった、いや、クロスボウはあったが、射程は100mもない。銃と違い火薬を込められているわけでもないので、当然の射程だ。

 弓は、どこまで届いたのだろう。それが銃以上の射程ならば、彼の言う通り、銃は弓の代用品とはならない。別の用途としては使えるだろうが、正面から撃ちあうのは不利となる。

 ただ、それではやはり歴史との差異が生じる。銃は、弓に勝ったのだから。



「上手い人なら、300メートルくらいは飛ぶらしいよ」


「……え?」


「100メートルしか飛ばない銃じゃ、300メートル飛ぶ弓には勝てないと思うんだけど、違うの?」



 どういう、ことだ?

 弓が300m届くなら、それは火縄銃のキルゾーンには入らない。それは間違いない。

 いくら円陣を組もうが、横一列に並ぼうが、ただの的だ。

 しかし300m?それは真実なのか。いや、彼の言葉はこの世界では真実だ。そうでなければ、銃が使われない理由がなくなる。

 現実世界で300mの距離を意識したことはないが、ゲーム内でなら分かる。音速で飛ぶ弾丸ですら、300m先の標的に当てるのは難しい。キルゾーンが1kmを超える狙撃銃を除いて考えると、それなりに命中精度の高い銃を使って、スコープを覗いて、止まってる標的に撃ってようやく当たる程度だ。相手が回避機動を取っていたなら、まず当てることなどできない。

 ゲーム内で300mを交戦距離と考えるのはスナイパーだけだ。狙撃銃を持っている彼らからすれば、300mなど短距離と言えよう。何せ、彼らは1km以上離れたところで撃ち合っているのだから。


 話を戻そう。

 音速で弾丸が飛ぶ銃ですら300m離れて居たらほとんど当てることができないのに、それ以下の速度しか出ない弓で、その距離を当てることなど出来るのか?

 いや、出来たはずはない。

 当てられたはずはないのだ。3倍の射程を持っていようが、銃弾だってそのくらいは届く。放物線を描く矢にとってはその射程が当てられる限界距離なのだろうが、直線に飛ぶ銃弾なら、それを遥かに超える距離まで、殺傷能力を維持できる。


 返事を上手く作れないでいるのを察したのか、彼は手元の作業に戻る。

 言い負かしたというより、何を当然のことを聞いているんだ、といった風だ。

 銃を作ってる彼ですら、遠距離武器として銃は弓に劣っていると、心から信じている。


 ならば、考えよう。銃が弓を排除した世界の代表として、この問いの答えを見つけよう。


 弓は、当然300m届くものと仮定する。では、火縄銃はどのようなシーンで使われた?

 やはり思い浮かべるのは、長篠の戦いを表した絵だ。銃を持った集団が横に並び、正面から来る騎馬隊に発泡するシーンが描かれているもの。

 何故あのシーンに弓はない?仮に、弓が銃を破れるのなら、騎馬隊が銃兵に突撃する意味などなくなる。

 最初から弓で削れば良いだけの話になってしまう。


 思い当たるのは、威力。

 矢は盾で防げるから、銃側は矢の回避を考えなくて良い。それも確かにあるだろうが、盾の数は無限ではないし、銃兵が盾を持つことなどできない。地面に盾を突き刺しておけば盾を持つ必要がなくなるが、そうなると次は機動力が皆無となる。騎馬隊が犠牲覚悟で突っ込んでどこかから切り崩せば、銃兵は逃げるしかなくなる。

 弓が圧倒的に長い射程を持っているのなら、一方的に矢を放ち続ければ良いだけの話だ。全ての兵が盾の後ろに隠れているなら、戦闘になどならない。銃では狙えない距離から一方的に撃ち続ければ、いつかは消耗するだろう。


 銃が生まれて以降、弓は戦争の主力になっていない。その理由は、何だろうか。

 数の養成が行えないのは、間違いがない。交戦距離が長くなればなるほど、習熟にかかる時間は伸びていくものだ。離れた相手に弓を当てることができるようになるより、馬に乗って剣を振るう方が何倍も楽だ。それに、矢は放物線を描いて飛ぶのだから、放ってから、狙った地点よりも内に入られたら当たらない。機動力のある馬に対抗ができないのだ。

 銃ならば横方向を合わせるだけで馬に対抗できるが、弓だと座標を点で狙わなければならない。それこそ矢が放物線を描かないほど近距離ならば互角となりうるが、それでも、矢は盾で防げる程度の威力でしかない。

 仮に撃ち合いをするならば銃は弓には勝てなくとも、合戦という場でなら、銃以外を持った兵、弓以外を持った兵が大勢居る状況ならば、有利になるのは銃ということだろうか。


 この結論が、正しいのかは分からない。射程という点で圧倒的に劣るならば、火縄銃が、完全に弓を排除できたとは思えないからだ。

 それでも、現実は銃の世界になっている。

 どのタイミングで、弓が戦争に使われなくなったのかは分からない。しかし銃の数、質からして、戦国から安土桃山時代にかけてはまだ銃だけで戦っていたわけではない。

 江戸時代だ。200年以上も続いたこの時代のうちに、弓どころか刀もなくなり、主兵装が銃となっている。

 銃歴史についての知識がないのが、ここで響いてくる。いつどのような銃が日本で作られ、いつまで火縄銃だったのか、それが分からないのは、間違いなく痛手だ。


 やはり、火縄銃が存在する以上、銃が弓に完全に劣るということはないはずだ。それは、日本の歴史が証明している。

 銃と弓が共に戦っていた時代も確かにあった。それでも、結果は銃の勝利だ。弓は持ち主が上手くなるしかないが、銃は銃自体の性能が上がれば、自然と戦果も伸びる。

 遥か昔に完成された弓とは違うのだ。

 銃が生まれて間もなく、まだ弓との住み分けができていないとならば、弓の方が優れているとなっても、不思議ではないのだろうか。



「このくらいの銃は、いつからあるの?」



 彼が話していたことをすっかり忘れるほどに時間を置いてしまったが、続きの質問をする。

 一瞬だけ手を止めたが、何を言われてるのか理解したのか、彼は思い出すようにして答える。



「猟師のおっちゃんが子供の頃には、おっちゃんの親とかがもう使ってたらしいよ。俺が銃作り出すまでは、他の町に修理に行ったり、行商が買ってきたりしてたって言ってた。おっちゃんが70くらいだから……少なくとも70年前とか?」



 70年。火縄銃は、そこまで進化せず停滞していたのだろうか。

 それも、戦争での優位性を認められることもなく?やはり、おかしい。

 いくら何でも、盾を貫く銃弾があるのに、それを戦場で使おうと考えた人間が居なかったはずもない。

 射程距離で弓に劣ると言っても、威力では圧倒的に銃の方が上だ。弓だけで敵を全滅させられない以上、いつか剣や槍の射程に入るはずだ。剣と比べると圧倒的に遠くから、銃は狙うことができる。

 合戦のように、数万単位の激突がないにせよ同じことだ。銃兵が数人しか居なくとも、少なくとも槍よりは遠くから、たった10m程度の距離でもいい。そんな距離ならば、いくら火縄銃でも外さないはずだ。

 銃を撃った後無防備になるのなら、銃を撃った後に近接武器に持ち帰れば良いだけの話だ。槍の射程より前から敵の数を減らすことができる。遠距離で使わないにせよ、持たない理由にはならないのだ。

 何せ、銃は習熟訓練がほとんど必要ない。弓のように狙う必要はなく、銃口さえ向けていれば、弾は勝手に前に飛ぶのだ。その銃弾の通るラインは、食らっても無事という威力では済まない。

 銃弾が当たったらば大きな穴を開け、撃たれたのが末端であろうと、出血は簡単に致死量に達する。矢ではそんなことにはならないだろう。

 矢を一発受けたところで、確実に死ぬわけではない。痛みに耐えられるかは別として、致命傷を与えるには重要部位に当てるしかない。

 出血死を狙うには、矢は細すぎるのだ。


 少なくとも70年もの間、誰もそれに気付かないはずはない。戦争自体は100年以上続いているのだ。今を生きている人が、いつ始まったか知らない程度には長く。

 その歴史上で、銃の有用性を誰も気づかなかった、そんなはずはない。

 獣を撃てるのに人を撃てない道理などないのだから。


 分かったことは2つ。


 この戦争では、銃は使われていない。それは事実。

 そして、銃が弓には勝てないと、当然のこととして認識されている。戦争をしている、敵国にもだ。


 その場合、世界全体がそうと見て良いのだろう。この世界では、銃は弓に劣る武器なのだ。

 今持つ情報だけでは、何故この世界でそのような認識をされているのか、特定することはできない。

 銃の性能が過小評価されているのか、弓の性能が過大評価されているのかが分からないのだ。



「この戦争が何で起きたのかとか、知ってる?」


「攻められてる側ってことしか知らないよ。敵が来るから守ってるだけなんじゃない?」


「そっか。そういうの知ってそうな人に心当たりは?」


「ないなあ。店に来る兵隊も言ってたよ。なんで敵はいつまでも攻めてくるんだー、って。戦ってる人が知らないんじゃ、武器作ってる俺達が知るはずもないよね」



 戦争に直接関わっている者すら、理由を知らない戦争。

 この村は最前線に近いはずだ。そこに居る兵が知らないのなら、誰が知っていると言うのだろう。

 戦争を指揮している、参謀だろうか。いや、参謀など居るのだろうか。組織的な戦争が行われていないのなら、各地域が独自の判断で戦っている可能性もある。それこそ、そこで一番偉い人間が指揮を取っているだけという可能性もある。

 一つの国として戦うのではなく、各地域がそれぞれ各々の敵と戦っている場合だ。

 敵も味方も組織ではなく、もう理由も分からなくなっている戦争ならば、現状が泥沼化している可能性がある。

 100年殺し合いを続けるには、よっぽど大きな理由があるはずなのに。3代は代替わりしているのだから、個人の首などと言っていられる状況ではない。

 資源や技術、はては侵略すること自体が目的か。

 この国は、攻めている側ではない。自国の領土で戦っている以上、国を守っているのだ。

 何故戦っているのか。いつまで戦うのか。どうしたら勝利となるのか。全てが謎。ならば敵国は知っているのかと考えても、恐らくあちらも分かっていない。だから、ただ無計画に攻め続けるのだ。

 何かを求めてきているのなら、それを発表すればいい。しかし、それは誰もしらない。



 この世界の人間は、それを悲観していないように思える。彼らは戦争はあって当然だと思っているし、この世界自体、戦争がある前提で動いているのだ。

 よそから来た自分が、それをなんとかしたいと考えるのは、傲慢なのだろうか。

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