Lesson5
5分前まで楠原くんとおしゃべりをしてわたしの1日はハッピー、終わり良ければすべて良し!で終了したというのに、なんでこいつはわざわざわたしを追いかけてきたんだろう。
「皆戸くん。わたし早く教室に戻りたいので要件は手短にお願いします」
せっかくの楠原くんとのおしゃべりを中断させられた挙句、わたしは今、翔と一緒に空き教室にいる。何が楽しくて学校でもこいつと2人にならなきゃいけないのか。心の中でいろんな愚痴をこぼすけれど、何よりもまずこの現場を誰かに見られるわけにもいかない。さっさと用件を済ませなければ。
そう思うわたしと同じくらいには、翔も不機嫌だ。むしろ翔のほうが怒っている。な・ぜ・だ!
「皆戸くん、じゃねーよ。気持ち悪りぃ。何なのお前、楠原と仲いいの?」
「いぇっす! 聞きたいのそれだけ? じゃ!」
「待てっての!」
教室を出て行こうとしたら翔に腕を掴まれ……痛い痛い痛い痛い! 翔は容赦なく、わたしの手を捻る勢いで掴んでる。そんなことしなくても逃げないのに。いや、逃げるつもりだったけども。とにかく離してほしい。
「何よ。別に学校で話さなくてもいいじゃん。家で話しなよ。ときマスのファンディスクなら貸してあげるから」
「人の話聞けよ。お前、俺のこと非難するくせに楠原はいいわけ?」
「はぁ? あんた楠原くんと自分が同じだと思ってる? 冗談! 楠原くんはあんたみたいな作り物と違うもんね! がちイケメンだもんね!」
「あんなん作ってるに決まってんだろ! お前が一番わかってるだろ! ほんと学習能力ねぇなぁ!」
自分で言っていて悲しくないのだろうか。翔は作り物でも、楠原くんは作り物じゃない。天然イケメンだ。
「楠原くんはイケメンだもん! 例えるならときマスの千景くんだよ!」
「あーあーあー、これだからゲーム脳のオタク女は! つーか、何。お前、楠原のこと好きなの?」
「いぇっす! 大好き! もうい…ぃいい痛い!」
本当に腕がちぎれそうだ。隼人様の足をもぐだけじゃ飽き足らずわたしの腕までもぐ気かこいつは。本格的に犯罪者になるつもりか!
「楠原がお前みたいなブスなんか好きになるわけねーだろ! わきまえろよバーカ!」
「は? そんなの分かってるし! 何言ってんのよ」
「あー、これだから身の程を知らないブスは! 乙女ゲームなんかしてるから夢ばっか膨らんでんだろ、ブス!」
なんでわたしは翔にここまで言われなきゃいけないのだろう。ブスってことは別に認めるけど、なんでこんな怒られるのか分からない。理不尽にも程がある。
ああ、なんかイライラしてきた。
「ブスなんだからわきま……」
「ブスブスブスブスうるっさいわよ! バーカ! バカバカバカ!」
「はぁ?! 何お前、逆ギレ?!」
「バカケル! わたしお母さんと似てるんだからね! わたしのことブスって言ったらお母さんのことブスって言ってるのと同じなんだから! お母さんに言ってやる!」
「言ってみろよ! おばさんは俺の味方だっつーの!」
「……うっ、ううっ、何よ何よ! ブスが嫌ならかまわなきゃいいじゃない! かまうなよバカ! わたしだってあんたみたいな嘘つき嫌いなんだから!」
大嫌い大嫌い大嫌い! 何度も叫んだら、やっぱり翔の不機嫌はマックス状態になってしまう。だからってわたしは謝る気なんてない。
「俺だってお前みたいなブス嫌いだっつーの! お前みたいなオタク女、誰も好きになんねーよ!」
「余計なお世話! あんたなんか、作ってなきゃ誰も好きにならないんだから!」
少し言いすぎたと思った。だってそれは1番翔が気にしていることだから。後悔したときにはすでに翔は傷ついた顔をしてて、余計にわたしは謝れなくなった。
最初に酷いことを言ってきたのは翔だ。わたしは悪くない。悪く……ないんだから。
「サイテー男! バーカ!」
翔が手を思いっきり振り払ってわたしは教室を出て行った。
その勢いのまま走って、スカートのポケットが震えてるのに気づく。
ポケットからスマホを取り出してみたら楠原くんから心配と謝罪のメッセージが届いてた。
「素で見習いなよ、バカケル」
真似するなら、完璧に真似すればいい。
わたしの前でだって演じてみせればいい。翔が本気で隼人様の真似をしたら、喜ぶのは誰よりわたしのはずだったのに。