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乙女ゲームの模範生!  作者: 穂兎ここあ
乙女ゲームの模範生
10/30

Lesson10

 翔が目の前にいる。何してんのって、見て分からないのか。病人が布団にくるまってるんだよ。


「ゲンザイ、ミズハラカヤハオナカガイタイノデ、オウトウデキマセン」


 我ながら上手いと自覚しているロボット音声のモノマネをしてわたしは翔を拒絶する。喋る気がないと伝えて今度は布団を上からかぶり直して布団にくるまったままベッドの上で芋虫になった。


「おい。話に来たんだから布団から出ろよ」

「やだーーーーっ、やめろぉーーーーっ、変態変態変態変態ーーーーっ、帰れ帰れーーっ!」


 わたしから布団を引き剥がそうとする翔に、駄々をこねる子どもみたいにして言った。激しい攻防の末に勝ったのはわたし。翔は諦めてわたしのことを布団から出そうとはしないけど、でも代わりにわたしの部屋に居座った。居座……っ、やばい! わたしのコレクションが!


「……まぁいいや。……その、伽耶」

「ひっ!」

「昨日……ありがとう」

「やぁぁぁぁああああぁあああ!」


 雄叫びをあげて飛び起きた。でもそれと同時に翔も何かを言っていて……え、なんて言った? え、え……え。


「……お前何なの、ほんと」


 目を丸くしてるわたしを見て、翔がハァーーッとため息を吐いてる。いや、そうじゃなくて……今、ありがとうって言った? とうとう幻聴が聞こえるようになったか、わたし。


「キミハカケルクンデスヨネ」


 冗談じゃなく本気でそんな喋り方になった。


「……そうだよ。俺だよ。俺で悪かったな! どうせお前の大好きな隼人様には見えねーだろ!」


 最初は小声だった翔が最終的に怒鳴った。なぜ怒る。ありがとうからのキレキャラ?! とうとう乙女ゲームの鬼畜キャラまで真似し始めたのか。飴と鞭を覚えたのか! 全然使いこなせてないよ! ってそうじゃない。落ち着けわたし。


「俺が真似してやったって全然喜ばねーくせに! 何が隼人様隼人様だよ! バカブス、ブスブスブスブス!」

「はぁ?! 意味わかんない! 喜ぶわけないじゃん! 翔は隼人様じゃないんだから!」

「うるせーよ!」


 翔はそう言って、わたしのベッドの上から隼人様(抱き枕)を取り上げる。やばい、油断した! 魔人に隼人様が、隼人様ぁぁああああ!


「やめて、返して! 翔、待って!」

「こんなのばっか見てないで、たまには現実見ろよ!」


 翔は隼人様をカーペットに投げ捨てる。ふざけんなぁぁああああ! 置き直せよ、今すぐ! いや、もう触るな! ドントタッチイット! 隼人様を取り返しにベッドからカーペットに手を伸ばす。すると翔がわたしの手を掴んで引っ張った。


「や……っ、うわぁぁあ?!」

「い……ってぇ!」


 引っ張られた拍子に翔の額に思い切り額をぶつけた。痛い……痛すぎる。しかもあろうことかわたしは翔を押し倒して翔のお腹の上に乗っていた。

 やばい。全身がそう伝えていてわたしは慌てて翔から飛びのこうとするのだけど、翔が両手を掴んで離さない。


「お前の好きなシチュだろ。……このオタク女」

「ふざけんな! 相手が翔だって分かっててときめくわけないでしょ! 隼人様(の抱き枕)と代われ!」


 なんで翔の上に乗ってときめかなきゃいけないの。冗談じゃないありえない。翔なんか、翔なんか……。


「じゃあどうしたら……お前俺のことかっこいいって言うの」

「え?」

「お前の好きなキャラの真似しても、お前の趣味にあわせても、お前全然認めねーのに、これ以上どうしたらお前俺のことちゃんと見てくれんの」


 翔はいったい何を言ってるの。ていうか、腕が……腕が、痛い。翔の腕に力が入りすぎてる。こんなのときめくわけない。むしろ怖い。翔が、怖かった。

 また変わってしまいそうな、翔が怖い。


「……何言ってるのよ、翔。ふざけないでよ」

「ふざけてない。ずっとずっとふざけたことなんてねーよ」


 嘘ばっかり。翔はいつも意地悪ばかりして、ふざけてる。隼人様の真似だって、全部全部わたしが嫌がることを平気でやって――。


「全部、お前のためだって……なんで気づかねーんだよ。本当なんで分かんねーんだよ。……バカか、バカだろ。バカ、ブスのくせにバカ!」

「は、はぁ?! な、なんでバカなんて言われなきゃいけないのよ!」


 ていうか、わたしのためって何。何言ってるの。どういうこと? 翔はまた大きなため息をついて、自分の顔を抑えてる。わたしは腕を解放されたのだけど、翔から離れられなかった。離れなきゃと頭が思う前に、疑問で頭がいっぱいだった。


「バカ……バカ女! 隼人様ばっか見て周り見えてないバカブス!」


 翔の言うバカとかブスとか、そういう暴言が全部耳から耳を通り過ぎていく。


「翔……もしかして、わたしが隼人様好きだから……真似してたの?」


 言ってみて、そんなわけないって実感した。だってそれってつまり、わたしが隼人様好きだから隼人様の真似をしたらわたしが好きになるって思ったってことで。要するに、翔がわたしに好きになってほし……いや、ない。ないないないないない。撤回しますすみません。だからお願い怒らな――。


「そうだよ」


 え?

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