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夢想の形は銃弾で  作者: 衣太
目的
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5

「その……すまなかった。ようやく目的の人物が来たことで、気が動転してしまったようだ」



 オリヴィエはまた頭を下げる。礼儀正しいのだろうが、先程の言説は頂けない。

 先程までの怒りは嘘ではない。撤回するつもりもなく、大人しく聞きに徹する。



「質問には答えよう。まず、何を伝えれば良いだろうか」


「そうですね……あなたが自分のチーム、Eurocorpsのメンバーを集めているというのは、何かあちらの世界から人を連れてくる方法がある、ということで良いんですか?」


「状況さえ揃えば、君にも可能だろう。ただし、よほど目的と人物が合致していなければ当人を指定するのは難しい。方法は――ひたすら願う、それだけだよ」


「……は?」



 想定外の言葉に、思わず言葉が詰まる。

 ひたすら願う? 確かにマドルの所見では、“この地の人々が求めたものを、神様が与える”現象、神託の条件は、確かに願うことで満たされる。

 しかし、それはオリヴィエたった一人の願いによって叶うのだろうか。そもそも、彼は“この地”の人々ではないのだ。ここに住んでいれば関係ないというのもあるだろうが、それでも彼の願いを聞き入れるほど、この地の神は安い存在なのだろうか。



「僕がこの活動を初めて7年になる。はじめは君のように、こちらに偶然来たプレイヤーと協同していたよ。--ただ、あの日以来、それが不可能と知れてしまった」



 オリヴィエは話し出す。彼の表情は暗く、続きを言うまでもなく、大体の予想はついた。



「この国には“北門派”という組織がある。元はその名の通り王城にある北門を担当する部隊でしかなかったが、そこの兵隊が銃を持っているとの情報を得、接触を試みたんだ。そこに居たのは――僕の、あちらの世界の上司だった。もっとも、彼はこちらに来て30年ほど経過していたようで、僕の知っている彼ではなくなっていたんだが……」



 30年。それだけの期間があれば、思想は変わって当然だ。

 焼き鳥屋台店主の祖父やマドルという前例がある以上、こちらの世界へ来た年代に規則性はないことは分かっていた。それでも、自分の知人が30年後の姿で現れた時の衝撃は、彼にしか分からないものなのだろう。



「それでも、根本にあるのは一緒なはずだ。そう思って何度もアプローチをかけた。何度も、何度も。彼は最後まで態度を変えることはなかったが、彼が自身の息子を使って何をしようとしているかは分かった。……国家転覆だよ。それもこの国ではなく、他国に吸収される形での転覆だ。この国の資源として、濃い“先祖還り”を他国に売っていることを知った僕は、彼に反発した。いくら自分たちとは違う世界で生まれた人間でも、無辜の民であることに違いはないからだ。彼に反発した結果、僕は大勢の仲間を失ったよ。仲間達も、決して弱いプレイヤーではなかった。あちらの世界で十分に活躍しているプレイヤーばかりであり、個々の戦闘力だけ見れば元のチーム以上ということもあった。それでも、僕は負けたんだ。それほどまでに、彼とその息子の部隊、北門派は強敵だった」



 異常な膂力を誇る先祖還りがこの国特有のものならば、それは確かに“資源”として有用な価値がある。

 いつどのタイミングで先祖還りを起こすかか分からない以上、この国の民と掛け合わせて生み続けるしかないということも。--それはもう、人間の所業ではない。ただの品種改良だ。植物や動物を掛け合わせる感覚で、人間同士の掛け合わせを行う。人道とは真逆、鬼畜の所業と言わざるを得ない。



「北門派の人達は、同じ、プレイヤーではないんですか?」



 プレイヤー同士なら、そこまでの実力差はないはずだ。彼のチーム、Eurocorpsは世界的に見ても決して弱いチームではない。むしろ最上位、トップチームの中のトップチームだ。

 そんな彼が実力を認めたこの世界のプレイヤーを以て勝てないと思える理由、それには、銃以外の“何か”があるとしか思えない。



「北門派に居た人間は、皆先祖還りを起こしていた。それも相当な濃度の先祖還りを、だ。あちらの世界で僕の上司であった男が、30年かけて作り上げた部隊。それは、“あちらの世界”と“こちらの世界”の双方の血を受け継ぐ先祖還りの集団だ。君なら、この恐ろしさが分かるだろうか」



 男は言う。

 先祖還りという言葉。状況。強度。それらが集団となる恐怖。


 銃とその知識を持ち、異常な肉体強度を誇る人間が集まってしまえば、それに勝てる人類など存在しない。



「ハーフとはいえ、メンテナンスや弾丸の補充のこともあり、銃で武装している者は極少数に限られた。それでも、敵の全てに知識があるならば、所持未所持に関係ない。我々の持つ唯一の武器、銃は、この世界の先祖還りにとっては豆鉄砲でしかないんだよ。個人の力では彼らに敵わない。だから僕は、集団で勝負を仕掛けることにした。それが、Eurocorpsを集めること。ここまでは、分かってくれたろうか」


「……ええ、あなたの意見も、目的も、大体は。ですが、指導者を外部に求めた理由――集団を作りたいのに、頂点に異物を求めた理由。それについて、何の説明もされてません」



 個人で勝てないなら、集団で勝つ。集団戦において、1足す1を2にしないことは必須であり、足し算ではない掛け算ができるようになれば、個人の戦闘力がどれだけ低くとも最強と渡り合える。それを一番知っているのは、私だ。

 烏合の衆でしかないプレイヤーを、国でも最上級のチームに仕上げた、私だけの技術ではない。それでも、“仕上げる”ただ一点に関して言えば、誰にも負けない技術という自負があった。それは、結果が証明してくれたから。

 私のチームにエースはいない。チートのような超絶技術のプレイヤーが敵をなぎ倒すこともなければ、全員のスコア自体は至極平凡、チーム戦以外では、さしたる成績も残せないプレイヤーばかりだ。

 ……一人、異常な狙撃技術を誇るプレイヤーは居たが、彼には撃ち合いができない。エースと呼ぶには経戦能力が低すぎるので、彼をエースとは呼びたくなかった。何か、癪だ。


 ならば、ならば、やはり。



「あなたが私を求めたのは、間違いだったというしかない」



 結論は、これだ。

 私の技術は、烏合の衆を纏める技術だ。最初から訓練された軍隊など、私の指揮下に相応しくない。彼の願いは大外れであり、それは、彼の求めた結果を成せる最善が、私であるはずはない。

 同じ結果に辿り着くことはできるだろう。それでも、それを成すのに適した指揮官は、私ではないのだ。



「……ああ、そう言われるのは、予想はしていた。君を望んだのは正直、指揮官としての、ただの憧れだ。君の、君達の技術に、僕が憧れていただけのことだ」



 憧れ。そんな情景を抱くほど、彼らと私のチームが交流したということは、今でも信じられない。ただ、個人の感情なのだから、それを以て否定する材料とはならない。



「君達のチームは変わっていた。たまに戦う日本のチームはほとんどが数人のエースを軸にした編成で逃げ切りを狙うのに、君達にエースはいなかった。いや、ONE君だけは違ったが、彼以外、エース級の実力を持つプレイヤーはいなかった。彼もあのプレイングではエースと呼べないしね。それなのに君達は、欧州一位、――言い換えよう、“僕らの為に作られたゲームで”、僕らと互角に渡り合えた。それができたのは、君達だけだ。それは個々の力などではない。ゲームの中でしか使えない、僕らには絶対できない戦術だからというだけではない」



 ゲームの中でしか行えない戦術。死んだ後の視点、チャットを用いた代弁者。死を前提とした突撃・死守。どれをしても、現実の軍隊なら不可能な戦術だ。ただしあれは、あくまで実力の差を埋めるための小細工に過ぎないのだ。そこまで評価されるほどのものでは、断じてない。



「僕ら軍隊に、エースはいない。それでもゲーム内では違うんだ、死んでもやりなおしができる環境だと、どうしても全員で一個体として動くより、一部の楔だけを強化して相手の薄いところだけを付けば良いという戦術を選ぶことになる。どんなチームもそんな戦い方をしていたから、そのエースの実力、エースが敵を何人殺せるかが、勝敗を左右した。君達は、そんなゲームで“戦争”をしていたんだ。現実で戦争をしている僕らより、遙かに戦術的な戦争を行っている日本人プレイヤーとその指揮官に、僕は憧れたんだよ」



 その憧れが思い込み、勘違いでしかないと伝えたところで、彼の感情は変わらないのだろう。

 彼がそう思っている。それだけで、彼には十分なのだから。



「君にとって、その役は自分ではないと思うかもしれない。それでも、僕らには君しか居ないんだ。どうか私達を使って頂きたい。この国を、北門に奪われることだけは、避けなければならないんだ。それが終われば、君の目的の手助けもできるはずだ。恐らく、無関係ではないのだから。この戦力を、どのように使ってくれても構わない。君の壁がどれだけ高くとも、我々は全力でそれを支援する」



 無関係ではない、オリヴィエは確かにそう言った。

 そうだ、私の目的は戦争を終わらせること。彼の言葉を信じるならば、北門派を残したままそれは行えない。内部に不穏分子を残してまで国を取ったところで、最後取り返されるのがオチだ。

 ただ一時戦争を止めるだけではいけない。他国に攻められず、他国にも攻め入らない。そんな状況に持っていくためには、この国の民を他国に売り渡す勢力が、残っていて良いはずがない。

 彼の意見も、もっともな話だ。



「私は、勝てる勝負しかしません」



 宣誓。これが、私の基本理念であり、絶対的な行動原理。

 勝てる勝負しかしない。負けて経験値稼ぎなど、死亡の数値が増えるだけだからといって、絶対に選ばない。それだけは、私のプライドが許さない。

 負けて当然、負けても経験になる――そんな考えは、真っ先に捨てさせた。勝つ気がない人間に、勝てる勝負なんてないのだ。個々の実力差は歴然なのだから、集団の思考で負けてはいけない。負けても良いと思う者が一人でも居ればそれは伝染し、勝てる勝負にも勝てなくなる。

 だから、勝てる勝負しかしない。勝つためにはどんな手段も使うし、負けないためにはどんな戦法にも手を出す。それが、私の指揮する集団なのだ。



「……ああ」


「勝てる状況を作れるなら、私が指揮をします。あなたの価値を、教えてください」



 私は、Eurocorpsを知らない。チームとしても、個人としても知識はない。

 だから知らなければならない。彼らの敵、そして味方について、全てを知らなければならない。



「ああ分かった。まず、我々はゲーム内でEurocorpsに所属していたプレイヤーであり、現実世界ではフランス陸軍に所属していた。こちらに来たおよそ50人は、皆が同じ経歴だ」



 ミリタリーオタクなチームメンバーなら、これに反応することもできたのだろう。

 私にとって、現実の職業が軍人ということは、あまり重要ではない。銃を使い慣れているというのはあるかもしれないが、現状、銃を持ってきただけのトッププレイヤーと大差があるとは思えないからだ。

 FPSの技術と現実で銃を操る技術は全く違うのだろう。それでも、こちらの世界でまだ銃を所持しているプレイヤーも、この世界における“チート”の中で銃だけを手に生きてきた者達なのだ。

 来たばかりで、自分の銃を不要と置いてきた私のような人間は少ない。弾がなくなり銃を手放した者は多いだろうが、それらを戦力として数えることはない。銃を手放した人間は、この世界で生きるのに、銃が不要だった者なのだから。

 この世界で生きることを決めたならば、銃は不要だ。銃さえなくなれば国に、世界に溶け込めるのだ。

 


「ケニーさんについて、教えてもらえますか? 銃を無数に流す割に、目的が見えなかった。情報屋のロッキーさんも、同じところに違和感を覚えていたようですし、私も結局正解は分からなかった。……だって彼、現地人ですよね」



 浮かぶ疑問。彼なら答えを知っているはずの、言い換えれば、この町に来るまでは、最も答えを知りたかった疑問でもある。

 ロッキーに披露した、私の推理が合っているとは思えない。可能性として、相手のリアクションを求めるための方便にすぎなかったアレも、当事者が居るならば直接聞けば良いだけのこと。



「確かにコストは高くついたよ。察しの通り、ケニーはプレイヤーではない。こちらで会った、現地人の協力者だ。彼と同じように、この国の流通拠点となる町には同じように銃を送っている。各町からの一斉蜂起を狙ってるように見せる意味もあったし、我々が銃を手放すことで警戒の目を逸らす目的もあるが、実際のところ、あの情報だけでここまで辿り着くプレイヤーが来ることを望んでいたというのは大きい。最後の理由としては、仲間をこちらの世界に呼ぶ“口実”だな。長距離移動を技術を持った者が欲しい、追加の銃が欲しい等、意味があったのかも分からない願掛けという面もあった。実際、こちらの世界に人を呼ぶための行動はいくつも行っており、どれが成功し、どれが失敗したのかも分からないほどだ」



 オリヴィエは、そう言葉を続けた。複数の目的、回答といえば回答だが、納得できなくはないギリギリのラインにすぎない。

 北門派からすれば、一度撃退した人間がチームの仲間を集めていると知れれば、まず間違いなく警戒をする。一点ではなく、複数による一斉蜂起を狙っていると見せかけることができれば、少しは警戒ラインを引き下げることができるだろう。

 情報の集約を行えば、Eurocorpsの仕業と見分けることのできるプレイヤーはきっと大勢居る。それでもあえてそれを撃退し、こちらに向かうプレイヤーが存在するなら、それは自分達の敵ではなく味方と成り得る。それも、理解ができることだ。

 最後、人を呼ぶ口実というのに関しては、私ではコメントができないものだ。祈る、願うなんて不確定のもので転移が成し遂げられるとはまだ信じていないというのがあるが、現に彼はチームメンバーをこの世界に集めることができている。全てが無意味というわけではないだろうが、彼も知らない別の条件を満たしているだけ、という可能性もあるからだ。だからそれに関しては、無意味だったか、意味があったのか、それを知る術はない。



「我々には指揮官がいない。やみくもな行動になってしまったが、これが君に害をなすとは思えない。確かに銃はいくつも手放したが、あと2回反攻作戦を行える程度には残っているよ。ゲーム内と違って、現実だと一人が持てる銃と弾の数などたかが知れている。手放したのは全て、残すほどの価値がなかったものだけだ」


「……それも、そうですね」



 ゲーム内では、確かに弾数における制限はほとんどなかった。重量制限がかかるのは銃と爆弾だけであり、弾丸はどれだけでも持ち込みができたのだ。それでも使い切れないほどの大量の弾薬を持ち歩くプレイヤーはほとんどおらず、使わない銃を持ち込むプレイヤーもほとんど居ない。機関銃を手にした私ですら、持ち込むのは300発程度だったのだ。近接戦闘を行うプレイヤーなら、どれだけ持っていても弾を使い切る前に死ぬ。

 それでも、それを持ち歩くのだったらどうだろうか。

 この世界に来た私は、まず弾薬箱の異常な嵩張りに辟易したのだ。少なめと思って持っていた弾でも、実際に手にして持ち歩くことを思うと異常に取り回しが悪い。荷物が多すぎて銃を撃つどころではなくなってしまうのだ。

 だから当然、この世界で銃を扱おうとすれば、持ち歩ける弾の数はゲーム中より更に少なくなる。彼の言っているのはつまりそれだ。一度に使い切れないほどの弾や銃があったところで無駄、その思考に至るのは、至極当然と言えよう。

 なにせ、彼は“その後”について考えていない。目的、価値観の違いだ。彼は銃を、弾を、全て使い切ってでも目的を達成すればいいと思っているから、それらを手放す選択肢を選ぶことができた。

 それを悪手と呼ぶことは、私にはできない。後を考え、量産を意識している私には、その選択肢自体が存在しないからだ。



「もし北門派に銃を奪われたなら、その時はその時だ。協力者が裏切った場合も、それはそれだ。君が必要と感じるなら回収にさせることもできるが……」



 オリヴィエのその提案に、少しだけ考える。

 今の目的に必要ないのであれば、確かに今回収するメリットは少ない。私の量産計画はもっと長期的なものだ。今必要以上に銃を抱えるのは、デメリットが目立つだろう。



「今は結構です。後で場所と送った銃だけ教えてもらえれば、回収は必要ありません。では今ここには、何があるんですか? やけにFA-MASを持ってる人が多かったようですが……」



 思い返してみるとこの町に来る前、フェムで馬車から降りたEurocorpsの男も、持っていた銃はFA-MASだった。そしてこの町で囲まれた時も、FA-MAS。

 偶然の一致とは思えない。Eurocorpsはもっと沢山の銃を持っているはずなのだ。


 オリヴィエは俯き、少しの思案の後、口を開く。


「スタナグマガジンというのは、知っているだろうか。あまりゲーム内で馴染みのある言葉ではないのだが……」


「……いえ、現実の銃器については無知なもので。どういうマガジンでしょうか」


「簡単に説明すると、複数種類の銃で共通のマガジンを使うことで、弾の取り回しを良くしたマガジンというわけだ。今残してあるほとんどの銃は、そのマガジンを使える銃だ。理由だが――」



 その説明で、十分だ。

 マガジンの共通化、ゲーム内では不要だったそのシステムは、銃を実際に扱うこの世界において、ある大きな意味を持つ。



「仲間が死んでも、そのマガジンだけを回収すればいい、ということですね」



 銃ごと回収するでは邪魔になる、皆が違う銃を使っていれば銃と弾をそれぞれ回収しなければならなくなるが、マガジンさえ共通化されていれば、最悪弾を死体から回収するだけで継続戦闘が可能だ。

 ゲームでは全く必要のないシステム、マガジンの共通化。それは実際に軍人である彼らだからこそ気付いたのかもしれないが、私にはない発想であった。



「ああ。同じマガジンを使えるというのは何かと都合が良いんだ。弾がなくなれば仲間から弾を貰うこともできるし、君の言ったように、銃の回収を後回しにできるというのもある。スタナグマガジンの規格は、かなり幅が広いんだよ。5.56x45mm弾を使うほとんどの銃が、同じマガジンを扱うことができる。もっともアサルトライフル用の弾だからそれ以外の用途には使えず、他の銃種を好む者は各々得意な銃を持っているわけだが……」



 共通マガジンの銃さえ持っていれば、仲間同士で弾の受け渡しができる。弾丸の補充が見込めないこの世界において、それは確かに重要なことだ。

 他の銃種というのは拳銃、散弾銃や狙撃銃がそれに該当するのだろう。そこまで大量に弾を消費する機会のない拳銃においては、弾の共通化はほとんど意味がないし、狙撃銃も同じだ。一度に何十発も連続して撃つサブマシンガンやアサルトライフルにおいては必要な弾丸の補充も、その他の銃ではあまり必要ではない。

 これがあるからこそ、彼は多くの銃を手放す選択が行えたのだろう。使わないものを有効に活用する、確かにコストが高くはつくが、目的のためなら些細な損失だ。



「それに、ゲームの外で僕らが一番使っていたのもFA-MASだったから、置換がしやすいというのはあった。……先程から何も喋らなかった君、そう君だよ。何か、聞きたいことでもあるような顔をしているね」



 オリヴィエが口を止め、私の背後を見る。

 そこに居るのはオトカワだ。部屋に入ってから何も喋らず置物と化していたオトカワ。

 視界に入らなかったから、オリヴィエに呼ばれるまで存在を忘れていた。



「あ、ああ、俺は乙川博ってモンだ。今はこの嬢ちゃんに着いてきてる。そこでちょっとばかし相談があるんだが……」



 先程までは自分にそこまで関係のない話だったから黙ってはいたが、銃の話となり、我慢ができなくなったのだろう。私には見えなかったが、相当挙動不審になっていたのをオリヴィエに気付かれ、若干申し訳無さそうに口を開く。

 確かに、まあ、彼の質問が通りそうなのは今くらいだ。



「ああ、何だい?」


「散弾銃、俺に融通しては貰えないだろうか。何、タダとは言わねえ。要らないかもしれねえが、今俺が使ってるガリルとその弾を提供する。確かこれも5.56m弾だから、スタナグマガジンが使えたはずだ」


「……確かに、それは我々にとって悪くない交渉だ。アルノー、何か余ってる散弾銃はあったか?」



 アルノーと呼ばれたのは、最初からこの部屋に居た男。私が声を荒げた時、ベレッタを構えたあの男だ。

 彼は突然自分に話を振られたことに驚いたのかリアクションが遅れたが、ピシリと綺麗な姿勢に直ると、はっきりと発言する。



「はい! 少尉! 使用者の居ない散弾銃は3丁残っています! イサカM37、スパス15、レミントンM870です!」



 男は叫ぶようにそう言った。

 想定しなかった大きな声に怯んだのは私だけのようで、振り返るとオトカワはこれまでに見たことがないくらい嬉しそうな顔をしているし、オリヴィエは「そうか」の一言で済ました。



「れ、レミントン!! M870とガリルは交換できるか!?」



 子供のようにはしゃぐオトカワ。散弾銃を主に扱っていたプレイヤーとしては、やはりライフルより散弾銃を持っていたかったのだろう。散弾銃を使わない私からしてみると何が違うのかもよくわからないが、イサカとレミントンがポンプアクション、スパスは箱型弾倉のセミオートだということだけは分かる。ゲーム内では散弾銃をメインウェポンとして扱うプレイヤーは機関銃手並に少なく、M16のアタッチメントとして使うプレイヤーの方が多いほどだ。

 私のチームにも、専属で散弾銃を扱うプレイヤーは居なかった。サブウェポンとして持ち込む者は確かに居たが、それだけを手にして戦うには明らかに役不足であり、重量制限の軽い銃を持っている者が、拳銃代わりに持ち込む程度だった。

 オトカワは、きっと違ったのだろう。一度も対戦したことがない以上知る由もないが、彼はきっと、散弾銃だけを手に戦っていたのだ。散弾銃手なのにこの世界で散弾銃を持ってないことを知られた時、あそこまで落ち込むのだ。そうに違いない。


 オトカワの言葉を聞いたオリヴィエは大声の男と目配せをし、大声の男、アルノーが頷くと、無言のうちに結論を出す。



「ああ、大丈夫だ。ただし弾数が多くはないので、そちらの提供できる弾数によって、こちらも提示したいと思うが……」


「いや……弾なら要らねえ」


「ほう?」


「弾はいくつも残してある。だから、とりあえず今は銃だけ貰えれば十分だ。ガリルの弾は35発マガジンが5つ残ってる」



 散弾銃は他の銃種と違い、ゲージと呼ばれる口径さえ同じなら、全く違うメーカーの作った銃でも同じ弾が使えるというメリットがある。

 オトカワが失ったのは銃だけであり、弾はずっと残していた、というわけだろう。確かに、サブマシンガンの弾を撃ち切って銃本体を手放した相澤と違い、オトカワの使っていた散弾銃はさほど連発できる銃ではない。なにせリロードにかかる時間があるのだ。

 マガジン内に弾が残ってようがフル装填を行うにはマガジンごと交換しなければならない一般的な銃とは違い、散弾銃はチューブマガジンと呼ばれる他にはない装填方式が採用されることが多い。一発ずつ装填ができるから一発撃って合間合間にリロードすることができる代わり、全てを撃ち尽くした後でも一発ずつ装填が必要だ。だからこそ、散弾銃はそこまで多くの弾を撃つことはできない。誰よりも近距離戦闘をする散弾銃にとって、大体は弾を撃ち尽くす前に自分が死ぬことになるからだ。



「……ああ分かった。今はそれで受けることにしよう。弾が必要になったらいつでも声をかけてくれ。こちらとしても損がない交渉だ」


「よっしゃ! 助かるぜ!」



 子供のように喜ぶオトカワを横目に、再度話し合いが行われる。

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