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乙女ゲームの模範生!  作者: 穂兎ここあ
乙女ゲームの模範生
8/30

Lesson8

 クラス中がざわついた。

 学校でのわたしは学年主席を維持するガリ勉女子。好青年で有名な皆戸翔にさえ笑いかけない冷徹女子。

 そんなわたしは翔と同じくらいに、乙女ゲーム趣味が結びつかない人間だったと思う。

 そうだよ、私も作ってた。だって隼人様は真面目でおとなしい女子が好きだから。だから頑張ってそうなろうとしたんだ。結局うまくいかなくて冷徹女子なんて言われるようになったけど。わたしは隼人様のために作ってた。

 でも翔が作ってたのは、みんなに好かれたいから。でもそれってつまり、みんなが好きな人間になろうってみんなのために、作ってたってことでしょ?


「え……何言ってるの、水原さん。それカケルのリュックから出てきたんだよ?」


 翔親衛隊女子がわたしのときマスを指差して引きつった顔で言ってる。そうだよ、翔のリュックに入ってた。でもこれはわたしのもの。ときマスは、わたしのものだよ。


「そうだよ。皆戸くんのリュックに入れたから」

「……は?」


 翔はわたしのことを見上げてる。不思議そうな顔して、何言ってんだって顔してる。

 別に翔のためじゃない。わたしはあんたと違って、自分のためにしか何もできない人だから。


「皆戸くんって人気者だから、ちょっと意地悪したくなって。そういうの入れておいたらどうなるかなーって思ったんだけど」


 即興で考えた言い訳はかなり性格悪い。でもクラスメートにどう思われてもいいやって思ってた。わたしには杏ちゃんがいるし、楠原くんだって味方してくれる。


「水原さん……何言って」


 翔のこんな驚いた顔見れただけで今はもうなんだか勝った気分。


「思ったより、みんな引いちゃってるから申し訳なくなっちゃった」

「な……っ、何……水原さん最低! 何考えてんの!」

「カケルに謝りなよ!」


 みんなわたしが予想したとおりに怒ってる。男子は「頭いいやつは何考えてるかわかんねーな」なんて言ってるし、当分は三次元に彼氏なんてできないね。でもいいんだ。わたしの恋はゲームの中にある。画面越しがなんだ、どうした!


「謝らないよ」

「はぁ?! 自分がサイテーなことした自覚ないの?!」


 そりゃあ嘘ですから、自覚はないですよ。むしろ翔くんには後でぜひ感謝してもらいたいくらい。


「最低なことはしたけど、わたしは皆戸くんのこと好きじゃないから皆戸くんに嫌われても問題ないもの」


 極論だとは思うけど。でもわたしはみんなに言っておきたいことがある。


「そんなに皆戸くんに謝りたいなら自分が謝ればいいじゃない。わたしの思惑に引っかかって疑っちゃってごめんなさいって」

「はぁ?! 水原さんがそんなこと言わなきゃあたしたちはカケルを疑ったりなんか!」


 そうだね。でもそれってどうなの? それって本当? わたしはそんなの違うと思う。


「わたしは好きな人の趣味なら全部受け止めるよ。バカにしたりなんかしない」


 もし隼人様の趣味が恋愛ゲームだろうとフィギュア集めだろうとなんだって、わたしは全部受け止めてわたしの趣味にしてやる。好きってそういうことでしょ? 好きな人の好きなものは好きになろうって、それはきれいごと? きれいごとだと思うならそんな恋は恋じゃない。わたしはそんな恋ならしなくていい。隼人様にずっとずっと恋し続けるよ。


「皆戸くんといつも一緒にいるくせに、皆戸くんをかっこいいなんて言ってるくせに、誰もかばおうとしないで、それは謝らなくていいの?」


 わたしよりもみんなのほうが謝るべきでしょ? みんないつも翔の周りにいて「カケル、カケル」って楽しいスクールライフ送ってたんだから。それとも何事もなかったみたいにまた「カケル、カケル」って寄り添っていくつもりなの?

 わたしが現実見れてないだけ? 所詮わたしは乙女ゲームに憧れた夢ばかり見てる人間? でもきっとわたしは間違ってない。だってみんな言い返さないんだから。


「わたしは好きな人がバカにされるのも笑われるのも絶対嫌。皆戸くんがバカにされるのを放置してたってことは、クラスのみんな全員皆戸くんのこと好きじゃないってことだから」

「ち、違うわよ!」

「違わないよ」


 翔の上辺ばかり見て、本当は上辺すらまともに見てなかった? 隼人様のふりをした翔はたしかにかっこよかったけど、でもふりなんてしなくても翔は昔からみんなに人気の男の子だったんだから。

 みんなみーんな、何も知らないくせに。


「違わない」


 もう一度そう言って、わたしは自習道具を広げたままの席に戻る。みんなが困った顔でわたしのことを見てるけど、そんなのどうでもよかった。


 しばらくしてひとりの男子が翔にごめんねって言った。それを口火にみんなが翔に謝ってた。


 誰にもきっと褒められない。でもわたしはいいことをした気分で、そんなわたしを隼人様が頑張ったねって言ってくれてる気がした。ときマスのパッケージを見つめてそんなふうに思ってた。

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