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夢想の形は銃弾で  作者: 衣太
邂逅
13/35

5

「僕以外の日本人? そうだなあ……最初に言ったけど、僕と下條さんを入れて6人しか会ってないんだよね。つまり2人除くと4人。下條さんみたいに日本人を探そうとは思ってなかったというか、他に日本人が居るとは思ってなかったんだよね。質問に質問で返して申し訳ないけど、下條さん、いつから他に日本人が居るって気づいたの?」


「えっと、来て2日目、ですかね? 日本人というか、あちらの世界の人が他にも居るんだな、くらいでしたけど」



 あの村の鍛冶屋、いや、アルフレドの作った銃を見た時、居るであろうと思ったのだ。

 確信というほどでもない。ただあまりに、銃の形が近すぎたから。ネットで見たマスケット銃にあまりに酷似していたそれは、偶然の産物とは思えなかったというだけの話。

 その時点で日本人が居ると思ったわけでも、まさかゲームプレイヤーだけが来ていると思ったわけでもない。



「うわっ早いねー……えっと、なんだっけ、そうだ、他の日本人だよね。4人のうち2人は、今どこで何をしてるか知らないね。1人は死んで、1人は王都に居るはずだね。ええーと、何だったかな……どこかの情報屋で働いてるとか言ってたけど、ごめん、店の名前までは覚えてないね」



 「1人は死んで」と、彼は当然のように死を口にした。

 あまりに話の流れで言うものだから、聞き逃してしまうところだった。しかし、追求して良いものなのか分からない。

 彼が流したということは、聞いてはいけないことのような気もするからだ。



「死んだ人について、聞いても良いでしょうか」



 それでも、知識欲は上回ってしまった。彼の言葉を遮るように、口を開く。

 相澤は少し驚いた表情になったが、ポリポリと頭を掻きながら返してくれる。



「最初に会った、男の子だったよ。歳は高校生って言ってたな」



 ポツリポツリと、話しだす。聞いてはいけなかったことだと分かっていても、彼が話してくれるなら、それを遮るつもりはない。



「彼も、僕が最初に見た日本人だったみたいでね。偶然会って、一週間くらい一緒に居たんだけど、ある日突然言ったんだ。「リスポンがあるか、知りたくないですか」ってね」



 リスポン。それはFPSにおいては、死んだ後に体力を全回復して復活することを表す、一般的な用語だ。

 一度死んだら復活できないルールもあるが、何度も死んで死んだ数の少なかった方が勝利というルールもある。同じ場所で復活するとそこを狙われることがある為、マップ上のほぼ全ての場所にランダムで復活することが多い。



「彼がこの世界に来た時に最初に居たって教会に行って、そこで彼は、持ってた拳銃で自殺したんだ。リスポンは、なかったね。まあ、彼もそれは最初から感づいてはいたみたいだし、今思うと、彼の役目は“それ”だったんじゃないかなって、思うんだよね」



 それ。つまり、彼は死んでも復活が効かないことを相澤に教えるために、この世界に来た、ということ。

 悲しい話だ。それでも、私はその“彼”に会ったわけではない。同情するつもりもないし、悲しむ道理もない、そう考えてしまうのは、非情なのだろうか。



「彼のお陰で死んだら終わりってことが分かったわけだし、彼の死は無駄ではなかったと思うよ。この世界、思ったより危険だしね」


「……それは、思います」



 野盗に襲われた時のことを思い出す。あの時は村の人が殺されるようなことはなかったが、人身売買がもう少し盛んになっている土地、地域なら、殺されるより酷いことになった場合もある。村人に死者が出ず、誘拐をされることもなかったのは、ただの偶然だ。

 銃は進歩していなくとも、日本より安全ということはない。むしろ、銃がない為により危険な世界だ。

 自衛手段すら必要がなかった平和な世界ではない。この世界では、身を守れない者がどうなるか、分かったものではないから。



「今どこに居るか分からない2人については、ごめん、ほとんど情報はないな。ただ――」


「ただ?」


「皆、銃の扱いはとんでもなく上手かったね。2人がまだ生きてるとしたら、君みたいに“何か”をしようとしているか、それとも、成し遂げた後かも知れない。僕みたいに、すぐ弾切れをおこすような計画性のなさも感じなかったしね」



 計画性というよりも、持ってきた銃の問題かもしれない。

 彼が成すべきことがこの町で薬屋を営むことだったならば、銃はなるべく早く手放した方が良い。その為には銃弾は早くなくなり、補充の機会を与えないべきだ。銃を手放すことで自衛手段はなくなるが、それによって、彼はこの世界の住人と成り得るのだ。銃を持っている異物などではない。あちらの世界の薬学の知識を活かせる一般人へと、彼は変われたのだから。



「その人達は、どんな銃を使ってたんですか?」


「男の子がAUG、銃の上手い2人はSCARと89式小銃。そういえば89式小銃の人は現役の自衛隊員って言ってたね。それで僕がウージー。規則性はそこまで感じないかな? あっ忘れてたけど、王都の情報屋で働いてるって言ってた人、リボルビングライフル使ってたんだよ? プレイヤー名を直接聞いたわけじゃないけど、日本人でリボルビングライフル使いなんて、1人しか浮かばないよね」



 AUG、SCAR、89式小銃、どれもが一般的なアサルトライフルであり、特別驚くことはない。

 ただ、リボルビングライフルは別だ。

 ゲーム上はアサルトライフルという括りになっているが、“コルトM1855”通称リボルビングライフルは、厳密にはアサルトライフルなどではない。リボルバーと同じ回転式弾倉のついた、しかし拳銃ではない、小銃だ。



「個人ランク、3位の人ですよね」


「そうそう、ロッキーさん。僕がこっちに来てから君が来るまで1年以上経ってるのに、彼まだ3位だったんだ。凄いなあ……」



 プレイヤー名“ロッキー”。それは、誰もが使わないリボルビングライフルを使って、チームに所属せず活動していた有名なプレイヤーだ。

 ポイントによるランキング制となっているチーム戦とは違い、個人ランキングは単純に敵を殺した数であるキル数と、敵に殺された数であるデス数のみをカウントし、毎週末に順位が発表される仕組みとなっている。

 個人ランキング上位のプレイヤーはそのほとんどがキルを増やしやすいランダムデスマッチというルールを好んでおり、自分以外全てが敵の乱戦を得意とするプレイヤーが多い。


 リボルビングライフルが日本人プレイヤー“ロッキー”の使用武器として有名な理由は、彼の卓越した技術以上に、クローズドβテスト時に行われた大会の景品として正式オープン時に配られたきり、入手手段が存在しない武器であるという一点に集約される。

 それがつまり最古参プレイヤーであるという証明だ。

 ただし、希少価値があるのは日本人プレイヤーにとっての希少価値であり、海外の大会では何度も配られ、攻略サイトには詳細も載っている。

 曰く、大口径の拳銃弾を使っており近距離の殺傷能力は高いが、長銃身により取り回しが悪く、それなら近い口径のハンドガンや散弾銃で充分のロマン武器と言った扱いだった。

 あのゲームは、そのようにあまり実用性のない銃を大会で配ることが多い。強い銃というのはワンオフではなく使用率が一番高い銃であり、それはごく一般的なアサルトライフルが占めている。

 AUG、SCAR、89式小銃のどれもがゲームをある程度プレイしていればショップで買うことができる銃であり、使用率ランキングでも常に上位に位置していた銃達だ。


 それでも一部にはほとんど誰も使わないマイナーな銃で活躍するプレイヤーがおり、誰も真似はしないが尊敬はされる、という立場になっている。ロッキーはまさにその典型だ。

 チーム戦しかプレイしない私は交流したことはない。それでもインターネット上では人気のプレイヤーであり、ファンも大勢居ると聞く。

 そんなプレイヤーがこの世界に居るということは、あちらの世界では私より後に、こちらの世界では私より前に居るということになる。

 頭がこんがらがってしまう。相澤と私だけで比べるとこちらの世界は時間が進む速度が速いというだけで済むが、ロッキーに関しては私がプレイしていた時点で現役だったプレイヤーだ。

 一体、いつ、どのタイミングでこちらに来ているのか。彼は、私からしたら未来人ということになるのだろうか。



「その人が、一体いつからこの世界に来てるか、聞いてますか?」


「僕よりは前に来てるんじゃないかな? 随分、この国のことに詳しかったし。最後に話したのも2年以上前だからね」


「……つまり」


「そう、下條さんよりも未来人の可能性がある。下條さんからしたら驚きだけど、僕からしたら下條さんも未来人だからね。今更驚くことではないんだけどね」



 あまり気にすることではないのかもしれない。こちらの世界に居るからといって、あちらの世界の存在が消えたとも限らないのだ。

 連絡手段がない以上、それを確認することはできない。私よりも後の時代から私の知り合いでも来れば話は別だが、そんな偶然はありえないだろう。

 彼はこちらの世界で4年間生きているのだ。町から出ていない期間が長いとはいえ、それでも5人としか会っていない。その中に偶然知り合いが居る可能性など、限りなく0に等しい。



「だから、たぶんね。あちらの世界とこちらの世界は、全く違う時間軸にあるんだと思う。並行ならロッキーさんのような存在が居るはずがないからね。あんまり、気にしないほうが良いと思うよ?」


「そう、ですね。……そうします」



 時間のズレは確かに気にはなるが、それでも情報が少なすぎる。この情報の精査に必要なのは、あちらの世界で面識があったプレイヤーが、互いに異なる時間において、こちらで合流することだ。

 天文学的とは言えないが、あまりに低い確率と言える。相澤の言うとおり、気にしない方が良いのだろう。



「そうそう、彼、ロッキーさんってことにするけど、ロッキーさんね。この世界でも弾の補充ができる人なんだよね」


「……え?」


「M1855は名前通り1855年に出た銃だからね。その頃って、金属薬莢が実用化される前なんだ。一応ゲーム上では同口径の拳銃弾が装填可能だけど、実銃はネイビーリボルバーと同じパーカッションロック。シリンダーに薬莢じゃなくて直接火薬と弾を詰めて、後ろに取り付けた雷管で着火する仕組みなんだよね。つまり、物さえ揃えばロッキーさんは弾切れの心配をしなくていい、ってことになるね。古い銃の利点、ってことかな」



 金属薬莢が発明されたのがいつかは知らない。今まで考えていなかったが、確かに、どこかで火縄銃のように火薬と弾を銃口から詰めて着火する仕組みが、弾1つで完結するようになる変化があったはずだ。

 ゲーム上の仕様以外をあまり気にしていなかったのが悔やまれる。

 その変遷の途中、火縄銃が金属薬莢になる間の銃ならば、この世界でも常用できるということになる。何せ、同じものを使っているのだから。

 ただ、1つだけ彼の発言に気になる点があった。聞き逃してはいけない、大事な点だ。



「雷管は、この世界にもあるんですか?」



 雷管というのは、発射薬と比べて起爆しやすい火薬を金属の塊に内包した部品であり、ハンマーがそれを叩くことにより発火、発射薬に引火し、弾丸を発射する為の物だ。

 火縄銃のような、起爆剤の代わりに火花を使用する仕組みの銃しかこの世界には存在しないと思っていた。

 だが、雷管があるなら話は別だ。雷管があるならば、金属薬莢を量産することが可能ではないだろうか。



「うん。ロッキーさんは普通に持ってたからね。僕らと同じようにゲーム内の装備だけを持ってきてるなら、雷管を持ってるはずはない。だって、ゲーム内のリボルビングライフルは、金属薬莢を使われてたからね」



 そういうことだ。リボルビングライフルをこの世界で常用する為に必要な雷管を、ロッキーがこの世界に持ってきているはずがない。

 雷管だけというアイテムなど存在しなかったのだから当然だ。

 つまり、雷管に関しては、この世界での量産が可能ということになる。


 しかし、雷管があるというのは何故だろう。

 ロッキーが作らせているのか、誰かが作っているのを買っているのか。元々存在したならば、金属薬莢がないのは何故か。

 雷管だけを持ち込むことができない以上、金属薬莢をこの世界に持ち込んだ人間がそれを分解し、雷管だけを量産ペースに載せたと考えるのが自然といえる。

 その理由は何故なのか。今の情報から分かることは少ない。

 それでも分かることがある。雷管があるというのはメリットよりもデメリットの方が大きい、ということだ。 



「これ、何か分かりますか」



 机に1つ銃弾を置く。

 PKMの弾である7.62mm×54R弾。箱は持ち歩いては居ないが、弾を1つだけポケットに入れていたものだ。


「スプリングフィールド……よりは短いか。そのリム、7.62ロシアンかな? えっとそれ持ってるってことは下條さんは……狙撃手かな?」


「いえ、PKMです」



 この際、彼に隠す必要はない。

 話を円滑に進める為に、出来る限り推理を進めるために、彼の協力は不可欠だ。



「女の子で機関銃手って、また渋いところ付くね……? で、その弾がどうしたのかな?」


「私はこの弾をベースに、銃と弾を量産するつもりでした」



 そう言うと、彼は明らかに驚いた表情を見せる。数拍後、ずり落ちた眼鏡を元に戻し、ハーブティを口に含んでから口を開く。



「……えっと、理由を聞いても?」


「銃を使える人間を増やしたかったから。ただその理由については、すみません。」



 この世界なら、銃があれば優位に立てると思っていた。いや、それだから銃を持ってきていると思ったのだ。

 だが、この世界に雷管を作る技術が、設備があるのならば、金属薬莢が作れないはずはない。

 一般的に量産できてしまうなら、私の持っている銃は、弾は、何の役にも立たないのではないだろうか。

 戦争で使われていなくともそれだけの技術があるのならば、銃の量産など容易いはずだ。現状では猟にしか使われておらず、戦争は剣や槍、弓を使って戦っていると考えていたからこそ、銃を用いる複数人が居れば、それらと渡り合えると思っていた。

 だからこそ、銃を量産しようと思い、アルフレドに頼んでいた。


 その計画が、崩れてしまう。

 雷管の存在。この世界の人間が、銃を手にしてしまうことへの恐怖。

 あちらの世界の技術レベルに、こちらの世界が追いついてしまったら。いや、既に近づいているのだとしたら。

 最早一刻の猶予もない。金属薬莢がまだ生まれていないのなら、それが生まれるより前に、全てを終わらせなければならない。そう、思えるのだ。



「ただ、この世界にも雷管があるのなら――」


「なら?」


「ロッキーさんは、どうして薬莢を使わなかったんでしょう」


「え? それ、どういう……ああ、なるほどね、そういうことか。確かに、雷管を作れるなら薬莢も作れるかもしれないし、薬莢が作れるならパーカッションロックなんて面倒な装填方法は使わないはず。だからたぶん、持ってないんじゃないかな?」


「そう、なるんですよね」



 雷管を彼自身が量産、もしくは彼が誰かに頼んで量産しているのなら、薬莢を作らないのはおかしい。

 そう考えると自然なのは、彼は雷管を作っているわけではない、ということ。それに、作っている人間と親しいわけではないことにはならないだろうか。

 銃が不要ならあえて雷管式に切り替える必要はないし、薬莢があるならばそれを使わない理由はない。

 相澤がロッキーに会ったのは2年も前のことだ。もしかしたらもう金属薬莢を作れているかもしれないし、使っているかもしれない。それはこの町から出ていない相澤に分かることではなく、私自身が直接会いに行くしかない。



「雷管がこの世界でも自然に生まれる可能性は、あると思いますか?」



 銃の出自は分からない。それでも、雷管なら。あの村になかった以上、そこまで昔のことではないはずだ。

 アルフレドは行商から銃を買っていると言っていた。最新式の銃を作っている人間が居ればその弾も当然手に入れることがあるはずなのに、アルフレドの工房にあったのは火縄銃まで。雷管なんてもってのほかだ。



「ないね」



 その答えは、これまでほとんど言葉を濁していた相澤にしては、やけに早い答えだった。

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