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乙女ゲームの模範生!  作者: 穂兎ここあ
乙女ゲームの受難生
18/30

Passion6

「ふーん。澤谷さんってカケルくん好きだもんね。お似合いだし」


 お昼休み、屋上に通じる階段に座って、杏ちゃんとお弁当を食べながらさっきの話をした。

 澤谷さんが翔のことを好きなのは知ってる。たぶん学校で知らない人なんていないと思う。部活の時だってずっと「カケルくん、カケルくん」って言ってるんだから。もう、なんというか可愛いよ、本当。わたしが男なら翔に「場所代われ、はよ」って手を叩くさ。そんな彼女だから、翔とお似合いだってみんなが言ってる。わたしだってそう思う。


「で、伽耶は健気にヤキモチ妬いてるわけね」

「違う! 違う違う違う! ヤキモチって! 隼人様にしか妬かないんだから! あ……でも昨日は咲人様にもヤキモチ妬いて……ぬぉぉぉお! 隼人様、またわたしってやつはぁぁぁあ」

「うん。分かったから唾飛ばさないで」


 杏ちゃんがポケットからハンカチを取り出して頬を拭いてる。ひどい! わたしの唾まで受け止めてください、杏様! わたしの唯一の親友殿!


「要するに澤谷さんが懸命にカケルくんをクリスマスパーティーに誘ってるのが嫌なんでしょ?」

「ちっがーう! そうじゃなくて! そうじゃなくて……翔が……」

「そうなんでしょ?」

「うぅぅぅぅ! 翔が! 澤谷さんが自分のこと好きだって分かってるくせに隼人様の真似やめないから!」

「もっと澤谷さんがカケルくんのこと好きになるから、嫌ってことでしょ? ほらヤキモチ」


 そう言われると反論できない。でも、でもヤキモチって、隼人様がヒロインに好きだって言ってるの聞いて、ヒロインをうらやましいって思ったり「ああ、わたしにも言ってください」って切なくなっちゃったり、そういう感情でしょ? 翔に抱いてるのはそういう感情じゃないもの。もっとこう……とにかく全部嫌で……。


「ゲームと比較されるカケルくんに心から同情するよ」

「杏ちゃんまで翔の味方する!」

「したくもなるよ。本当変な子好きになったねって」


 杏ちゃんはため息を吐いてる。翔めぇぇ、隼人様だけじゃなくてわたしの大切な杏ちゃんまで奪う気か! くそぅ、翔なんか魔人なんだから。いつも文句ばっかりで、人のことブスって、ブスって……くっ、事実だから言い返せないのが悔しい。


「ヤキモチ妬くくらいなら付き合えばいいのに。いつまで意地張ってるんだか」


 杏ちゃんの言うことは間違ってない。

 本当は分かってる。これが本当のヤキモチだって。ゲームに抱くみたいに綺麗な感情じゃないんだって。

 でも翔にヤキモチ妬いてるなんて、そんなこと言えるわけない。ただの意地っ張りだって分かってる。分かってるけど張っちゃうんだ。誰があんな大魔人にひれ伏すもんか。ふんぬぅぅぅうう! あぁ……ほらまたわたしは。


◇◆◇


 とりあえず翔にはバスケ部のパーティーに参加するよう言うんだ。だって翔が参加するって言うまで澤谷さんは翔のところに来るよ。可愛い澤谷さんを見るのは苦じゃないけど、澤谷さんの前で隼人様の真似する翔は見たくない。

 昼休みの翔は体育館でバスケをしてる。だから杏ちゃんとのお昼をいつもより少しだけ早く切り上げてわたしは体育館に直行した。

 体育館をチラッと覗いてみる。

 バスケットボールの弾む音。でもそこに翔の姿はない。


「……あれ? あぁ、部室か」


 体育館にいないとしたらそっちだ。わたしは体育館から少し離れたところにあるバスケ部の部室へと向かった。


◇◆◇


 バスケ部の部室まで来て、どうしようか考える。失礼しますなんて言って堂々と入るわけにはいかない。もし開けて男子が着替えてたら、ただの痴女だ。オタクに加えて痴女と揶揄されるなんてもう隼人様に申し訳が立たない。

 だからってノックして別の人が出てきたら、それはそれで問題だ。「皆戸くんに用があります」って言ったらまた「水原伽耶がカケルに逆恨みを……っ!」なんて騒ぎ立てられかねない。

 うぅ、どうしたものか。これがときマスの中なら隼人様がちょうどよく出てきてくれて『君が来てくれる気がしてたんだ』なんて笑いかけてくれるんだよね。あぁもう、さすがです、隼人様!

 でもこんなところにずっと立ってるわけにもいかない。わたしは意を決して部室の扉をノック――。


「い……っっっっつぉ!」


 ノックアウトォォォオオオオ! 痛い、痛い痛すぎる! 額に扉の角がクリーンヒットゥッ! 扉を叩こうとしただけなのに、中から部室の扉が開いてしまった。なんでこのタイミングで開くの! タイミング良すぎだこの野郎! いったい誰……だ。


「やだ、カケルくん! 待って!」

「澤谷! ちょっ、離、せ……っ」


 扉を挟んで翔と目があった。でもそれは一瞬で、翔のことを引き止めた澤谷さんがそのまま翔の腕を引っ張った。


「あ」


 扉の向こう側、かっこいい男子と可愛い女の子。絵になる2人がそこにいて。ゲーム画面の向こう側みたいで。たぶんわたしはゲーム画面の向こう側だって思い込みたいんだと思う。だって、だって――。

 

 目の前で翔と澤谷さんがキスしてる。

次回:8/1.23時更新

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