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夢想の形は銃弾で  作者: 衣太
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1

「あんまり、襲って奪うのはやりたくないんですけど」


「いや別に、殺すことはねえよ。死なない程度に痛めつけるだけだ」


「それ、あんまり変わらないですよね」



 オトカワと意見が割れたのは、一度や二度ではない。

 簡単に言えば、彼は異常に過激派なのだ。温厚とは言いがたい性格であり作戦自体は臆病なところもあるが、結局は銃という直接的な暴力に頼る。



「……あの、何の話でしょう」



 ナディアが横から口を挟んでくる。普段はこの会話にナディアが混ざることはないのだが、今回は特別だ。

 ロレンソを作戦に組み込むことを提案したら、オトカワが「じゃあ保護者も居るとこで話せねえと」とナディアを無理矢理同席させており、結果、あまり綺麗ではない話にナディアを混ぜることとなってしまった。



「ケニーさんの同郷の人が、そろそろこの町に来るみたいでね」


「それを捕まえて話を聞き出すって話なんだが……ちょっと、やり方が決まらなくてな。なんか意見ないか? ロレンソの兄ちゃんもよ」


「……特に」



 雑に返答するロレンソは、まだ完治したわけではない。本人曰くもう弓くらいは射れるとのことだが、近接戦闘になった場合、以前ほど動くことはできないらしい。



「えっと、まず捕まえる理由を聞きたいんですが……。もっと穏便に済ます方法はないんですか?」


「……それが、分かんねえんだよな」


「ならまず、戦闘の必要があるかを調べるとこから優先すべきではないんでしょうか?」



 ナディアの言葉に、オトカワは黙ってしまう。

 思考がすぐに過激な方向に進んでしまうオトカワでは、ナディアを相手にした会話は難しい。性質が、違いすぎるのだ。



「遠くから馬車で来ているなら、検問を超えてるはずです。検問なら過去の記録も残してありますし、まずはそれを調べるのはどうでしょう。荷物は分からなくても、何人居るかくらいは分かるはずです」


「……それもそうだな。ちょっと、行ってくるわ」



 全く反論することなく、しょぼくれた顔でオトカワは部屋を出る。ナディアを呼び出したのは彼でも、こうなることは全く予想していなかったのであろう。

 というより、本当に言葉通りに「保護者が居るところで話をする」程度にしか考えていなかった可能性もある。保護者ではなく主だが、完治していないロレンソを“使う”ことになるなら、確かにナディアに話を通さないといけないということは分かる。

 誰が調べに行くかという話になる前に彼が自主的に調べに行ったのは、ナディアとの会話をこれ以上続けることができないとの判断なのかもしれない。それもまあ仕方のないことだ。



「……ああ言いましたが、オトカワさんはどうやって調べるつもりなんでしょう」


「さぁ……」



 言ったものの手段を提案したわけではないナディアは少し申し訳なさそうな表情になるが、それは、何も決めずに出て行ったオトカワが悪いという結論に至る。


 その後、オトカワが戻ってくるのに、1時間もかからなかった。



「調べてきたぜ。いくつか町を経由してるが、乗ってる奴らの出身はケニーと同じファラで間違いねえみたいだ。人数は毎回2人だけで、書類上は毎回同じ奴らだが、同一人物とは思わない方が良いかもな」


「……それ、どうやって調べたんですか」


「暇してた奴を一人、買収しただけだよ」



 さらっと返される。綺麗な手段とは言えないが、まあ銃で脅すよりは何倍もマシだろう。正直彼ならそれもやりかねないと思っていた。

 写真がない以上、同じ名前、素性を名乗っていたら書類上は同一人物ということになってしまう。実際に同一人物という保証はないというオトカワの意見も当然分かる。



「名前はサック・アリアン、もう一人はアル・ツェヘド。書類上は行商ってことになってるが、この町で何かを売買することはなく、休息しているだけってことになってるな。その割に滞在期間は短いし、町を出たらとんぼ返り。まああんなザルな検問じゃ事実とも言えねえが、大っぴらに何かをしてるわけじゃねえってことは分かるな」


「行商、ですか。品物は?」


「金属と火薬。銃とはどこにも書かれてないが、まあこの組み合わせなら銃だろうな。俺らの世界の銃なら、この世界の奴らならそれを見たところで銃とも分かんねえ。っとなると、あの仮説は当たってそうだな」


「ええ。ケニーさんの持っていた大量の銃は、彼らが運んでいた、ということですね。ただ、理由は全く分かりませんが」


「それを調べるために捕まえるんだろ。傭兵も連れずに馬車で長距離移動してるような奴らだ。確実に銃を使えるぜ? そんなん相手に穏便に済ます方法、俺には全く浮かばねえが」



 確かに、オトカワの意見は最もだ。

 銃を持っているのなら、それを使える者が居るはずだ。二人ともが使えるとも限らないが、少なくとも片方は、野盗を追い払える程度には銃を扱えることになる。

 熟練度は分からない。あちらの世界の住人でないならそこまで上手くはないかもしれないが、ロレンソならともかく、私やオトカワには銃弾を回避するほどの反射神経も運動能力もないのだ。。

 相手がどれだけ下手だろうが、一発食らったらもう動けない。それならば、食らう前に撃つしかない。その結論に至るのは、オトカワでなくとも自然なこと。

 ただ、その選択肢を選ぶには、まだ情報が足りなすぎる。



「……なるほど、二人の意見が対立するのは分かりました」


「ナディアは全然関係ないのに、巻き込んじゃってごめん……」


「いえ。リカさんに関係あることなら、私にも関係有ることです。二人の意見が対立するのは、お互い折れるつもりはなく、二人しか居ないので多数決も行えないから、ですよね?」


「まあ、そうだな」


「じゃあ、私とロレンソも多数決に参加します。それなら多少は票が動きますよね?」


「いや、それもそうだが……ロレンソの兄ちゃんはまだほとんど動けねえんだろ?」



 オトカワに問われたロレンソは、少し下を向き、悩むような表情になる。いや、いつも悩んでるような顔をしているが、実際のところいつも悩んでるのかどうかは分からない。

 少しだけ黙ると、彼は回答を出す。



「相手が二人くらいなら、大丈夫だと。ただ、“あれ”借りても、良いですか」


「あれ?」



 ロレンソの発言した“あれ”が、咄嗟に何か分からず聞き返してしまう。

 えっと、ええっとと何度か言い淀むと、彼は小さく人差し指と親指を立て、残る3本の手を握るポーズをする。

 そのポーズは、あちらの世界でもよく見た。むしろ、その“物”自体よりもよく見たポーズだ。



「拳銃?」


「それです、あの時のあれば、相手が動いてからでもなんとかなるかと」


「あの時のって……ジェリコ?」


「たぶん、それです。前に撃ったやつ」


「ええっと、あれは……」



 記憶を掘り起こす。ケニーの家から見つけた銃は、ほとんどをアルフレドの工房に送り付けてある。

 拳銃もいくつか送っていたので、その中にジェリコがあったかを思い出さないといけない。銃があまりにも多かったから適当に振り分けてしまったが、こんなことならリストに纏めておくんだった。



「確かパラベラム弾がほとんど残ってなかったから、まとめて送ったような気がするが……」



 記憶の遡りが終わる前に、オトカワが口を開いた。

 オトカワの方が記憶力が良かったことに若干のショックを覚えるが、今はそんなことでショックを受けている場合ではない。



「というわけで、前の銃はないみたい。……他の拳銃ならいくつかあると思うけど、大丈夫?」


「……何発か撃たせてもらえれば、大丈夫かと。あ、でも……」


「でも?」


「なるべく初速が速いやつのが、助かります。遅いと投げた方が速いんで」


「……了解。ちょっと見てくる」



 投げるって、銃をだろうか。弾をだろうか。その答えはなるべく知りたくはない。

 初速が遅い銃より素早く物を投げられるとかどういうことだろうか。彼の運動能力なら冗談と言えないのが怖い。


 地下の小部屋へ向かう。

 ここは、最初に襲ってきた、譲治の住んでいた家だ。現状、唯一騒ぎに巻き込まれていない家であり、小さいが地下室があることを知ってからは、そこに残した銃を保管している。

 穴まみれになったケニーの家や、窓が割れたり銃撃戦の繰り広げられたオトカワの家よりも防犯上は都合が良く、彼の亡き今、借り住まいとして利用させて頂いているのだ。

 勝手に家を使い申し訳ない気持ちも無いことはないが、あくまで殺そうと襲ってきた人間に反撃しただけだと自分を納得させている。


 拳銃を物色。ロレンソに頼まれた初速の速い銃は、正直分からない。

 それでもゲームに実装されていた銃を見れば威力は分かるし、食らった時の体力ゲージの減り方、大体の射程から、おおよその初速を割り出すことはできるはずだ。

 ロレンソが扱う場合、恐らく反動はあまり気にしなくてよい。一応、ゲーム内にも実装されていた象撃ち銃――パイツァーツェリスカのような反動なら別だろうが、流石にケニーは持っていなかった。

 リボルバーと自動拳銃だとリボルバーの方が強力な弾丸を装填できる分威力は上がるが、それはあくまで強力な弾が撃てるというだけであり、銃自体の性能というわけではない。

 それを考えて、銃を選ぶ。まさかロレンソが銃を欲しがるとは思っていなかったので、彼が扱う前提の銃を残していなかったのが痛手だ。

 反動があまり強力すぎるものは、正直扱いに困るとほとんどをアルフレドの工房に送り付けてしまったのだ。



「んー、これはどうだろ」



 手にしたのは、ステンレスの光沢を放つ、銃身長めの自動拳銃。

 “44オートマグ”

 マグナム弾を使える自動拳銃という所謂“イロモノ”の先駆けとも言える存在であり、リボルバー並の威力、自動拳銃ならではの装填数、リロード速度を誇り、ゲーム内ではそれに加えて消音装置まで取り付けられるという優遇をされていた銃だが、あまり使用者は居なかった代物だ。

 理由は単純、何発かに一回、動作不良である“ジャム”を起こすから。一日中使っていても一度や二度あるかないか程度の確率らしいが、基本的にほとんどの銃器は整備さえ万全なら動作不良も装填不良も起こさないのにも関わらず、この拳銃は珍しく“万全の状態でもたまにジャムる”という再現がされており、通称は“オートジャム”。完璧を好むプレイヤーは誰も手を出そうとしなかったのだ。


 使うつもりはなかったがアルフレドに送らず残していたのは、簡単に言えば弾が無数に残っていたから。というより、未使用だったのだ。

 ケニー自身、手に入れてから一度も使っていなかったのであろう。銃身内部には煤などの汚れは全く付いておらず、弾薬箱も未開封の物が複数残されていた。

 弾があるなら何かに使えるだろうと一応残していたが、これくらい威力のある銃ならきっとアルフレドも納得してくれることだろう。


 オートマグを手に、3人の待つ部屋へ戻ると、話は大分進んでいるようだった。



「すみません、リカさんが戻る前に大体の話が決まったので、説明しますね」



 そう言い、ナディアは話し出す。



「まず、ケニーさんの家で私かリカさんが待ちます。オトカワさんには馬車が町に入ってからケニーさんの家に着くまでの見張りをお願いして、ロレンソはケニーさんの家の近くでどこかの物陰に隠れて貰います。最初に交渉を試みて、相手が銃を取り出したらロレンソの出番ですが、交渉になるようなら銃は無しで。そんなところでどうでしょう?」


「うーん……」



 私かナディアのどちらかが、銃を複数持っているであろう人間と対峙するのだ。

 流石に、戦闘能力皆無のナディアに任せるのは難しい。だが私ならどうにかできるかと言われても、別にそういうことはない。先に撃つことはできても、戦闘になって勝てるとは到底思えない。

 そこでロレンソの出番というわけだが、やはり、矢面に立つのは交渉を試みる人間だ。

 何せ、馬車で来る二人は知人であるケニーを殺されている。どんな関係かが分からない以上、即銃撃戦になるとも限らないが、十中八九ただの交渉で済むことはないだろう。

 交渉とはいえ、こちらから提示できるものは宝石類、つまり金しかないのだ。

 この世界において、あちらの世界の銃器は金では買えない価値がある。それを大量にケニーに流している以上、何らかの流通ルートを持っているとみて間違いないが、到底一人では扱えない量の銃を渡す理由は、今でも全く分からない。

 ケニーがよほどの有権者ならともかくだ。ただ、そんな人間が、町で強盗まがいのことをするだろうか。

 あれだけ沢山の銃器があるのなら、強盗に使う以外の利用方法があってしかるべきなのだ。



「一応、それで問題はないと思う。けどナディアは危ないから無しね。私が出るから」


「……ええ、ロレンソも、そこだけは譲りませんでしたから。では私は、留守番ということになりますね。特に、出来ることなさそうですし」


「うん、そうなるね。ええっと、じゃあ、ファラの人達がいつ来るかの予想に入ろっか」



 計画は、少しずつ進んでいく。







 馬車をよく見ているという、向かいに住むアラタ曰く、ケニーの家に馬車が止まるのは、ほとんどが夜中のようだ。

 流石に、銃の受け渡しを昼間からするにはリスクがあるからだろう。

 ただ、オトカワが検問から得た情報では、ファラの町から来る馬車は朝、もしくは昼間に町に着くことが多い。ほぼ一日待ってからケニーの家に来る以上、毎日検問を張っていれば容易に補足できるはず、という予想は外れることなく、こうして計画の当日を迎えている。



「チャットが懐かしい……」



 ケニーの家で一人で待っていると、ふいに言葉が漏れる。

 自分のチームでは、文字によるチャットが唯一の交流手段だった。ボイスチャットを禁止し、文字のみで会話をする姿は、チーム外からは異様に思えるらしい。

 ボイスチャットを禁止したのは自分の都合ではあるが、いつしか文字チャットを有効に使った戦術なども確立し、声による即応性という不利を帳消しにできる程度には皆の練度も上がっていた。

 声が聴けなくとも、皆が何を求め、何を行い、何が起きたのか、それらを逐一収集することはできるのだ。だからこそ、今は寂しく思える。

 声はない。チャットはない。情報もなくたった一人で待つ静寂は、ゲーム内でもソロプレイを嫌ってた私には、到底慣れたものではない。

 今から何が起きるかも分からないのに、それを話す相手が居ないのだ。

 相談する相手も、言いあう相手も、誰も居ない。

 静寂。一人で待つ。今、この世界には誰も居ないかのような錯覚を覚えるほどに、静かだった。


 あまりの静かさに眠気を覚えようとしていたところ、遠くから音が聞こえる。

 外は見ない。扉に耳を当てて音だけで判断。


 馬車だ。足音からして二頭立て、積載量はそれなりに多いのか、車輪の回る音は少し重々しい。

 石畳による段差で車輪が浮き上がるたび、微かに金属音が聞こえる。これは、“アタリ”だろう。


 馬車が家の前で止まり、人が降りてくる。

 ようやく、私の出番だ。

 電子チャイムなどはない。扉がコンコンと叩かれる音に従い、少しの時間を置いてから、叩かれた扉を開ける。手には何も持たず、腰の後ろにタウルスジャッジが一丁あるだけ。こちらに銃を向けられていたら、まず反撃が間に合わない状況だ。

 銃を持たず、ケニーに匿われている一般人を演じるという案もあったが、私が演じきれる気がしなかったので却下した。結局は正面突破だ。



「ケニーさんの、お知り合いでしょうか」



 何かを言われる前に、こちらから口を開く。会話の主導権は、渡してはいけない。

 扉の前に居たのは男が一人。見覚えのある軍服を着ているが、軍服は、この世界において一般的では断じてない。

 肩にスリングを通し、銃を一丁吊るしている。私を見た男は一瞬ピクリと反応をしたが、まだその銃には触れなかった。



「……ああ。君は、誰かな。彼に用事があるんだが」



 男は静かに口を開く。まだ、もう一人の男の姿は見えない。御者席には誰も居らず、この男が馬車を操っていたのが分かる。一人は荷台の中に居るのだろう。



「私はリカです。ケニーさんに襲われ、彼を殺しました」


「……そうか」


「それで、あなたたちを待っていたんです。サック・アリアンさんと、アル・ツェヘドさんのお二人を」



 名前を口にした瞬間、男は先程とは違った表情を見せた。ケニーの家から知らない女が出、訝しんでいた先程とは違い、今は小さく笑みを浮かべている。



「なるほど、我々は、待ち伏せされていたということか。ということは、君は一人ではないんだな。それで、どうする? 一応、君の望みを聞いておこうか」


「話ができそうで助かりました。望みは、話をすることです」



 男は一瞬キョトンとし、そして数拍後、笑い出す。



「はっはっはっはっは、何を言い出すかと思えば、話? 君は、我々が運んでる銃が目的ではないのか?」


「別に、銃は要りません。集めているのは情報です」


「うちのチームメイトが世話になったね。お詫びに、話せることなら何でも話そう。君は、何が聞きたいんだ?」


「あなた達――Eurocorpsの、目的について」



 そう言うと、男は笑みを一瞬にして消し、こちらを睨み付けるような表情へと変わる。

 やはり、アタリだ。一目、男の服を見た時に思い出したEUチーム、『Eurocorps』。

 ランキング上位チームにだけ許された特権をフルに使い、チーム専用でオリジナルの軍服を作り出している彼らと戦ったことはないが、それでも、噂はよく聞いていた。

 何せ、EUランキング1位のチームだ。国が違えど、噂は海を渡って飛んでくる。


 男の顔を見る。この国に住む人間より、更に堀が深く、顔は日本人に比べて縦長、肌の色素は薄く、帽子から見える髪は金髪。眉も金。脱色では、こうも綺麗な金髪にはならないだろう。



「……君も、プレイヤーか」


「ええ、そうですよ」


「韓国――じゃないな、この度胸、日本人か。驚いたな、日本では女もプレイしてるのか」



 男はジロジロと、見定めるようにこちらを見る。

 目を見ると、男がどこを見ているのか大体見当が付く。三度、腰を見た。恐らく、後ろに隠している銃の携帯に気付いたのだ。

 しかし、男は自身の銃――首から下げたサブマシンガン、FA-MASを手にしない。そして、もう一人の男も出てこない。



「日本の、しがないプレイヤーですよ。銃の供給先があなた達Eurocorpsなら、これだけ銃を持っていたことも納得です」



 男は返答をしない。まだ、こちらの素性を疑っているのだ。ケニーが殺されたと知った時以上に、自身のチームが看破されたことに警戒している。

 彼らからしたら誰かも知らないプレイヤーでも、チーム戦を嗜むプレイヤーなら誰でも知っているのがEurocorpsだ。その圧倒的実力は、サービス開始以来一度も1位から落ちたことがないという事実によって明らかとなっている。

 基本のチーム戦の他、EU関係のほとんどのイベント大会で1位を譲らない彼らは大量にレアな銃を確保しており、日本に実装されない銃のプレイ動画はほとんどが彼らの手によるものだった。



「多少の金なら出せますが、あなたたちが求めてるのはそれではないですよね。ケニーさんに銃を流していた理由を、教えてもらえますか?」


「……それを言って、我々に何のメリットが?」


「きっと、役に立ちますよ」



 ようやく口を開いても、男の訝しむ表情は変わらない。ただのハッタリだと思われていることだろう。

 しかし、男のチーム、反応から、大体の予想がついた。やはり、この役はナディアではなく私がやって正解だった。



「ケニーさん、チームメイトではありませんよね」



 男は口を開かない。



「ケニーさんは現地人です。そんな彼に銃を渡していた理由、そして、自由にやらせていた理由」



 少なくとも、ケニーは何かの命令があって強盗まがいのことをしていたわけではない。

 彼の意志、それも、一緒に行動する3人の合議によって、ケニーの行動は決められていた。どう思い、どう考えてそれに従っていたのだとしても、そこに、4人目、Eurocorpsの意志はない。



「訓練にしてはやり方が雑ですよね。こんな沢山の銃を渡したら、一つ一つの練習時間は短くなって当然。それに、行商で栄えている町ではそう頻繁に銃撃戦など起こるはずもないですし、この町には射撃場があるわけでもない。それでも、あなた達Eurocorpsが、ケニーさんに銃を流していた理由」



 初めて触る拳銃を、あちらの世界のトッププレイヤー並に扱えるロレンソのような“先祖還り”でもなければ、普通の現地人に銃を渡したところで、あちらの世界の人間の脅威とはならない。

 ただし、一方的に撃てる状況なら別だ。一対一の撃ち合いならプレイヤーに撃ち勝てない程度の実力でも、遠距離から一方的に撃つだけなら、プレイヤースキルの差など存在しない。撃ち合いに持ってくまでは、確実な有利を得るのだ。対戦中は常に射撃警戒をしていたゲーム中のプレイヤーならともかく、この世界に来て、ただ町を歩いているだけの元プレイヤーが、そんな警戒をしているはずもない。



「銃を手にした現地人の行動観察、それなら分かります。けれど、あなた達は3週間ほど前、ケニーさんが死んだことを知らなかった。ということは、観察はしていないことになりますよね」



 これも予想の一つ。何かしらの理由で、現地人の動きを知りたかった。ただし、この予想は浮かんだ時からあまり考えられなかった。

 それなら銃を1,2丁渡すだけならともかく、複数渡す理由には到底成り得ないからだ。



「残る可能性。チームメイトではなく現地人を使ったこと、それを殺されたと知った時の反応、銃の流入。――もう、一つしかありません」



 チームメイトでなければ、死んでも構わない。銃に関しては、様々な理由から使わない、もしくは有り触れたものしか渡さなければ、銃の操作技術が下回る現地人に全て持って反抗されようが、容易に討伐できる。

 思い返してみると、ケニーの持っていた銃器はどれもゲーム内では一般的な代物だ。使用頻度は比較的高い銃器がほとんどを占め、ごく一部に、誰も使わないような微妙な性能の銃があった。


 ゲームシステム上、“入手難度は高いが性能は抜群に良い”というものはほとんどなかったので、確信を持てるほどではなかった。

 強力な銃器は一般に流通しているものがほとんどで、使用頻度が高いイコール使い勝手の良い強力な銃なのだ。

 


「撒き餌ですね、これ。私はまんまと釣られたわけだ」



 となると、状況は一つに集約される。

 死んでも構わない人間に、失くしても構わない銃を渡し、人を撃つことを許可する。

 そんな理由は、たった一つ。



「あなた達は、ケニーさんを殺す人が来るのを待ってたんです。その理由は分かりませんが、彼の命を、その程度にしか思ってなかったことは分かります」



 推理の披露は終わりだ。以後は、男の反応を待つ。

 まだいくつか言葉は残しているが、今は発言する時ではない。男が口を開くのを、静かに待つ。

 それに、これが正解とも思っていない。現状で考えられる結論がこれというだけの話だ。



「よくそこまで考えられたものだね」



 私の言葉に返答をしてきたのは、目の前に居た男ではない。

 声は馬車から聞こえた。荷台、布で覆われた荷台から、男の声がする。


 バァンと大きな音が鳴る。紛れもなく、銃声。

 ただし、それは前に立つ男の持っていたFA-MASの銃声でもなければ、ロレンソの持つオートマグの音でもなく、私の持つタウルスジャッジの発砲音ですらない。



「これでようやく突破口が見えたよ」



 荷台から降り、銃を手にした男がそう言った。

 特徴的な外見の銃――リボルビングライフルを片手に持つ男は、言葉を続ける。



「会いに来て正解だったよ。僕の名前は香川六助、君と同じ、プレイヤーさ」



 その名前は知っている。その銃も知っている。

 実際に使われるところは初めて見たが、動画では何度も見た。研究などではなく、純粋な興味だ。彼本人が自身の記録を動画で撮り配信していたこともあり、彼の動画を見たことのあるプレイヤーは数えきれないほどに存在する。

 その銃を扱う日本人プレイヤーは、一人しか居ないと言われていた。



「ロッキーさん、ですね」


「はい次は正解。そういう君はリカさんだね」



 身長など私より低い。声変わりもしていないような声で話す、中学生くらいに見える少年。

 それがプレイヤー・ロッキーとの、初邂逅だった。

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