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乙女ゲームの模範生!  作者: 穂兎ここあ
乙女ゲームの受難生
16/30

Passion4

「咲人様まで侮辱しやがって……っ! 今日という今日は許さん!」


 わたしは咲人様の尊厳を守るため、翔という魔人にグーパンチを放つ。でもわたしが翔に敵うはずもなくて、放った右ストレートは翔の左手に易々と捕まった。ちっ……え、ちょっと待って、離して。

 翔はわたしの右手を掴んだまま、夢アメの説明書をわたしの目の前に持ってくる。そして説明書もソフトも入っていないパッケージは用無しと言わんばかりにポイッとベッドに……投げるなぁぁああああぁあ!


「拾えぇぇええええ! 無礼者! 乙女ゲームは内容だけじゃなく、歌だけじゃなく、パッケージさえも敬え! 崇拝しろぉぉおおぉ馬鹿野郎!」

「あぁ、うるせー。そんなことより」

「そんなことだとぉぉおお?!」

「あーーーーーー。ほら、咲人様の紹介分読めよ。さーんにーいーち、はい」

「西園寺咲人。西園寺財閥の御曹司。世間を冷めた目で見ているが、ヒロインへの眼差しは常に熱い。幼いころとある理由で出会ったヒロインを十年以上一途に想っている」


 ふっ、推しキャラの紹介分は見なくても暗記している。この『とある理由』が何なのか気になってプレイしてキュンキュンしたのだ。いや、キュンキュンじゃない。ギュンギュンギュウウウウウンだ、ってそんなことどうでもいい。


「ほら、俺のこと好きじゃん」

「どうしてそうなるのよ。どうして! なぜ! ホワーイ! あんたの頭どうなってんの?!」

「読めば分かるだろ! 十年以上一途! 俺だってお前のこと十年以上好きなんだから!」

「い、い、一緒にすんな! バカ! あ、あああ、あんたは一途とは違うんだから!」

「はぁああ?!」


 くっそぅ。翔に何言われても顔赤くならないようにしようって、動揺してたまるかって思ってるのに。いきなり「好き」とか言ってくるな! バカ! うぅぅぅぅぅぅっ! きっとわたしの顔は赤くなってる。顔がすごく熱い。


「一途の『い』の字も知らないお前に何が分かるんだよ! この浮気女!」

「う、浮気って何よ! 失礼ね! わたしはちゃんと……っ」

「つい昨日まで隼人様隼人様って言ってたくせに今日は咲人様かよ! 明日はいったい誰だ! 優人様でも出てくるのか?!」


 優人――優人ってまさか、翔ってば【Lovers Fighter】の三宅みやけ優人ゆうと様を知っているのか! まさか、あんなマイナーな乙女ゲームを知ってるわけ――。

 ていうか、そうじゃない! そうだ。わたしは隼人様のことが好きで、隼人様にすべてを捧げる覚悟までしているのに。翔の言う通りだ。今日は咲人様にときめいて、あぁぁぁあああ、わたしってば罪深い浮気女だったの?! でもこれが乙女ゲーマーの宿命。わたしはベッドに横たわっている隼人様を見て泣き叫ぶ。


「隼人様ぁぁあああ、ごめんなさいごめんなさい、許してください、あぁぁぁああ、咲人様も好きだけど、隼人様が一番ですから!!」

「バカ! ちっげーよ! 謝る相手は隼人様じゃなくて俺だろうが!」

「隼人様ぁぁぁあぁぁあ……ぁぁあ? なんで翔に謝らないといけないのよ」

「俺がいるのに、なんで毎回毎回お前は隼人様隼人様って、本当贅沢女!」


 はぁぁああ? なに言ってるんだこいつ。ときマスの麗しい皆様と対抗する気か。バカめ! ていうか、ていうかその前に!


「贅沢って何! あんたはわたしの彼氏じゃない!」

「お前だって隼人様の彼女じゃないだろ!」

「隼人様はみんなの彼氏ですーっ!」


 言ってて悲しくなる。隼人様はわたしだけのものじゃないんだ。隼人様のほうこそ浮気してる。だったらわたしも浮気してやる。よしこの精神だ。


「なんなんだよ! キスまでしておいて、お前今さら……っ!」

「やぁぁぁめぇぇぇろぉぉぉぉおお! その話をするな! 黙れ! シャラップ!」


 あれはハプニングだ。キスじゃない。あんなキス認めない。わたしのファーストキスはロマンチックな愛に包まれて美しく行われるんだ。神聖なものなんだ。ガムテープとか転んでぶつかったとか、そんなのわたしは認めない! 認めないぞ! あぁぁぁ、もう思い出させないで! 思い起こすな、わたし! 記憶の底に帰れ帰れ!


「じゃあ……じゃあお前、俺が他の女子のこと好きになってもいいんだな!」

「そんなの、あたりま……」


 当たり前だ。言え、言わなきゃ、言うんだ、わたし。わたしの口は言いかけて閉じた。

 翔の言葉を真剣に考えてしまう。いや、ダメだ伽耶。迷うな。ずっとそうなっていいって思ってたんだ。翔があんなこと言うまで、翔にはそのうち勝手に彼女ができるんだろうって。それこそ澤谷さんなんかと――。ああ、もう、なんでこんなところで黙るんだ、わたし!


「なあ、伽耶。お前だって本当は俺のことぅぅぅぅっふぉっ!」


 翔が肩に手をかけてきて、わたしは反射的に空いてる左手で翔のお腹を殴った。


「勘違いするな! 翔のアホ! バカケル! アホ!」

「伽耶! お前ぇぇえええっ!」

「来るな来るな! わたしは今からトイレ行くんだ! トイレにまでついてくる気か、この変態! 変態変態変態! ヘーントゥァアアアイ!」


 そう言い残してわたしは部屋から出て行った。

 隼人様グッズが翔の手にかからないか、少しだけ心配だったけどたぶん大丈夫。昨日のうちに隼人様グッズのほとんどは女の武器庫(下着入れ)に避難させておいたから。さすがに、そこは荒らさない……よね?

次回:8/1.21時更新

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