Lesson3
乙女ゲームにはまったのは、中学2年生の頃だった。
もともと父のような立派な医者になりたくて小さい頃から勉強をしていたわたしは部屋の中でできる遊びばかりを好んだ。
最初はあやとりやトランプから始まり、歳を追うごとに遊びの趣向は変わってテレビゲームに移行。そうして中学に入った頃、わたしは乙女ゲームに出会った。
『君が好きだよ』
おそらく初恋だったと言ってもいい。ときマスの隼人様に恋をしたわたしは試験で首位をマークする度にもらえるご褒美金とお小遣いをすべて隼人様のポスターやスチル集、そしてときマスのファンディスクに費やしていた。
おかげで今も学年主席をキープしているし、乙女ゲームとの出会いはわたしの財産といってもいい。
でも唯一、皆戸翔に乙女ゲーム趣味がバレてしまったことだけはわたしの一生の不覚だと思っている。
◇◆◇
「カケルくんの幼馴染って、むしろ自慢するポイントだと思うけどねぇ」
お昼休み、数えられるほどしかいないわたしの友人、香川杏ちゃんが言った。
わたしと翔が幼馴染という親しい間柄であることを知っているのは親友である杏ちゃんと、わけあって後輩に1人だけだ。
わたしたちの住む地域は佐山高校からかなり距離がある地域だから言わなければ2人が幼馴染であることなど誰にもわからない。
「杏ちゃんはあいつの本性知らないからだよ。ほんとに、ほんとーーーに、陰険な性格なんだから!」
「へぇ」
「信じてない!」
「だって想像つかないもん。カケルくん絵に描いたような好青年だから」
「だからそのとおりなの! 絵に描いてるの!」
杏ちゃんにだけは分かってほしくてそう言っているのにやはり翔の創り上げた印象は完璧で、杏ちゃんは信じてくれても納得はしてくれない。そりゃそうですよ。わかってますよ。
「でもほら、うちの学校って絵に描いたような男子が何人かいるじゃない。カケルくんとー……」
「あいつは違う!」
「はいはい。カケルくんとー、3年の松永先輩もそれっぽいし。あとあの子、1年のサッカー部の……」
「楠原くん?」
「そうそう、その子。うちの学年の子も何人か告ってるって聞いたけど」
杏ちゃんの言う楠原圭くんは1年生でかっこいいと噂のサッカー部の男子だ。事実、かっこいい。冗談抜きで彼はかっこいい。そして彼こそがわたしと翔が幼馴染であることを知る男子でもある。
「楠原くんはね、もう本当にいい子……」
「どうしたの。そんなしみじみと」
楠原圭くんは本当に乙女ゲームにいそうな性格の男子だ。怪我をしたサッカー部のマネージャーをお姫様抱っこで保健室に運んだり、他部活の用具の片付けを手伝ってあげたり、彼の優男伝説は様々。素であの性格はもう才能の域に達するもの。
「もしかしたら楠原くんも作ってるかもしれないじゃない? カケルくんみたいに」
「あいつと一緒にしない!」
とは言うものの、翔という魔人で懲り懲りしていたわたしは1ヶ月前まで楠原圭くんもどうせ作りものだと思っていた。
でも今はちゃんと分かってる。彼は作り物じゃなくて本物。あんな魔人と一緒にして本当に申し訳ない。楠原くんは本物のイケメンだ。
「伽耶以外の女子からしたらカケルくんも楠原くんもただの好青年で、変わんないよ」
自分もそう思っていた身だから言い返したいけど言い返せない。あんな外道と楠原くんを一緒にしてはいけないと思うのだけど、世間から見たらやっぱり同じになってしまうのだ。