7
オリヴィエに案内された図書館で本の山と格闘していたところ、聞き慣れた声が通る。
「リカさん、ここ、おかしくないですか?」
ナディアに呼ばれ、手にしていた本を置く。
目の前には本の山。読むたびに探しに行くのは面倒で、一気に持って来て一気に片付ける派だったというのはあったが、見出しだけ見て本を抱えていく姿を見たナディアは、さぞ不思議に思ったことだろう。
「……そんなに読めるんですか」と呆れ気味に聞かれたし。
実際、全部読む必要はない。今はまだ歴史の差異を探す作業であり、それを行うには正確な情報よりも大量の情報が必要だからだ。パラっと読んで頭に入れて、次の本を手にすればいい。
「うん、どこ?」
振り返り、ナディアの手にした本を受け取る。
ナディアが見つけたのは、国の最下層として生まれた男が商人として成り上がった話を手記として記している本だ。商人界隈では有名な男らしく、今でもその男の作った商会が、国でも上位の規模を誇っていたはずだ。
「えーと、この年号は」
「今から93年前です。この一文なんですが……」
ナディアに指された文章を読む。『都に着いてみると、広場に入りきらないほどの馬車があった。馬車の見張りをする男に祭りかと聞くと、そうではないらしい』
「それで、ここです」
数ページ捲ったところで指が止まる。『謁見の間に集まったのは私の他に17名。誰もが一度は名前の聞いたことのある商人達だ。私の知人であるエパルティ、ヘタ、シルハの3名も含まれていた。どうやら、今後王城へ仕入れる食料を、一つの業者にまとめて頼むという話のようだ。私は真っ先に名乗りを上げた。この中で一番無名なのは間違いなく私だったから、声だけでも挙げなければならないと思ったからだ。財務官との交渉の末、無事私が選ばれることとなった。薄利ではあるが、都に名前を売れることを思えば、構わない』
ナディアに指定され、また数ページ進む。『部下曰く、私が流した食料が、王城で出回っている気配がないという。王都で偶然会ったシルハに聞くと、何と、シルハも食料を王城へ売っているという! 専属の契約だったはずだ! 私は怒り、その夜、財務官を訪ねた。しかし彼の言葉は簡素なもので、私の納得できるものではなかった。「兵隊が大規模な遠征に出ており、食料が足らなくなっている。だから他の商人からも買っているだけだ。気を納めてくれ」彼はそう言うだけだった。怒りの矛先を失った私はシルハを伴い酒場へ行き、気がつくと朝だった』
「93年前に大規模な遠征があったなんて記録が、この本の他にはないんです」
「……なるほど、ちょっと待って」
調べるのは、93年前の食料流通量。一度目を通した本の中から数冊を抜き出し、食料についての描写、情報を探す。
出荷量。供給量。需要と供給の移り変わり。過去の記録から洗い出し、描写に適当する情報を探す作業は、数分で終わる。
「93年前の王都への小麦流通量、明らかに少ないね」
炭水化物の流通・消費量は、国内で供給が足りている場合は基本的に上下するものではない。
飢饉の記録などがなければ、1~5%程度しか変動がないはずだ。現に93年前の一点を除き、それは横並びの数字を吐いている。
93年前だけはポイントが19%減、翌年からは元に戻るが、この年だけ目に見えて流通量が落ちている。
それでも、何の情報もなければ無視しても構わない数値だろう。地域的な不作があっただけと思えば、理解できる程度の誤差なのだ。
「ナディア、予想でいいんだけど、93年前に一番食べられてた小麦料理は何?」
「そうですね……真っ先に浮かぶのはパンでしょうか。甘味にも使われますが、よっぽど何かのブームでもない限りは誤差を出す程度の消費はありえません」
「パンか……」
私が浮かんだ小麦料理といえば、うどんやラーメンなどの麺料理。ドーナツやケーキ。パンやパスタ等、天ぷらなどいくつもが浮かぶ。
ナディアの予想であるパンは、確かにこの世界においては一般的な小麦粉の用途だ。麺料理は全くないわけではないが滅多に食べることがなく、甘味を出す店もそこまで多く見た記憶はない。だが、パン屋だけは無数にあったのだ。
作った後でもある程度の期間常温保存しておけるパンは、どこへ行くにも時間のかかる世界において、最も一般的な保存食だ。日持ちのするものから翌朝までが期限の惣菜パンなど何種類もあり、多様性を見ればあちらの世界よりも多くの種類を見たようにも思える。
「パンといえば、携帯食だよね」
「ええ、食生活が今と大きく異なってることがなければ、恐らくは。93年前に缶詰はありませんので、長距離移動における小麦の消費量は、今よりもいくらか多かったはずです」
こちらに来てから、通りがかる町で頻繁に補給を行える旅しかしたことのない私は手を出さなかったが、町でも大きなパン屋には、携帯性を高め、水分を極限まで飛ばしたパンも多く売られていた。所謂乾パンとの類だろう。ロレンソは食べ慣れているのか気に入っているのかよく買っていたが、ナディアから「あれは固くて食べれません」と教えてもらい、一度も食べようとはしなかった。
ここまでの移動がいくら短い旅だったとしても、缶詰がなければ栄養素は偏りやすく、冷蔵庫もないので野菜や肉の運搬はほぼ不可能に近い。保存性、携帯性を高めた食料がほとんどの道中であり、パンと缶詰の他は干物や塩漬け肉がほとんどの食事は、「後少しでも旅が長かったら食事が億劫になる」と、ナディアと見解の一致をしたものだ。
「93年、浮いた19%の小麦はどこに行ったのか。安易だけど、書類上には残らない出来事に使われた、と考えるのが普通だよね」
「ですね。そこでこの手記の大規模遠征に繋がるんですが……」
「遠征があった裏付けはこれで取れたってことでいいかな。19%の小麦は王都に入らなかったんじゃなくて、痕跡ごと消されてしまった。けどその遠征についての情報は消えてるし、行先も分からない、か」
「次は、そこから探しますか?」
「うーん……どうだろう」
「……?」
ナディアが不思議そうに首を傾げる。かわいい。
かわいい動作をさせるために悪戯に発言をしたわけではない。実際に、この線からの情報収集は難しそうだという予想だ。
行先を知ろうにも、そもそも大規模遠征の記録自体がない。国内遠征ならばいくつも村がありどこかしらで補給ができるはずだが、一つの街における19%もの小麦を使っての遠征が、近場で済んだはずがない。
ならばどこだ。そんなもの、調べるまでもない。
「国の外へ出てるとしたら、痕跡が見つからないどころじゃないよね」
「……それもそうですね」
日本とは違う。この世界は、陸続きなのだ。
一体どこへ行き、何を成したのか。それを調べるには、ある程度範囲を絞らなければならない。
国の外についての情報はほとんどないのだ。鎖国しているわけではないが、戦時中の国。周辺の中立国、友好国ならばまだ情報が残っている可能性も0とは言い切れないが、国の周囲にあるすべての国の歴史を同じように調べるでは、いくらなんでも時間がかかりすぎる。
行先を調べるのは不可能。ならば思考は次のフェーズへ移そう。
「93年に何が起きたかじゃなくて、何が起きなかったのかを調べよう」
「……えっと、どういうことでしょう……」
私の提案に、不安そうな表情のナディアが言葉を返す。
この流れは、慣れている人でないと難しい。1+1=XだからX=2という答えを出すのではなく、X+1=3だからX=2という答えを出すような、そんな思考方法。
結論ありきで答えを出すには、こうするのが一番なのだ。
「93年前にどこかへ何かをしに大勢の人間が向かった。なら逆に、起こらなかったものがあるはずなんだ。普段はあるのに、この年だけなかったこと。歴史から出来事を削除することができても、嘘の歴史を追加することは難しいからね」
「確かに、全ての歴史書に嘘を記したのでは、削除するより辻褄を合わせるのが難しくなります。つまり――」
「定期的に行われてるのにこの年にだけ行われなかったものを探して。どんな些細なものでもいいから」
「……分かりました」
そう言葉を残し、ナディアは本棚に吸い込まれていく。私は手元にある本の洗い出しだ。
他の客から奇異の目が向けられているようにも思えるが、今は気にしないでおこう。
◇
「案外、難しいな……」
「ですね。行事が多すぎて、どこから取り掛かれば良いのか……」
一度本の山から出、カフェスペースで休憩をしているところだ。
柑橘系の香りを放つ緑色の炭酸飲料は、酷使した脳へ糖を行き渡らせてくれる。何かのフルーツの炭酸割のようだが、どんなフルーツなのかは分からなかった。見た感じ、カボスのようなものだろう、たぶん。
一度93年と目星をつけたものの、特に気になる行事の穴が見つからない。歴史自体への無知が響いているというのもあり、数年周期で行われる定期的な行事を全く把握できていないのも大きい。というより、多すぎるのだ。
イベントが365日周期でないとここまで把握しづらいのかと身に染みる。
「私も王都の行事には詳しくないので、お役にたてずごめんなさい……。誰か詳しい人が居ればいいんですが」
「Eurocorpsの人はそこまで詳しくなさそうだし、やっぱ王都とか行かないと難しいかなあ」
「王都の歴史に詳しい人、そこらに居ないものでしょうか……」
「王都の歴史に滅茶苦茶詳しい物知りおじさんがどこかから降ってこないかなあ……」
あまりの疲れに、ナディアと二人してしょうもないことを口走り続ける。
自分で言っておいてなんだが、物知りおじさんが降ってきたら普通に慌てる。なるべくならゆっくりと降って来て欲しいなどと机に突っ伏して考えていると、頭上から声がかかる。
「お客さん、探し物ですか?」
「あ、えーと……」
突然の声にゆっくりと反応する。ナディアではないが、つい先程も聞いたような気がする声だ。
顔を上げると、エプロンを着けた女性が居た。ナディアよりは上だろうが、20に届くか届かないかくらいの外見。ああそうだ、私が飲んだこのドリンクを提供してきたのが、この女性だ。
「ちょっと調べ物をしてまして……」
「王国の歴史について調べてるんですか? 若いのに、珍しいですね」
左程年齢が変わらなそうな女性に「若いのに」と言われるのに違和感があるが、気にしないでもいいだろう。この国の人間にとって、私が実年齢以上に若く見られることはもう分かっている。今の外見があちらの世界において何歳時点のものなのかは分からないが、それでも実年齢通りに見られることは稀だ。
「そうなんです。詳しい人に、心当たりはありませんか? 90年位前なんですが……」
ナディアが返答をする。流石にカフェの店員が知っているとまでは考えていないが、詳しそうな人については、私達以上には分かるはずだ。
町で有名な物知りおじさんとか居れば良いのだが。そんなことを考えていると、予想外の言葉が返ってきた。
「あー、90年前といえば、エンツォ派とシモーネ派で争ってたあたりですかね?」
「「はい?」」
ナディアと声が重なって、間抜けな返答となってしまう。
「あ、あれ、違いましたっけ……」
「い、いえ。シモーネ陛下はそのあたりの王様ですよね、エンツォというのは誰でしょう……?」
ナディアの返答から、二人の「はい?」が違う意味にかかっていたことに少しだけ衝撃を受ける。
調べてる年の王の名前すら覚えていなかったのか、私は……。
「エンツォ・ミラさん、シモーネ陛下の弟君ですよ。うちのお爺様がエンツォ派だったので昔からよく話は聞いてたんですが、あれ、エンツォさんの本ってここになかったんですか……?」
店員の女性が、不安そうに問い掛けてくる。
その言葉を聞き、緩やかに思考していた脳が一気に思考を始める。
しばらくするとナディアと目が合い、2人は無言で頷いた。
「ありがとうございます!」「ごちそうさまでした、美味しかったです」
残っていた炭酸飲料を一気に飲み干すと言葉を残し、2人は本棚へ向かう。
◇
「ありました。エンツォ・ミラさん。1389年生まれの1435年没。母シモーネ氏とは母違いですが、直系の王族ですね」
「こっちも、シモーネ・ミラさんの本見つけたよ。伝記だけど、ないよりはマシかな」
ナディアの手にした本には、家系図が書かれている。所々抜けているところがあるが、彼の情報は載っていて幸いだ。
この図書館は、エンツォ氏の資料が全く存在しなかった。そのことをカフェ店員の女性に聞いてみると、「民主派だったエンツォ氏についての本は撤去されてるのかも」とのこと。それを聞きに行ったところ、丁度仕事上がりの時間ということで、資料集めの手伝いを買って出てくれたのだ。
「お爺様以外にエンツォさんに興味ある人が居るなんて」と喜んで手伝ってくれる彼女は、名前をルーカと言うようだ。歳は19で、朝は子供達に勉強を教え、昼からは図書館併設カフェでアルバイトをしているらしい。
「読みながら聞くから、シモーネ派とエンツォ派について教えてもらってもいい?」
「はい! ……読み聞かせって子供にしかしたことないので、上手くできるか不安ですが……」
「……子供に教えるようで大丈夫だよ。たぶん私、そこらの子供より歴史知らないから……」
「……はい」
憐れむような視線を一瞬感じたが、事実は事実なのでしょうがない。
ナディアは別だが、私は本当に歴史についての知識がない。今日も最初から“そこには正解がない”と決めつけ歴史書を読む選択肢に入れず一次産業、二次産業ばかりを調べていたというのもあるが、それでも今考えると、勿体なかったなと思う。
「エンツォさんは、今から110年前、後に王となるシモーネさんの3か月後に生まれました。エンツォさんは側室の子というのもあり、政治的にもあまり重要視はされていなかったようです。前王アンデレさんの子供は最終的に17人も生まれましたから、その中の1人でしかないエンツォさんは、特別に冷遇されていたわけではありませんでした。むしろ、シモーネさんという唯一、本妻から生まれた子供が居ましたので、後継ぎはシモーネさんしかいないと、当時は皆思っていたそうです」
一夫多妻であることは知っていたが、それにしても節操ないなアンデレ氏。いや、王といえばそういうものだろうか。
日本人だからこそ、この感覚が掴めないだけかもしれない。現にナディアは無言で頷いているだけだ。
「15になる頃には、兄弟のうち城に残っているのはシモーネさんとエンツォさんの2人だけになっていました。仲が悪かったわけではないようですが、あまり交流はなかったらしいです。後に王になると言われていたシモーネさんと、生まれた時から王の道がなかったエンツォさんでは、教育方針が違って当然です。他の兄弟と違ってエンツォさんだけが城に残ったのは、“王になる兄の手助けをするつもりだから”と、民衆には言っていたようです」
あ、なんか大体の流れが読めてきた。
「エンツォさんは頻繁に城から外に出てきては買い食いをしたり、内緒でアルバイトをしたり、王都に住む人達の話を聞いたり、挙句の果てには王都から出て周辺の町や村を視察したりと、“王族なのに隣人よりも近くに居る”と評判はかなり良く、いつしか、城から一歩も出ない王候補のシモーネさんより、民衆からの好感度が上がってしまっていたんです」
見えない王より見える王を選ぶのは、国民として当然のことだ。
城から出、王家とは別の道で生きていくことを決めた他の兄弟とは違う。エンツォただ一人が、兄のため、国のために、城に残ったのだ。
生まれも育ちも、まさに民衆うってつけの王様。もう少し民主主義思想が強かったなら、クーデターが起きてもおかしくないほどに、彼は民衆から期待されていたのだろう。
「そんなこんなでエンツォさんは誰よりも民衆からの人望が厚い王族となり、今から93年前の1406年、前王アンデレさんが死んだ後、シモーネさんの戴冠式が行われると噂になった時、王城の広場に、エンツォ派の民衆が集まってしまったんです。王はシモーネさんではなく、エンツォさんが相応しいと主張する民衆たち。その場に出てきたエンツォさんは、集まった民衆に言いました。「僕は王になるつもりはない、これからの兄を支えるのが、僕の役目なんだ」と。彼の決意を聞いた民衆は大人しくなり、皆が帰りました」
危うく民主主義国家になるところ、エンツォ氏は一言で民衆を解散させた。それは彼の人徳が成せる業であり、それを聞いた国民が、エンツォ派をやめなかった理由ともなる。
国民からしてみれば、信仰対象は王でなくとも構わないのだ。王よりも国民に愛された人間がどうなるかなど、歴史を紐解かなくともわかることだ。
「しかし、兄、シモーネさんは違いました。彼は、自分より国民からの人望が厚いエンツォさんの存在を、恐れていたんです。戴冠式の後、名実共に王になったシモーネさんはまず最初に、エンツォさんを城から追い出すことに決めました。“周辺諸国の視察”と名目を立て、ごく少数の兵士を護衛につけられたエンツォさんは城から、国から追い出されることとなります。ただし、戴冠式が終わってもエンツォ派は民衆、兵士共に沢山居ました。自主的に隊や仕事を辞めた大勢の人達がエンツォさんに着いていき、一つの小さな町くらいの人数となった集団は国を出、名目だった周辺諸国の視察の旅に出ることとなります」
「……そういう、ことか」
「そういうことですね」
そこまで聞き、ナディアと共に納得する。
これだけ聞ければ、足りないピースは自然と埋まる。
東門派が中立となった理由。93年前に消えた19%の小麦。意図的に消された歴史の穴。
その全てが、エンツォ氏の存在によって明らかとなる。
「その後、エンツォさんはどうなったんですか?」
「12年後、1418年に帰ってきます。エンツォさんは視察の際、その人柄で様々な人脈を獲得したと聞きます。シモーネさんの戴冠式から12年もするとエンツォ派の国民達も大人しくなっていましたが、本人が帰ってきたことで、民衆からの信仰を集めてしまうことを恐れたシモーネさんは、またエンツォさんを城から追い出すことに決めました。次の名目は“国内の視察”。5年後、それを成したエンツォさんはまた帰って来ますが、再び“周辺諸国の視察”を命じられ、城から追い出されます。11年後にまた帰ってきますが、30年近くも定住する場所なく各地を放浪させられたエンツォさんはそこで力尽き、病に倒れ、翌年の1435年、亡くなりました。彼のお葬式には何十万もの国民が集まり、近くからも遠くからも、様々な国から大使が送られたそうです」
「……ありがとう。今の話って、歴史では常識な方?」
「そうですね……老人なら、名前くらいは知ってる程度でしょうか。教科書とかにもほとんど載ってませんが、探せばエンツォさんについて書かれている本もあるはずです。いつの間にかこの町の図書館からは撤去されてたみたいですけど……」
申し訳なさそうにルーカは言う。彼女の勤勉さがなければ、彼女の祖父の存在がなければ、この答えを見つけるには相当な時間がかかったことだろう。
何せ王国の歴史において、王制派ではない民主派の王族だ。存在ごと消してしまうのが一番であり、その“抜け”が商人の手記であったり、支持していた国民の子孫のような、“消しようのない歴史”となる。
記録から削除しても、記憶からは消えないのだ。洗脳のような力があるなら、最初から民主派の王族など、生まれるはずがないのだから。
「答えは、出ました。ルーカさん、本当にありがとう」
「い、いえ! 私なんかが力になれたようで、良かったです」
感謝の言葉を述べると、ルーカはとても嬉しそうに微笑んだ。
「また何か分からないことがあれば、いつでも聞きに来てください。お昼は毎日ここで働いてますから」
別れ際のルーカの言葉に、週休二日もないのかよと突っ込みそうになった。が、何とか口には出さずに堪えられた。
よく考えたら年がら年中働いてるロレンソも居るし、ナディアも彼女の言葉に驚いている様子もない。毎日働くのは、驚くことではないのかもしれない。世界の認識を、少し改める必要があるようだ。
--働いたこともないのに、何の心配をしているのだろう、自分は。




