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乙女ゲームの模範生!  作者: 穂兎ここあ
乙女ゲームの模範生
6/30

Lesson6

 中2の冬。

 その頃1番噂になっていたのは翔がクラスで1番かわいい女子を振ったことだった。

 理由はなんだったかよく覚えていないけれど、たしかみんなと遊ぶ時間を減らしたくないとかそういう子供っぽい理由だった気がする。


「皆戸くんに彼女ができたらどうしようかって思ってたから、本当に安心したよぉ」


 わたしの属していたガリ勉グループの中に1人、当時の翔を好きな女子がいた。わたしと翔が幼馴染なのにそれほど仲良くないことをもったいないなんて言っていた女子だ。

 翔の彼女を作らないスタンスにその子は安堵していたけど、わたしはそれに賛成はしなかった。


「わたしはみんなより自分を選んでほしいなぁ」

「え、伽耶ちゃん、皆戸くんが好きなの?!」

「え? 違う違う」


 わたしの好きな人は当時すでにときマスの隼人様だった。ネタでもなんでもなく本当に好きで、けどそれを口にしたらひかれることくらい分かっていたから好きな人がいることしか周りには伝えなかった。


「伽耶ちゃんの好きな人、誰だろう。いい加減教えてよー」

「えへへ、秘密ー」


 だから、友達はわたしの好きな人をあてるゲームを楽しんでた。当然分かりっこなくてそれはあくまで楽しいゲームで終わっていた。


 私の好きな人の話なんて、わたしのグループ内だけで盛り上がる話。他のグループの女子はもちろん、男子は誰も知るはずない話だった。


「伽耶ちゃん、好きな人いるの?」


 だからあの日、翔にそう聞かれた日は驚いた。

 翔はよく家に夕飯を食べに来ていたけど、夕飯を食べたらそのまま自分の家に帰っていて、わたしの部屋まで上がってきたのはその日が5年ぶりくらいのものだった。


「え、か、翔くん?!」


 好きな人を聞かれたことにも驚いたけど何よりも翔が部屋に来たことに驚いた。部屋の戸をノックされて当然それはお母さんだと思ってたから、わたしはゲーム機の音声マックスでときマスをやっていたのだ。


「伽耶ちゃん……何してるの?」

「えっと、えっと……これはぁ……」


 言い訳のしようがなく、わたしは翔に乙女ゲーム趣味を白状した。同時に、わたしの好きな人がときマスの隼人様であることも。


「伽耶ちゃん、こいつ好きなの」

「……ひく、よね?」


 翔はその質問には答えなくて、わたしからゲーム機を奪って隼人様のルートをプレイしてた。

 あの時翔が何を思ったのか分からない。「いい弱みを見つけた」とか「こうすれば女子は喜ぶのか」とか、いろんなことを考えてたんだと思う。


 その次の日から、翔は変わった。

 もともと女子とも仲が良かったけど、接し方が優しくなって女子への発言も変わってた。

 みんなそれをかっこいいって言ってて、わたしもかっこいいと思った。思ったけど違和感だった。


「翔くん。……あの」

「何?」

「……最近、変わった、ね? あ、あは、隼人様みたい、なんて」


 そう、翔の言動は隼人様に似ていた。みんなは気づかないけど隼人様信者のわたしは分かる。


「あー……やっぱり伽耶ちゃんには分かっちゃうかぁ」


 翔は少しだけ残念そうに言った。今でもよく覚えてる。それが翔がわたしのことを「伽耶ちゃん」と呼んだ最後で、わたしに優しくしてくれた最後。


「バラすなよ? バラしたらお前のオタク趣味全部バラして、コレクション全部壊してやる」


 そうしてわたしと翔の関係はこじれ始めた。


 翔の人気は日を増すごとに高くなった。


「伽耶、今日も家行くから」


 爽やかな笑顔でそんなことを堂々と言ってのける。別に付き合っているわけでもないのに、翔の誤解を生む発言でわたしは女子の反感を買ってしまった。

 翔の人気は右肩上がり、わたしの友人数は右肩下がり。


「翔のせいで、わたし誤解されて文句言われるの!」


 何度も翔には文句を言って、泣いたことだってある。


 そういうこともあって高校は翔と離れるために遠くの公立高校を選んだのに、結局なぜか翔も同じ高校にいて。

 かろうじて翔と幼馴染だってことは隠せてる現状。


 あの日こじれた関係が今もわたしを苦しめてる。

 でもあのときわたしが気づかないフリをしていたら翔はわたしの前でも隼人様の真似をし続けてくれてたのかな、なんてやっぱり少し後悔はしていた。

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