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乙女ゲームの模範生!  作者: 穂兎ここあ
乙女ゲームの受難生
17/30

Passion5

 翔のことをどうとも思ってないわけじゃない。好きって言われたんだからやっぱり意識してしまう。

 でもわたしたちはずっと喧嘩ばかりしてきたわけで、今さら「好きだよ、翔。ハートマーク、てへっ」みたいな関係にはなれない。


「じゃあ今から配るプリントは全員来週提出すること。終わり」

「きりーつ、れーい」

「ありがとうございましたー」


 授業の終わりの挨拶を告げると、数学の課題プリントが前から回ってくる。わたしは少し横を向いて後ろの席に座る翔にプリントを渡そうとするのだけど。


「……皆戸くん」


 翔はどうやら昨日のことを怒っているようで、わたしの声かけに返事をしない。あからさまなくらいに真横を向いて頬杖をついてる。おいおい考え事してるふりか、誰の真似だ、それは。何も考えてないことは分かってるんだからな。

 わたしはため息を吐いて翔の机の上にプリントを置き、前を向く。すると翔の後ろの席の子の困り声が聞こえた。


「カケルくん、プリントきてるよ? 回してもらっていい?」

「え? ああ、ごめん。気づかなかった。いつの間に回ってきてたんだろ」


 ふっざけんなぁぁあぁぁあ! 今ちゃんと回してただろうがぁぁああああ!

 翔の後ろの席の子も翔の声を聞いていたらしい翔親衛隊もわたしのことを軽蔑した目で見てくる。


「カケル気づいてないんだから、普通声かけるよね」

「頭いいけどそういうとこ気が利かないんだねぇ」

「ゲームのしすぎなんじゃない? ゲームの男の子のことしか考えてないのかもね。ぷぷっ」


 別に翔のせいで悪者扱いされるのにはもう慣れた。けど、最後の子の発言は許せない。ゲームしてるから何? もしかして乙女ゲームバカにしてるの? したことないくせに、偏見でバカにして、それは絶対許せない。


「田崎さん」

「な、何よ。ほんとのこと言われたのに文句?」

「さっきの数学、田崎さんが当てられてたところ。田崎さんが誤魔化したから先生よく聞き取れずに正解にしてたけど、あの答えは1/24じゃなくて1/25だよ。たぶん田崎さんは1通り多く考えてる。1秒後の点Pが動いた時点で点Qは動かないからその分の1通りは引かなきゃいけないの。たぶんそこの間違いだよ」

「は……はぁ? い、いきなり何」

「わたしはゲームをするし、ゲームの男の子のことを考えてるけど、でも授業はちゃんと聞いてるから。ゲームを持ち出して……バカにしないで」


 どうだぁぁぁあああ。翔親衛隊こと田崎さんは「うっ……」と言葉を詰まらせてる。わたし、ちょっとかっこよくなかった? 知的な感じじゃなかった? やっぱり性格悪かったかな。もうちょっと棘のない言い方にすればかっこよくなるのかな。でも乙女ゲームのヒロインはたまに気が強くあるべきだし、隼人様もこれくらいなら許してくれるはず。


「……はぁ」


 そんなことを考える後ろで翔がため息吐いてる。ため息を吐きたいのはこっちだ。翔のことをかばわなければわたしのオタク趣味はバレることなく隼人様たちがバカにされることもなかったのに。

 翔のことを恨めしく思っていたらパチパチパチ、と手を叩く音が響いた。「うわぁ」という可愛らしい感嘆の声とともに。


「水原さん、すごぉい。さすが学年トップ」


 振り返ると目をキラキラさせた澤谷さんが立っていた。また翔に会いに来たのだろう。彼女はこちらに歩み寄ってくるけど、ちゃんと翔の隣で立ち止まった。


「……澤谷」

「カケルくんも聞いてたでしょ? 水原さんって本当頭いいんだね」


 澤谷さんは緩く三つ編みにしたふわふわの髪を揺らして「すごいすごい」とぴょんぴょん跳ねてる。なんて可愛いんだ。こんな可愛い子に褒められるなんて、まったく悪い気がしない。


「……そんなことないよ。わたしなんて別に、普通」

「ううん。すごいよ! わたし勉強はあんまりだから、本当に尊敬する!」


 澤谷さん天使。顔が可愛い子って性格は悪くあるべきだと思ってたけど。そうでないとわたしみたいな人間が救われないから。でもやっぱり可愛くて性格もいいって本当天使!

 鼻の下を伸ばすわたしを見て、少しだけ翔が呆れ顔をしていた。


「澤谷、どうしたの。クリスマスなら、用事あるから俺は行かないって……」

「あ、うん。その用事がさ、何の用事なのかなって」


 澤谷さんはえへへっと笑ってる。可愛い、可愛いよ、なんだこの生き物は……。

 そんな可愛い子を前にしているというのに、翔は眉間にしわを寄せて言葉を詰まらせてる。


「カケルくん、用事あるって嘘でしょ?」

「なんで? 嘘じゃないよ」

「じゃあ何の用事?」


 澤谷さんは笑顔だ。でも笑顔だから余計に怖い。

 そんなことを思っていると翔がチラッとこちらを見た。

 翔の用事は、たぶんわたしとクリスマスを過ごすこと、なんだと思う。翔は聞き入れてくれないけどわたしは断ってるし、せっかくなんだからバスケ部のパーティーに行けばいい。

 そう思ってわたしは翔から視線を逸らした。


「それは……その……」

「カケルくんって嘘吐くの下手だからすぐ分かっちゃうよ」


 翔が嘘吐くの下手なことは、たぶん澤谷さんよりわたしのほうがよく知ってる。だって澤谷さんが知ってるのは隼人様の真似をした翔だけだから。

 って何対抗してるんだ、わたし。でも、わたしのほうが翔のことを知ってる。それはきっと間違いじゃない。


「だから、もう一回ちゃんと考えてみてって言いに来たの。それじゃあまたあとでっ!」


 澤谷さんはふわふわの三つ編みを揺らして、教室を出て行く。


「……あぁぁ、なんであいつ変に勘がいいんだ」


 翔は小声でそんなことを呟いてる。

 ちがうよ、翔。澤谷さんの勘がいいんじゃなくて、翔の言い訳が下手なんだよ。臨機応変さに欠けてるんだよ。本当そんなんだから墓穴掘るんだ。

 わたしはセーラー服の白いリボンをいじりながら心の中で翔に文句を言っていた。

 

次回8/1.22時更新

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