Passion10
翔にクリスマスプレゼントを渡すことにしたわたしだけど、当然翔にそんなものを渡したことがないわけで。翔どころか男子に何かをプレゼントしたことがないわけで、つまり何を渡せばいいのか分からない。乙女ゲームを参考にしてみたけど、手作りケーキとか、料理できるわけないだろ馬鹿野郎。
杏ちゃんに泣きつこうとしたけど「そこは自分で考える!」と言われてしまったため、もうわたしが縋れる相手は残り1人しかいない。
むしろ縋りたかった、というのは秘密である。
「水原先輩、はよーございます」
朝一番、杏ちゃんと過ごす定番の場所――屋上前の階段に彼、登校したての楠原くんがやって来た。
朝から、なんて爽やかな笑顔を見せつけてくれるんだ。まるで日光! 眩しすぎる!
「ごめんね、楠原くん! 朝早くに呼び出したりして」
わたしはガバッと深く頭を下げる。すると楠原くんはあははと優しく笑ってくれた。あぁ、もう君を攻略したい! やましい感情だらけだが、楠原くんは佐山高校の男子代表。男子へのプレゼントなら彼に聞けば確実だろうと思ったのだ。何度も言うけどやましい感情はたっぷりだ。
「全然いいっすよ。今日は朝練もないですから。ていうか……おでこ大丈夫ですか?」
わたしは感動してる。さすが楠原くん。わたしの額の湿布をバカにしないで心配してくれたのは君がはじめてだよ。本当に君は何者ですか。王子様ですか。
「ちょっとね。でも大丈夫」
「それならよかったです。……で、俺に用って」
「うん……その、ね。わたし男子に仲いい人いないから、聞ける人もそんなにいなくて……。あの、クリスマスプレゼント、翔にあげようと思って……でも何がいいか全然分からなくて」
わたしなりに頑張って可愛らしく言ってみる。たぶん翔が今のわたしを見たら「キッッモ! ブスがぶりっ子すんなよ」などと罵倒してくることだろう。だがしかし、あの魔人は今ここにいない。
わたしからの質問を聞いて、楠原くんは視線を斜め上にあげた。
「あぁー……でも俺そういうアドバイスできるほど経験豊富じゃないっすよ?」
「何をおっしゃいますか。モテモテなのに」
「モテモテって……俺、月1交代で彼女作れるほどモテませんよ?」
楠原くんは困り顔で言うけれど、聞いてるわたしは目をまんまるにしてる。楠原くん、君は何を言ってるの。楠原くんのモテの定義ってそれ?! ハードル高すぎでしょ! そんな男子いるわけ……もしかして、もしかしてだけど楠原くんも乙女ゲーム男子キャラ目指してたりするの?! いや違うよ、落ち着けわたし。きっと楠原くんは何事も高いところを見てるんだ。
「でも、そうっすね。……好きな子からもらったらなんでも嬉しいと思いますけど」
「……そうなのかなぁ。さすがに何でもはないと……って」
楠原くん、今「好きな子」って言った? 翔にあげるって言ったよね、わたし。それで「好きな子からもらったら」って、ちょっと待って。え、嘘。楠原くん、なんで知ってるの?!
「か、かかか、翔はわたしのこと好きなんじゃないよ?! 楠原くん、何言ってるの! 翔は、バカケルはバカだから!」
「水原先輩、動揺しすぎっすよ。翔先輩から聞いてるんで、否定しなくても大丈夫だと思いますけど」
「聞いたって、聞い……はぁぁぁあああ?!」
「水原先輩、前に勢い余って翔先輩に俺のこと好きとか言ったんでしょ? あれから少しして翔先輩に『伽耶は俺のだから』って言われました」
「あんのバカがぁぁぁぁああ! ごめんね、楠原くん!」
「いいっすよ。おかげで翔先輩ともっと仲良くなれましたし」
バカケルは本当にバカだった! こんな本物の好青年に向かってなぁにが「伽耶は俺のだから」だよ、ふざけんな! いつからお前のものになったんだこの野郎。
翔のバカに変な難癖つけられたというのに、楠原くんってば、なんてお優しい笑みを浮かべてらっしゃるの。あぁ神々しい。もう本当何なのだよ、この性格の良さは。
「どうせなら翔先輩に好きって言ってあげればいいじゃないですか。最高のプレゼントだと思いますよ」
楠原くんのイタズラっぽい笑みいただきましたー。ってそうじゃない! あははって笑いながら冗談言っちゃう楠原くんはかっこいいけど違う違う!
「い、言わないよ!」
「それは残念。……でも本当好きな子からもらえるならなんでもいいと思うっすよ。たとえば、手紙1枚でも」
手紙かぁ。手紙……ろくなこと書けなそう。でも何でもって……さすがに楠原くんの爪の垢とかはダメだよね。
「楠原くんは……好きな子にクリスマスプレゼントもらったことある? って、ありますよね」
「え? あはは、まぁ、一応。クリスマスプレゼントは毎年手作りのお守りをもらってます。サッカー上手くなるようにって」
楠原くんは本当に嬉しそうに笑って、エナメルバッグで揺れる手作りのお守りを見せてくれた。ユニフォームをモチーフにして肩のところに小さなサッカーボールがついてる、そんな手作りのお守り。まるで彼女からの贈り物だ。ていうか完成度高いな、おい。楠原くんの好きな人は手芸部ですか。
「毎年って……その、幼なじみか何か?」
わたしが尋ねると、楠原くんは「あぁー」と困ったように頬をかいた。
「水原先輩と翔先輩の関係に似てますけど。それよりもっと近くて、もっと遠いっすね」
「……どっち?」
「あはは! 近くにいすぎて全然男として見てもらえないんですよ。だから翔先輩の気持ちは少し分かるんです、俺」
楠原くんのこと男の子として見ない女の子なんていないよ。こんなかっこいいんだもん。それにこんな可愛くて出来過ぎなくらい上手なお守りを作ってくれるんだ。絶対楠原くんのこと好きに決まってる。絶対、絶対両想いだ。
「なんで気づいてくれないんだろうって思うくせに……変に意識されて今の関係が壊れるのは怖くて。だから、それでも水原先輩に告白した翔先輩を、俺はすごくかっこいい人だなって思います」
「あ、あああ、あいつは……!」
「って、水原先輩が一番知ってるっすよね」
楠原くんはニコッと笑った。うぅっ、楠原くんがからかってくる。それに反論したいのに、わたしという変態は鼻息荒くして「楠原くんにからかわれるのって悪くないな」なんて思ってしまう。むしろからかってください。もっと、もっと!!
「……ありがとう、楠原くん。参考にするね」
「いえいえ」
わたしがこんな気持ち悪いことを考えてることなど知らずに、楠原くんはかっこいい笑顔を見せてくれた。
話も終わって、楠原くんは階段を下りていく。でもわたしは楠原くんにちょっと聞いてみたいことがあって楠原くんのことを呼び止めた。立ち止まって笑顔で上を向く楠原くんはやっぱりかっこいい。
「楠原くんは……言わないの? 好きな人に好きって」
こんなにかっこよくて性格もいい彼が、いつまでも片想いのままでいるなんてダメな気がした。自分の恋路もままなってないのに何言ってんだって感じだけど。
「この前言いましたよ。すごーく卑怯な言い方で。だから当分は……言うつもりないっすね」
楠原くんは少しだけ寂しそう。その返事はどうだったの? って聞きたいけど聞けなかった。
「だから今の俺の目標は小さいっすけど、今年も手作りのお守りをプレゼントしてもらうことなんです。……って、なに話してんすかね、俺」
照れて笑う楠原くんはかっこいいというよりかわいくて。
「もらえるよ! きっと」
他人事だけど、わたしはそんにふうに声をかけてた。
「ありがとうございます。水原先輩」
はにかんで笑う楠原くんに、わたしは「大好きです!」と心の中で叫んでた。
この作品はあくまで伽耶×翔なので、以下は楠原くんの恋路が気になった方のみ参照ください。
※宣伝みたいになってしまいましたので苦手な方は無視して次話にお進みください。申し訳ございません。
※楠原くんの恋路は「麗龍学園生徒会」の方を読めば分かるのですが、あれは超長編なので軽く読むにはオススメできない仕様……ですからシーンを抜粋しておきます。もちろん読まなくても「模範生」は楽しめる仕様ですので、参考程度にお知らせします。
楠原くんの「卑怯な告白」の理由が気になった方。
→麗龍学園生徒会 135 自慢の弟と自慢の姉
(出だしから鬱展開注意)
楠原くん、お守りもらえたの?!と気になった方
→麗龍学園生徒会 186 お守りと枕元
(こちらの半分スクロールしたくらい)
見なくても意味が分かった方
→いつも本当にありがとうございます。
それでは次話もお楽しみに!
(ちなみに次話も麗龍読者必見サプライズゲスト登場)




