Passion16
翔だ……っ。翔がいる。
「や、やだ翔。は、離せ……離せ離せっ!」
「はいはい、嬉しいくせに。隼人様はこうしてくれるんだろ?」
「あ、あああ、あんたは隼人様じゃない!」
「ああ。隼人様じゃないよ。……俺はさ、隼人様みたいに可愛いヒロインを好きになれなくて。……意地っ張りでオタクで、口開けば『バカ』とか『隼人様』しか言わない、そんなどうしようもないやつがやっぱり好きなんだよ」
誰のこと言ってるのよ。もっと他にもいろいろ言ってるだろ! 離してよ、みんな見てるんだから。やめろやめろ、こんな……恥ずかしいんだから。うぅぅぅぅっ。
「さ、ささ、澤谷さんはどこにいるのよ。隠すなよ!」
「澤谷、澤谷って。お前は本当、澤谷のこと大好きだな」
「ちっがぁぁあぁぁあう! 話そらさないでよ! わたし聞いてたんだから! 『はじめてのクリスマス』って、2人で言ってて!」
「はぁぁ?! はじめてのクリスマス? なんの話だよ。俺は今年でクリスマス17年目だぞなめんな」
「そうじゃないわよ! とぼけるなバカ! 今日……今日わたしは……水道のところで、翔と澤谷さんが……澤谷さんが」
思い出したくないのに。澤谷さんが可愛くて、翔が腹立つくらいかっこいい顔してて。2人で楽しそうに。プレゼントだって。
「全然心当たりはないけどさ。澤谷なら、今頃部員に囲まれて先輩とラブラブ見せつけてるところだぜ? たぶん」
「ほーらぁあ、ラブラブして……え、先輩?」
先輩とラブラブ? え、どういうこと? 何をおっしゃる、翔くん。ラブラブって、え……。
「澤谷は、バスケ部のキャプテンと付き合ってるんだよ」
頭がうまく回らない。え……うそ、はぁ? だって、え……だってだって、翔と澤谷さんはキスしてて……え、え……。
「はぁぁああああぁあ?!」
「だから人の話聞けって言ってんのに、お前全然聞かねーし」
「だって、だって……! 嘘つくな!」
「あぁぁあぁ! もう俺が最初から説明してやるから耳かっぽじってよく聞けよ!」
翔はそう言って、わたしの口にパンケーキを突っ込んできた。どこから出てきたよ、パンケーキ! ていうか美味しい……なにこれ。どこのお店の……って違う違う!
口いっぱいにパンケーキを含んでしまったわたしはもう何も喋れない。それを確認して、翔が大きなため息とともに語り出した。
◇◆◇
「澤谷。俺、本当にクリスマスパーティーは行けない」
昼休み、俺は部室でも澤谷からパーティーに誘われていた。でも俺は伽耶と過ごす予定で……あの贅沢女は意地っ張りだから行かないとか言ってるけど、本当は行きたいんだ。俺は分かってる。分かってるぞ。
てなわけで澤谷には悪いけど、俺はお前の誘いを断るよ。断り方はどうしようかって思ったけど……やっぱり順路に沿ってときマスの【恋のスノーマジック】から抜粋。
「ごめんな。でも本当、澤谷と過ごしたら楽しいだろうなって……想像すると悔しいかな」
かっこよく決まった。我ながらすげぇかっこいい。ときマスの隼人様の断り方はもう繰り出してしまったから、今回のこれはときマスの千景様だ。伽耶いわく、楠原に似てるやつ。
あぁ、ほんと。あいつ何なんだよ。楠原楠原って。確かに楠原はいいやつだしかっこいいけどさ。俺だってかっこいいじゃん。何がダメなんだよ! あぁぁぁあ、落ち着け俺。あいつは意地張ってるだけで本当は俺のこと好きなんだ。
でも楠原のこと好きって……いやいやいや、あれは……あれだろ? 乙女ゲーム感覚。俺は心が広いからな。あいつの「好き」くらい広く受け止めてやる。
「あははっ、カケルくんってば相変わらずかっこいいなぁ」
澤谷が俺のこと好きってことは知ってる。つーか1年前に告られてるし。伽耶は知らないだろうし、たぶんみんな知らない。俺も澤谷も部活中に気まずくならないように、誰にも言ってないからな。
どうだ、伽耶。俺は本当にモテるんだからな! あいつはどうせ隼人様に似せてるからって言うんだろうな……。あぁあぁ、もうなんで俺は二次元と対抗しなきゃいけないんだよ! ありえるか?! こんなこと!
「でもわたしね、今はちゃんと春樹先輩が好きだから」
ほぉぉら、お前の理想とするヒロインみたいに可愛い澤谷は今もずっと俺のこと好き……え? 澤谷? 澤谷さーん、今なんて?
「春樹先輩……って、あの?」
「うん。お調子者のバスケ部キャプテン、春樹先輩だよ。実は、先月から付き合い始めたの」
……いや、別に俺は澤谷のこと好きじゃねーし? 俺が好きなのは伽耶だし? 別にぜーんぜーんショック受けてねーよ? 受けてねーけどさ! え、嘘だろ。春樹先輩って、あの春樹先輩だろ? 口開けば「澤谷かっわいぃい! ふぅぅうう↑」って呟いてるあの、あの!
待て待て待て。いや、別にいいんだけどさ。いいけど! 何だこれ。つまり途中から俺は澤谷が俺のこと好きだって勘違いしてたわけで。いや、いやいやいやいやみーーんな勘違いしてるから! 俺だけじゃねーから!
「だからクリパで、部員みんなにお披露目あーんど祝ってもらおうって春樹先輩と話してて。でもカケルくん来ないんだぁ。先輩、カケルくんには来てほしそうだったよ」
そーーーいうことだったのかぁぁぁあ! あー、なるほどね。理解したよ。つまりあれだろ、春樹先輩。「澤谷はもうお前のこと好きじゃないんだぞ! 俺のこと好きなんだからな! ふぅぅうう↑」ってそう言いたいんだろ。分かったよ、分かりましたよ!
「あれ……カケルくん? 疲れてる?」
「ああ……うん。ちょっと自主練張り切りすぎたみたい。ちょっと頭冷やしてくる」
ちなみにこれはときマスの隼人様お疲れシーンから抜粋……って何やってるんだ俺。こんなことやってるから疲れるんだろうが俺。もうなんだこれ伽耶病だな。もう全部伽耶のせいにしよう。ああ、そしたらなんか全部許せる。うん、オッケーオッケー……ん、なんか今ササって、茶色いのが……あ、ぁあああぁぎゃぁぁぁぁああああ!
「ひゃいいぃぃい! じ、Gぐぁぁぁあああ!」
「か、カケルくん?! どうし……っ、きゃあぁぁあああぁあ! でたぁぁぁああああ!」
澤谷の目にも映ったか! やっぱり間違いじゃないな! 奴らが俺たちの部室を占拠しにきた! いや、占拠されてる! って、俺今すげー気持ち悪い叫び声あげてなかった? まるで伽耶じゃねーか。やめろ俺はあんな気持ち悪くない。いや、でも、でもGが! あの、長い触覚が! くそぅ、隼人様のG対処シーンなんて知らねーぞ俺! ちくしょう、どうすりゃいいんだ、どうすれば……。あ、逃げよう。うん。そしたら澤谷にも無様な姿見られないし。よし来た。俺は逃げる!
かっこ悪いと蔑まれようが、俺は逃げてやる。冷静になれば言い訳なんてときマスから抜粋すればいいわけで。悪いな、澤谷。
俺は部室の扉に手をかけた。
「やだ、カケルくん! 待って!」
「澤谷!」
ふざけんなぁぁああ! 離せっての! いや、マジで、本当離してください! 嫌です! こんな部室俺は嫌です! だいたい澤谷、お前マネージャーなんだから部室の掃除してくれよ! いや男子部室だけどさ! 俺らのせいだけど!
って、え、なんか扉の開き悪くない? なにGが大群で押し寄せてきたのか、いやだやめろ、想像したくない。
開きの悪い扉を忌々《いまいま》しく思いながら見てたら、伽耶がいる。額押さえて、伽耶がいる。
え、なんでお前がいるんだ。ていうか、澤谷引っ張るな! 痛いって! 澤谷力強すぎ!
「ちょっ、離、せ……っ」
勢いよく引っ張られて、俺はバランスを崩した。伽耶に気を取られてたわけじゃない。あんなブスに目を奪われてたまるか! 違うからな! 違う違……え、なんかすげー柔らかい感触。……マジか、マジなのか、嘘だろ。
俺は澤谷とキスしてた。
慌てて、澤谷から口離して、伽耶の方を見た。でも伽耶はいなくて、追いかけようとしたら後ろで澤谷が泣き出した。
「は、春樹先輩……どうしよう。わたし、か、カケルくんとキスしちゃ……うわぁぁぁあ。ただでさえカケルくんとのこと心配してるのに。だからカケルくんにクリパで見せつけようって思ってたのに! カケルくんのバカぁ。春樹先輩、春樹先輩ぃ」
いや、いやいやいや、引っ張ったのお前だからな!
泣きたいのは俺だよ。うわ、絶対伽耶のやつ誤解しただろ。どうするんだ、これ。とりあえず澤谷、泣き止んでくれ。頼む。
◇◆◇
「っていう状況だったわけ。分かったか? 早とちりバカ」
疲れた顔の翔がそう説明してくれた。でも待って。それで、なんでパーティーに行くことになるのよ。プレゼントって……!
次回最終回。
ちょっと間に合わなくて、1時くらいになるかもしれません。




