Passion11
楠原くんの意見を参考に、わたしも翔に手作りのお守りを作ってみることにした。楠原くんが好きな人からもらったような可愛いものは作れないけど、翔もバスケをしているし一番無難なプレゼントな気がした。
だって隼人様も『君というお守りがいるから大丈夫』って言っちゃうくらいだし! お守りって大事だよね!
「買い物にはついてきたけど、伽耶、わたしそういうの作ったことがないからアドバイスのしようがないんだけど」
日曜日。杏ちゃんと一緒に材料の買い物に来たのだけど、早速問題に直面していた。何を買えばいいのか分からない。
布と綿? 針と糸は家庭科の授業で使うのがあるけど。え、どうしよう。今、毛糸コーナーにいるけど。うん、これは使わない。それだけは分かる。
「よし、こういうときはネットで調べよう。今は便利な世の中なのだよ。けけけけけ」
「伽耶、危ない」
スマホを掲げて奇怪に笑っていると後ろにいた女の子とぶつかった。
「わわわっ、ご、ごめんなさい!」
「あー、こちらこそごめんなさい。余所見しててー」
のんびりした口調の女の子。杏ちゃんのため息を後ろに聞きながらわたしはその女の子に2、3回頭を下げた。まるで人間うちわのごとく。
頭を下げてて気づいたことは、その女の子の趣味が手芸だってこと。買い物カゴの中には綿や布、色違いの糸がいくつかと、あとはこの辺りにある毛糸が何色か入ってる。
「あははー、本当に大丈夫ですよー」
そんなふうに笑って、その女の子はわたしの背後の毛糸コーナーから茶色の毛糸を取った。え、まだ買うの? そんなに買っていったい何を作るの? やばいこの人ガチ勢だ。
目をピョーンと飛び出してるわたしの隣で杏ちゃんは変わらず呆れ顔。そしてわたしと同じことを思ったのか、いやたぶんわたしより数倍冷静な頭で考えて、杏ちゃんはその女の子に声をかけた。
「あの、すみません」
「え、あ……何か落としましたー?」
「あ、そうじゃないんですけど。この子手芸初めてで」
杏ちゃんがわたしのことを親指でビッと指してくる。そうさ、手芸は初めてさ。学校の家庭科はうまくくぐり抜けてる(佐山高校の家庭科の成績はペーパーテスト重視だからだ)けどあれとこれとはわけが違うのさ。
「そのくせに好きな子に部活のお守り作ろうとしちゃっててですね。何買えばいいか分からないんですけど、ざっと教えてもらっていいですか?」
杏ちゃん、わたしはいろいろツッコミたいよ。好きな子って! 好きな子って! 違うし、仲直りしたいだけだし! て、この言い訳っぽい感じが意地張ってるんだって。あぁぁぁあ、もうこんな意地っ張り大会で大丈夫かな。
「お守りですか? あー、それなら」
その女の子は買い物カゴに入れていた布と綿を取り出してにこりと笑った。
「基本的にフェルトと綿があればいいですよー。私も弟にお守り作る予定で、奇遇ですねー」
「えっ! お、おお、お守り作りの上級者になると毛糸とかも使うんですか?!」
毛糸どこに使うの? え、どこ? 相手のマスコット作る時に相手がドレッドヘアだったら使うかもだけど、え、まさかそうなの? 今持ってる毛糸ブラウンだし……お姉さんの弟さんは茶髪ドレッドヘア?!
「あははー、これは違いますよ。クリスマスプレゼントにマフラーを編もうと思って。こっちは手袋で、こっちは帽子にしようかなーって」
やばい、レベルが違った。高速瞬きをするわたしの隣で杏ちゃんもキョトン顔。たぶん今回ばかりはわたしの感性が正しいと見た。この人やばい人だ。
「……伽耶。あんた下手くそなんだからやっぱり手作りはやめて、市販のものにしなさい」
杏ちゃん、わたしも今まったく同じこと考えたよ。
今すぐこの手芸コーナーから出て行こうと考えるわたしと杏ちゃんなのだけどその女の子はカラカラと楽しそうに笑った。
「私も手作りはどーかなって毎回思うんですけど。お守りなら特に手作りの良さが出ますよー?」
「良さって……誰も持ってないものを作る、とかですか?」
「それもですけど。お守りの中に自分のメッセージを入れておくんです。たとえば『いつもありがとー』とか」
その女の子は「参考になればいいんですけどー」と笑って、お会計に向かっていった。
「お守りのデザインを決めたら、あとはすぐに出来上がりますから、頑張ってくださいねー」
その手芸女子が言い残した言葉を妄信して、わたしは自分の力量も知らず適当に色を選んでフェルトと綿を購入した。
後々考えると、もう1週間後に迫ってるクリスマスに向けて、あの量の手芸をする女の子の「すぐ」は全然あてにならない。
※急遽登場してもらうことにした手芸女子。正体が分かった方、その通りです。(作者の自己満足)




