Passion1
第2章スタート!
今回は今日から3日に分けての更新です(8/2終了予定)
それでは、それでは伽耶さんと翔くんのハードモード……リスタート!
12月に入って、期末テストも無事終わり、世間はもうクリスマスモード。世のリア充たちは来たる12月24日、25日のためにダイエットやらプレゼント選びやら各々楽しく励んでいるころ。かく言うわたしも今はクリスマスの準備で忙しい。
『君と、ここのツリーを見たいって思ってたんだ。……君は? 俺と来たいって思ってくれてた?』
隼人様が甘く囁くようにして問いかけてくる。画面に映る選択肢は3つ。
[わたしも来たいって思ってたよ]
[ツリーを見るたびに隼人くんのこと考えてた]
[さぁ、どうだと思う?]
わたしは下矢印のボタンを2回タップして2番目の選択肢をチョイスする。ポーンという選択音が鳴って、隼人様の表情が変わった。頰を赤く染めて、隼人様が照れてる。隼人様が、隼人様が照れてるよぉぉおおお! ぐっふぁっ! 選択肢成功したぁぁああああ!
一応パラメーターを確認したらちゃんと上がってる。隼人様、わたしはツリーを見るたび隼人様のことばかり考えてます。
『なんでそんな嬉しいこと言うの。あぁ……本当、今すぐ抱きしめたくなる』
グォングォンと音を鳴らして頭を振った。やばい、やばいぞ、あぁぁあああ、こんな照れた顔で、こんないい声で、こんなかっこいいセリフ、わたしを殺す気ですか、隼人様ぁぁぁぁあ! 顔のにやけが止まらない。ありとあらゆる筋肉がしまりなく緩んでる。
「うへへ……」
自分でもびっくりなくらい気持ち悪い声が出た。
☆乙女ゲームの模範生!〜Christmas Passion〜☆
現在わたしはときマスのファンディスク【ときめき☆マスカレード〜恋のスノーマジック〜】をプレイ中だ。そのクリスマスイベントを完璧に暗記するため、ここ最近のわたしは忙しい。暗記してクリスマスツリーの前でセリフと音楽と、全部思い出して妄想するんだ。
『ねえ、みんな見てるけど……抱きしめてもいい?』
隼人様、隼人様、きゃぁぁぁあああ! どこでもいいから抱きしめてください。いや、どこでもはダメだけど。でも隼人様ならいいかな。いいよね、もういいよ! 隼人様だもん!
画面に映ってる隼人様は麗しいけど、光の反射で画面に映るわたしの顔は信じられないくらい気持ち悪い。いやだ、信じない。わたしの顔にも二次元補正プリーズ。
心臓が爆発しないように深呼吸を繰り返しながら、◯ボタンを押す。すると画面が一瞬暗くなって、画面全体にわたしの気持ち悪い顔が反射する。でももうそんなの気にならない。だってこれはスチル回収の合図だから。
画面には絵師さんの描いた美しいスチルが映る。そのスチルは隼人様がヒロインを抱きしめているもので――。あぁ、なんだかわたしも抱きしめられてる気分……ん? あれ、なんか本当に抱きしめられてる気がする。え、いや、ちょっと待て。待て、待て待て待て待て待て。
「そんなに抱きしめてほしいの、お前」
隼人様の声じゃない。自分の首に回った腕を見たら分かる。こんなゴツゴツした腕はお母さんのものじゃない。これは、これは――。
「離せ……離せ離せ離せ、……はぁぁぁぁなぁぁぁぁせぇぇええええええ!」
美しいスチルが映ったポータブルゲーム機を机に置いて、わたしは自分にまとわりつく魔人を殴り飛ばす。くそっ、はずした。いつのまに入ってきたんだこいつは。
「お前がバンドのベーシスト並みにめちゃくちゃ頭振り乱してるとき」
「なに当然みたいに言ってるのよ! さっさと……っ」
おっと、翔のペースに乗せられていつもみたいに怒鳴るところだった。2週間後に控えるクリスマスに向けてわたしはヒロインみたくおしとやかな女子にならなければならない。今の口の悪い女子のままでは隼人様との妄想に浸れない。翔、貴様ごときに阻まれてたまるか。
わたしは大きく咳払いをした。
「わたしは君が部屋に入ることを許可した覚えがないのだよ、翔くん。さぁ帰りたまえ。わたしは忙しい」
歌うような声で言って、扉を開けてあげる。リズミカルな所作で出て行くように促すのだけど、翔はなぜかわたしの椅子に座ってゲーム機をとった。え、何してるの。待て、勝手に◯ボタンは押すなよ。やめろやめろ、話を進めるな、やめろぉぉおお!
「やめてやめて、やめてください! お願いします! あぁぁあぁあ、巻き戻して! 隼人様のルートはじっくり味わって進めなきゃいけないの! 無礼者! そんな簡単に◯ボタン押しやがって! バカケル、バーカバーカ!」
「バカはお前だろうが! ヴァァアアカ!」
はっらたつーーっ! 「バ」を「ヴァ」っていうところが本当に腹立たしい。くっそぅ。何よ英語できないくせに、発音良く言いやがって! 「ディー」を「デー」って分かりやすく言ってくれる社会科の青柳先生を見習えよ! ヴァカケルが! あ、やばい、うつった。
「はぁ……お前今年も隼人様とクリスマス過ごす気かよ。本当何考えてんの」
当たり前だろ。他に誰と過ごす選択肢があると言うんだ、教えろ。……あ、やっぱりいいです。なんとなく察しました。言わなくていいです。そうだ、今だ、お母さんカッモーーン!
「今年は俺と一緒に過ごせよ」
「ああああああああ。ミズハラカヤハナニモキコエマセン」
あれから2ヶ月。
わたしと翔の関係は何も変わってない。
次回:7/31.22時更新。