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夢想の形は銃弾で  作者: 衣太
脅威
21/35

6

 幸い、アラタ医院はすぐに見つかった。

 建物の中に明かりは灯っていなかったが、”緊急呼び出し”と書いてあるベルを鳴らすと1分もしないうちに男が出てくる。

 よれよれの白衣に眼鏡をかけた男は相澤を彷彿とさせるが、彼以上にやつれていたし、何より日本人ではなかった。



「怪我人が居るんですが、来て頂いても良いでしょうか」


「うん? うん、まあ、分かったよ。準備するからちょっと待ってね。数は?」


「重症二人に死者一人です。場所は向かいにある家なんですが……」


「あぁ、ケニー君とこね。さっきの音はやっぱソッチか。死んだのは誰? ジョージ君かな?」



 医師は、当然のように二人の名前を挙げる。表情に全く動揺が見られないところから、真っ当な仕事をしていないということは知っていたのだろう。

 こんな場面で真っ先に譲治の名前が挙がるあたり、各人の性格も把握していたと見える。



「ケニーさんは死にました。譲治さんも死んでます。重症はオトさんと、私の友人です」


「んーんーーー……?」



 彼は首をかしげる。私の返答に違和感を感じたのか、傾けた頭をそのままぐるぐると回してしばらくうなり続ける。



「あ、君、もしかして被害者の方? ああごめん、なんか勘違いしてた、うん、ごめん」


「……はい、一応」


「いやまさか、被害者が来るとは思ってなかったから……いつもなら、被害者を持ってくるのはオトカワ君だからね。えっと、治して欲しいのは君の友人だけでいいかな?」


「いえ……」


「ん?」


「オトカワさんも、お願いします」


「うーん……よくわからないけど、分かったよ。じゃあ二人分ね、人起こしてくるからちょっと待っててね」



 男は背を向けて医院に戻ると、大きな声で「ガイシャだよー」と声をあげる。こんな時間に起こされるのは、あまりに可哀想と言わざるを得ない。

 3分もすると、寝ぼけ眼で白衣を着た男を二人連れ、先程の男が戻ってくる。



「遅れたけど、僕は院長のアラタ。この二人は助手のウラ君とガン君。君の名前は?」


「リカ、です」


「うん、リカ君ね。じゃあ、歩きながら状況聞こうか」



 アラタはそう言うといくつか荷物を抱え、ケニーの家に向かって歩きだした。

 計3人で持っている荷物はかなり多い。てっきり運んで医院で治療するのかと思ったが、違うのだろうか。



「えーと、君の友人の状態は?」


「脇腹に銃弾が。見たところ、それ以外は大丈夫だと思いますが……」


「うーん……腹かぁ。抜けてるならいいけど、抜けてなかったら面倒だなぁ……」



 男は頭を書いてそう呟く。抜けているというのは銃弾のことを言っているのだろう。

 ある程度のサイズまでなら、銃弾は腹の中に留まるより貫通した方が処置がしやすいと聞いたことがある。PKMの弾丸サイズ、7.62x54mmR弾がそのある程度に含まれるかは分からないが。

 少なくとも機関銃の弾としては大きくはないはずだ。



「うわ、家の外も穴まみれじゃないか。よく撃つねぇ……」



 アラタは家の前に辿りつくと、3階を見上げてそう言った。

 釣られて見上げると、確かに外からでも分かるほどに壁に複数の穴が空いている。外まで飛び出した弾がどこに行ったのか、今は考えたくないほどに、穴まみれだった。



「こんだけ撃たれて、当たったのは1発?」



 アラタは振り返ると、私に疑いの目を向けてくる。

 1発、1発だったろうか。腹に複数当たった可能性も考えられる。私は、ロレンソの傷口を見たわけではないのだ。至近距離で放たれたPKMの弾丸に、1発しか当たらないなどありえるのだろうか。1発当たるなら、2発3発と当たっていてもおかしくはない。



「……だと、思います。すみません、確認してません」


「んー……ひょっとして、君の友人、還ってる?」



 還ってる、そうアラタは言った。

 還るとはどういうことだろう。複数の漢字が浮かぶが、帰るでも、返るでも、孵るでもない。この場合に考えられる“かえる”は、還るで間違いはないはずだ。



「えっと、すみません。還ってるって、何がでしょう」



 自動翻訳の精度を考えてしまう。これまでこの翻訳は正しいものとして聞いていたので、状況ではなく、単語として理解できないのは初めての経験だ。



「いや、あー、うん、分からないんなら良いよ。ごめんね、見れば分かるし」



 質問はそれだけだったのか、アラタはそれだけ言うと家の扉を開け、迷うことなく3階へ進んでいく。

 還る。その言葉の意味を考えていると、すぐに3階へ辿り着いた。



「あー。これ、完全に逝っちゃってるね。ロクな死に方しないよって、何度も忠告したのに」



 部屋に入るやいなや、アラタはそう呟く。やはり、既知だったのだ。

 それにしても、アラタの様子は変わらない。知人が無惨に死んでいれば涙はないにせよ何か思うところはあるはずなのに、彼の反応はそれだけだった。


 それどころか。



「はいはい邪魔だから退いてね」



 横になっていたオトの顔面を蹴った。力は入ってないだろうが、別に加減もしてない勢いで蹴った。

 明らかに無事ではない人間を、蹴った。傷口を直接蹴ったわけではないと思いたいが、本当に医者なのだろうか、この人は。



「いってェ!!って、なんだ、先生かよ」


「ほら生きてる。元気あるなら退いててね、邪魔だから」


「いや、生きてるけどよ……」


「はい、生きてるならよろしい。オトカワ君の治療は後でするから退いててね。横になってて邪魔だよ君」



 片目完全に潰れてる重症人の扱いではない。蹴られたオト、いや、オトカワも大人しく壁際に寄って横になるし、この医師は何なのだろうか。

 強盗業をしている彼らと既知であり、死体を見ても反応が薄い。後ろについてきた助手の二人も特にリアクションはしていないようだし、あまりに死体に慣れすぎではないだろうか。

 あちらの世界より死が近い存在とはいえ、これはあまりにも“慣れ”すぎている。

 彼らも、普通の町医者ではないのかもしれない。



「ガン君はケニー君をモルグまで運んでおいて。こぼさないでね」



 ガンと呼ばれた助手の男は「はい」とだけ返すと、幅1m程度のラップのような物を取り出し、それでケニーを巻きだした。ぐるぐる、ぐるぐるとラップのようなフィルムで巻き続ける。

 フィルムは重ねるとぴったりとくっつき、まさに巨大なラップといった具合だ。こうすることで、内臓や血を“こぼさないように”運ぶことができるのだろう。


 アラタはロレンソの前に座り込むと、彼の顔をぱちぱちと叩く。反応を見るためなのだろうが、かなり荒っぽいように思えるのは気のせいだろうか。

 ロレンソがゆっくり目を開くと、その瞼を押さえつける。流石のロレンソも驚いたようで、手や足が持ち上がるほどの明らかな動揺が見えたが、アラタは一瞬でそれを抑える。アラタがロレンソの体を抑える時の動作は、目を離していない私でも目で追えないほどの速度だった。

 ロレンソは正面の男が白衣を着ていること、私が後ろに立っていることに気付いたのかしばらくすると大人しくなるが、一瞬の抵抗は、明らかに加減などしていない動きだった。それを、アラタは抑えたのだ。

 この世界の戦闘員、明らかに肉体的スペックの高い人間であるロレンソの動きを、ただの医師が抑え込むことなどできるのだろうか。



「ウラ君手伝って。これ運べないからここで処置する。とりあえず麻酔」


「はい。種類は……」


「これ、やっぱ還ってるよ。一番強いのね。そうじゃないと効かない」


「分かりました」



 再びアラタが口にした、“還ってる”という言葉。翻訳ミスとしか思えないほどにその単語は私の知っている日本語と結びつけることができず、彼が何を言っているか理解することができない。

 しかし、二人の会話に気になることがあっても、今の彼らに口を出すことはできない。



「1時間くらいはかかるから、リカ君はオトカワ君の相手でもしてあげて。ウラ君、リカ君にPT03を」


「はい」



 ウラと呼ばれた助手の男は、先程麻酔を取り出した鞄から小さなタブレットケースを取り出し、私に渡してくる。パッケージには、先程アラタの口にした“PT03”という文字が刻まれているが、それだけだ。

 裏面を見ても効能などは書いていない。



「リカ君、とりあえずそれ、オトカワ君の口に一錠ねじこんどいて」



 アラタはこちらを見ずにそう言ってくる。

 タブレットケースをスライドすると小さな白い錠剤がいくつも入っているのが見て取れる。これを、オトカワに飲ませろと言っているのだ。


 とりあえず一つ摘まんで躊躇してると、オトカワの目がゆっくりと開かれれる。



「あー……大丈夫だ。それ、自分で飲むから」



 オトカワは横になったまま、ゆっくりと手をこちらに向けてくる。口にねじこむのには抵抗があったので、ありがたく手の平に一錠。

 一体、これは何の薬なんだろう。オトカワは知っているから、こんな躊躇いなく飲めるのだろうか。

 オトカワは白い錠剤を口に運ぶと、すぐにかみ砕く。そうやって飲むのか、これ。錠剤は水で流すものだとばかり思っていたが、そういうものではないのかもしれない。


 カリカリと錠剤をかみ砕く音が聞こえる。そうしてしばらくするとオトカワは上半身だけ起こし、壁にもたれる。動作は緩慢だが、今すぐ死ぬことはなさそうだ。



「……目、大丈夫なんですか」



 声をかける。オトカワの残った左目はまだ焦点が定まっていないが、近くで座り込んで声をかけたところで、ゆっくりとこちらに目を向ける。



「目? いや、見えてるが」


「……はい?」


「ん? あァ、右目か。右目な。これ、元から見えてねェんだよな」



 彼は、残った眼窩を指さしてそう言った。見えていない、と。



「元から、ですか」


「あァ。もう随分前から見えてねェ。そこのニイちゃんに撃たれるより前からな。いつだったか、もう2年くらいは経つと思うが……いや、もっと言えば、10年前かな」



 彼が片目を失っても普段通り動けたのは、つまりそういうこと。片目で外を見るのは慣れたものだったからだ。

 弾丸は彼の見えない目をかすり、耳まで抜けただけ。元からなかった視力ならば、目ごとなくなっても問題はなかった、ということだろうか。



「2年と10年って、だいぶ違うと思うんですが」


「んー……それもそうだな。忘れてくれ。2年くらい前だよ、見えなくなったのはな。強盗になる前だな、ちょっと悪さしてたら怖い衛兵さんに見つかって、スパっとやられてな。……あれ以来、銃を撃つのに躊躇わなくなったんだが」



 彼の言う悪さというのは、強盗のことだろう。時間的には、ケニー達と会う前なのだろうか。

 彼は、ある種のリミッターが外れるまでは、この世界で人を撃つのを躊躇うほどには善良な日本人だったのかもしれない。


それでも悪さはしていたのだから、善良とは言い切れないが、少なくとも、初めから躊躇わなかった私よりはマシだ。あの時の私は、誰が相手でも撃っていたことだろう。

 彼の射撃に躊躇がなくなったのは、最初は恨みだったのかもしれない。片目を失くした恨み。この世界の住人、この世界の兵隊の、肉体スペックに対する恨み。それに対抗する武器が自分には銃しかないと知れたから、それに躊躇がなくなった、ということか。



「だから、というより、俺の目に関して、アンタらに全く恨みはねえよ。元から見えてなかったモンが、丸ごとなくなっただけだからな。そりゃ、痛ェがな」


「……そうですか」


「そうだよ。あァなんでもいいから、話付き合ってくれてるか。意識がトびそうで、やべェ」



 そう言う彼の息は荒く、横になっていた方が良いと思えるほどだが、それでも彼は一度座った姿勢から動こうとはしない。

 この状況で命に別状がないなら意識を失っても良いと思えるが、彼がそれに抵抗するのは、先程飲んだ錠剤に何かあるのだろうか。



「分かりました。いくつか、質問良いでしょうか」


「まァ、答えられることならな」



 彼への質問を考える。

 最悪、ここで別れるかもしれない男への質問だ。何か一つでも、参考になる情報が欲しい。

 ならば、彼自身のことではない、もう死んでしまって喋れない人間のことを聞くべきだろう。



「譲治さんとケニーさんも、ゲームプレイヤーなんですよね」


「譲治はそうだ。ケニーは……どうだろうな」


「……どういうことですか?」


「ケニーの奴、プレイヤーじゃなかったかもしれねェ。まァこんなこと、信じてもらわないでも構わねェが」



 プレイヤーじゃなかったかもしれない。それが“かもしれない”のは勿論、当人がもう亡骸になっているからだが、そう思うに至った理由は何だろう。

 そもそも、彼は銃を持ち、銃を扱えるのだ。

 アラタの助手、ガンによって既に遺体は運び出されている。彼の顔をちゃんと見たわけではないから、顔が日本人だったかどうかは分からない。

 金髪だったというくらいしか、彼の顔の特徴は覚えていない。



「日本語喋ってるし、銃にもそれなりに詳しかったから直接聞くことはなかったんだが……まァ、それが気になって、プレイ期間とかの話をすることはなかったんだよな」


「……? ちょっと待ってください」



 彼の言葉に口を挟む。気になることがあったからだ。



「日本語を喋ってるって、どうして分かったんですか?」



 今から2時間ほど前、経験したことだ。

 自動翻訳機能が働くと、この世界の人間が何語を話しているか分からないというトリックにより、現地人であるハントに日本人と知られてしまったこと。

 その経験を踏まえれば、分かること。

 ケニーが日本語を話していた保証はないのだ。

 私が彼の声を聞いた時間は短い。「もーいーよ」というあの声かけが、日本語だったとは言い切れない。その言語が何語だったかどうか、分かった人間は存在しないのだ。

 ロレンソに聞いても、彼はミラン語と答えることだろう。この国では最も一般的で、母語話者が最も多い言語に聞こえたはずだ。



「……待ってくれ、それ一体、どういう意味だ? 日本語で話してるだろ、俺ら、今よ」


「確かに私とオトカワさんは日本語で話してますが、他の人にとっては違います。簡単に言うと、私達の日本語は、今この場ではミラン語、この国の公用語で話してるように聞こえてるはずです」



 彼は、言語翻訳機能を知らなかった。はじめの私と同じように、この世界の住人は日本語を使っていると思っていたのだ。

 だから思考に及ばなかった。日本語が通じる銃を持った人間が日本人だと、無条件で決めつけてしまった。



「……どういうことだ? 確かに、日本語が通じるなんて都合が良いと思ってたが」


「翻訳がどうやって働いているのか、原理も理屈も分かりません。ただ言えることは一つ。ケニーさんがミラン語しか話せない現地人だとしても、全て日本語として聞こえてしまう私達は、それを認識することができません」


「あァ……ちょっと……あァ…………そういうことか…………」



 しばらく唸ると、彼もそれなりに理解はしたようだ。

 2年間住んでいても、言語問題に突き当たらない可能性は0とは言えない。相澤もこのことに言及していなかったから、気付いていなかった可能性もある。

 私が気付いたのは、偶然ナディアが「ミラン語」と口にしたからだ。そして、彼女が複数言語話すことができたから。最後に、ハントが私に話しかけたから。

 様々な要因があり、私はそこに行きつくことができた。しかし、オトカワは違ったのだ。



「ケニーがミラン語? ってのしか話せなくても、俺には日本語に聞こえてたってワケか」


「そういうことです。……顔、日本人でした?」


「……そういえば、割と違ったな」



 彼はポンと自分の頭を叩く。これまでも疑っていたが、最後のピースが嵌まっていなかったのだ。

 というか、日本人顔じゃなければ気付け。金髪なのは地毛なのだろうか。この世界においては、地毛が金髪の人は珍しくはない。少なくとも日本で脱色して金髪に染めてる人よりは明らかに多い。



「ケニーさんが日本人じゃなかったとしたら、銃はどこから持ってきたんでしょう」


「そう、それ!それだよ」



 オトカワは思い出したかのように大きな声を上げる。後ろで治療に没頭していたアラタが振り返るほどに大きな声。すぐに治療に戻ったが。



「あいつが現地人だとすると、同じ銃を持ってたはずがねェ」


「作ったとは思えないので、盗ったか買ったかでしょうか」


「買った……ってのは、ないかもな。だってアンタ、弾残ってる状態で、持ってきた銃売る奴が居ると思うか?」



 そう問われ、少し考える。相澤も銃を撃ったと言ったが、それは弾がなくなったからだ。

 この世界で唯一自分たちに許された武装である銃を手放す理由といえば、それしかない。

 弾がなくなり、補充の目途がたたなくなった時だ。

 それならば、弾が残ってる状態で銃を売る人がそこまで多いとは思えない。私はこちらに来たとき、日銭の為に売ろうとまで考えたこともある。他の日本人も同じことを考えた者が居たかもしれない。それでも、メインウェポンを売ろうとまでは考えないはずだ。

 可能性が0とは言えない。だが、数少ないその銃を、偶然手元に複数集めることなど可能なのだろうか。



「……ないですね」


「そういうことだ。ケニーの奴は初めて会った時からいくつも銃持ってやがったし、その後もどんどん増えてった。赤外線スコープみてェなゲーム内になかったモンも後から持ってきたし、どう考えても、おかしいんだよな」


「ですね。ここ、そんなに日本人来るんですか?」


「いやァ、来るかもしれねェが、別に俺達は門番やってるわけでもねェ。半年に1人見れば多い方だよ」


「……その全てから、銃を?」


「いいや違う。標的選ぶ担当が俺かケニーの時は、銃持った日本人なんか狙おうとしなかったんだよ。知識もあるし反撃もしてくる奴らより、何も知らない現地人のが良いだろ、どう考えてもな」



 それもそうだ。この世界において戦闘員は明らかに強いが、そのほかの一般人のスペックはあちらの世界の一般人とそう大差ないように思える。

 運動能力も、動体視力もだ。一般人にとっては銃弾を避けるなんてもってのほかであり、そもそも、人に向けて撃つものではないという発想がある。ならば、カモは間違いなくそちらだ。

 私が標的になったのはこちらの世界でナディアに出会っていたこと、標的を狙う担当がハイリスク派の譲治だったことが大きいのだろう。



「日本人を狙ってないはずなのに、ケニーさんは銃を増やすことができた、ってことですよね」


「そうなるな。アイツ、町の外に出ることなんて滅多にねェし、出ても数日で帰ってくる。それなのに、気づいた時には銃が増えてんだよな」


「……その、増えた銃って」



 ケニーの亡骸があったあたりを見る。

 血だまりの中に、見覚えのある銃の残骸。片方はPKM、もう片方は、M110だろうか。

 両方とも、中央あたりからぽっきりと折れている。普通に銃を撃ってあんな折れ方するわけもなく、十中八九、ロレンソがやったのだろう。

 どちらも使い物になるとは思えない。ただ、彼の持っていた銃器はこれだけではないはずだ。



「この家のどっかにあると思うが……俺は普段ここには来ないから、詳しくはねェんだ。勝手に探してくれ」


「……分かりました。でも急ぎではないので、明日にでも探しに来ようかと思います」



 正直、今複数の銃を見つけたところで、それを持ち歩くのは邪魔なだけだ。

 この家、家主は居なくなったが、すぐに解体されることはないだろう。数日は放置しておいても大丈夫のはずだ。

 仮に隠してあるなら捜索は時間がかかりそうだし、ならばやはり夜より朝から動いた方が良いと判断する。



「そんときゃ、手伝うぜ。ってなんだ先生、そっちの、もう終わったのか?」



 見ると、ロレンソの治療をしていた二人が立ち上がっている。

 ロレンソは目を開いていないが、それは恐らく麻酔の影響だろう。



「大体はね。ここから先はこんな汚いとこじゃなくて清潔な病院でやろうと思うから、うん。一応、オトカワ君も来てね? 縫合くらいはしてあげるから」


「一応って……。まァ頼むよ、先生」


「うん、まあいいけど。オトカワ君の分の担架はないから自分で歩いてきてね」



 結構重症に思えるが、やはりオトカワの扱いは雑なままだった。錠剤の効果か呂律は回るようになっているが、それでも彼の体調はとても万全とは言えない。喋ってる最中、床に座った姿勢からほとんど動こうとはしていなかったし、今もとても立ち上がれそうには思えない。彼も「あ、あァ……」と返す程度だからきっと大丈夫なのだろうが、これは肩とか貸した方が良いのだろうか。



「じゃあリカ君も、病院着いてきてね」



 ロレンソは担架に乗せられ運び出されるので、それに着いていく。

 オトカワは自然な流れで放置されたが、きっと大丈夫なのだろう。いや、大丈夫だと信じたい。

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