Passion9
学校に行ったらみんながわたしの顔を見てクスクス笑った。そりゃそうだろうさ。額には3センチ四方の湿布を貼ったまま、目は真っ赤で、本当マヌケな格好だ。
「噂で先に聞いてたけど、実物見ると破壊力すごいわね。水原伽耶のマヌケ面」
お昼休み、いつもの階段で杏ちゃんに会ったらそんなふうに笑われた。私だって笑ってやりたいよ。こんなマヌケ面。間違っても隼人様には見られたくないんだから。幸か不幸か隼人様に見られることはないけども。
「へぇ、まぁたカケルくんと意味不明な喧嘩したの。本当飽きないねぇ」
昨日の喧嘩の内容を話したら、杏ちゃんは真剣に聞くどころか楽しそうに笑った。
「笑うところあった?!」
「全部おかしいじゃない。ギャグ話聞いてるのかと思ったんだけど」
「違うよ! 杏ちゃんひどい!」
「はいはい、ごめんごめん。でもまあ、要はさっさと付き合いなさいって話でしょ?」
杏ちゃんは簡潔的に話をまとめる。というか、簡潔にしすぎだと思う。でもやっぱり杏ちゃんには言い返せない。だってどんなに言い訳したってわたしは、翔が澤谷さんとキスしてるのに怒って喧嘩したんだ。彼女でもないのに怒って、それはただの理不尽な怒り。だったら解決策は杏ちゃんの言うとおりになるのだ。
「……でも翔は、もう知らないって」
「どうせ勢いで言っちゃったんでしょ。聞く限り、いつも2人して勢い余ってばかりじゃない」
杏ちゃんはやれやれといった様子で首を左右に振り、美味しそうに紙パックのアイスココアを飲んだ。
「当人たちが深刻に考えてることは他人から見たら案外笑っちゃうような話なわけだよ、伽耶さん」
「杏殿からしたら、わたしと翔の喧嘩は笑い話に見えるのでござろうか」
「笑い話っていうか……痴話喧嘩? 痴話喧嘩でもないかな。もうなんか、伽耶の意地っ張り大会」
杏ちゃんはいつもわたしの悪いところを指摘してくれる。杏ちゃんは翔のことをかばってるわけじゃない。応援してるってわけでもない。ただひたすらわたしのことを客観的に見て指摘してくれる。わたしがいい子になるように。そんな杏ちゃんはいつだって私の味方だ。
「でも伽耶の意地っ張りなとこ、わたしは嫌いじゃないよ。意地っ張りでオタクで、それなのに頭は良くて。伽耶みたいな強烈な子、嫌いになろうにもなれないよ」
杏ちゃんは優しい。ずっと、ずっとそうだ。
杏ちゃんは中学の時塾で知り合った友だちだ。中2の冬、翔との関係がこじれたせいで学校に居場所がなくなっても塾に行けば杏ちゃんに会えた。杏ちゃんはずっとわたしと仲良くしてくれたんだ。励ましてくれて、受験も一緒に頑張ろうって言ってくれて。
冷酷ガリ勉女の水原伽耶も、意地っ張りオタク女の水原伽耶も全部全部受け入れて仲良くしてくれるんだ。
「だからカケルくんも簡単に伽耶のこと嫌いにはなれないよ。さっさと仲直りしちゃいなさい」
ぽんぽん、と肩を叩いてくれる。わたしはそんな杏ちゃんが大好きだ。本当に杏ちゃんと付き合いたいくらい。杏ちゃんラブ! わたしは杏ちゃんがいればそれでいいよ。もちろん隼人様も! でも……でもやっぱり、わたしは翔もいてほしいって心のどこかで思ってるんだ。どうでもいいなんて言って、やっぱり心の奥底では翔のことを気にしてるんだ。
情けないけどそうなんだ。あぁ、どうやって仲直りしよう。いきなりごめんねなんて言えないし。改まって仲直りなんてしたことないし。いつもどうやって仲直りしてるんだっけ。……喧嘩上書きしてるだけだ。
「クリスマスプレゼントをあげて、仲直りってのはどう?」
もう1回喧嘩するか、なんてバカなことを考えてたわたしに杏ちゃんは最高の提案をしてくれる。
杏ちゃん、あなたは天才ですか。
これより最終話まで1時間おき更新




