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乙女ゲームの模範生!  作者: 穂兎ここあ
乙女ゲームの模範生
1/30

Lesson1

1時間おきに更新していく予定で、おそらく今日中に終わるそんな連載です!

暇がありましたらぜひ最終話までお付き合いくださいませ!

 佐山高等学校の体育館。

 バスケットボールが跳ねる音。7番のユニフォームを着た彼にボールが渡れば、体育館には黄色い声援が木霊する。彼が放ったボールは綺麗な弧を描いてゴールのネットをくぐる様は見事。そうして声援に応えるよう手を振り上げれば、女子生徒たちの声援はもはや悲鳴に変わる。


「カケルーーっ! かっこいいよーーーっ!」


 女子の好意はもちろん。


「カケル、ナイシュー!」


 チームメイトからの信頼も絶大。


 皆戸みなとかけるという男子は容姿端麗でスポーツ万能、成績は少々不振という適度な欠点を持った好青年。

 その姿はまるで少女漫画から抜け出たような、女子の理想とする男子生徒――。


「カケルくん、かっこよかったよ」


 そんな彼に寄り添うのは、佐山高校でも五本指に入る美少女マネージャー。見るからに皆戸翔への好意が丸分かりだが、絵になる2人だからこそ誰も文句は言わない。逆を言えば、冴えない女子が彼から声をかけられるのは容易に反感を食らうということだ。


「水原さんも、観てくれてた?」


 さすがは好青年。体育館の近くを通った地味な女子にも笑顔で声をかける。けれどもその女子は皆戸翔に笑顔を返すこともしなければ、照れて顔を赤くすることもしない。真顔に半目を付け加え、タオルで汗を拭く爽やかな翔の笑顔を見つめた。


「観てない……です」


 一言簡潔的な返事をして体育館から早足で逃げ去る。もちろん皆戸翔を支持する女子からすれば、その女子の言動は論外。「冷酷ガリ勉女」と揶揄する声は当然止まらない。


「水原さん、今度は観に来てよ」


 けれども皆戸翔は尚も爽やかに笑って彼女に手を振り続ける。なんて爽やかな男子。

 誰もがそう思うだろう。だからこそ――。


伽耶かやお前さぁー、まぁた俺のこと無視してさぁ、んなんだから彼氏できねーんだっつーの」


 人の家のソファーにふてぶてしく座り、こんな発言をする男子が佐山高校の皆戸翔だ、なんて誰が信じるというのだろうか。


「あんたみたいに性格作って苦労するよりマシよ」

「俺は作ってんじゃなくて演じてんの。完璧だろ?」


 人のポータブルゲーム機をさも自分のもののごとくして扱いながら翔は収納されたゲーム【ときめき☆マスカレード】通称【ときマス】を楽しんでいる。


『君のために、シュートを決めるから……。ちゃんと観てて』


 ゲーム機から流れるのは有名な声優のもの。聴き惚れる声で紡がれる言葉も最高で、その画面に映る男の子【秋吉あきよし隼人はやと】は乙女ゲーム人気キャラランキング1位に載り続ける最高の男の子。


「ねえ、まさかと思うけど……それ今度の試合で言うつもりじゃないよね」

「じゃなきゃ暗記してないだろ」

「やだやめてよ。本当に気持ち悪いから! それ言っていいの隼人様だけだから! やめてやめて隼人様を穢さないで!」

「出たー、伽耶の気持ち悪いオタク魂」

「うるさい! もういい加減にしてよ! なんでよりにもよって隼人様の真似するの!」

「一番ウケが良かったから?」


 彼の姿は所詮、乙女ゲームのヒーローを模範にした虚構の作品でしかない。

 そのことを幼馴染であるわたし、水原みずはら伽耶かやは知っている。





☆乙女ゲームの模範生!☆






 わたし、水原伽耶はオタクかオタクでないかで言えばたぶんオタクと判定される領域の人間であると思う。少女漫画は一通り読んでいるし、週一で気になる乙女ゲームのPVをチェックして気に入った作品はファンディスクまで購入する。

 特にときマスの隼人様はわたしが今までプレイしてきた乙女ゲームで最も愛してるキャラ。彼のことが好きすぎて三次元ボーイズへの興味関心が失せてしまったのも事実だ。


 だからといって隼人様の真似をした三次元ボーイを好きになるかと言えばそうじゃない。それは所詮作りものだ。


「おはよ、カケル! 今日もかっこいいね」

「はよ。朝から嬉しいこと言ってくれるね。今日寝不足気味だったんだけど榎本のおかげで元気でたよ。サンキュー」


 それはときマスの隼人様が試合の次の日疲れた朝、ヒロインに告げる挨拶。よくもまあ完璧に覚えたものだ。寝不足、と笑顔で言ってのける翔の顔は爽快。それも当然で昨日人の家でご飯をたらふく食べた後延々と眠り続けているのだからむしろ寝すぎて眠い領域だろうさ。


「水原さん、おはよう」

「……おはよ」


 今朝この顔がわたしの顔を見て『ブッサイクだなぁ』と笑い飛ばしたことをわたしは忘れていないよ、翔くん。


 水原伽耶 皆戸翔


 クラスが同じになると必ずわたしと翔は席が前後になる。これが本当に少女漫画の世界ならキラッキラのトーンを散りばめて「運命だよね」などと言ってのけるところだが、現実というのは儚いのだよ。


「水原さんってば、カケルに声かけられてるのに無愛想」

「勉強しすぎて目悪いんじゃない?」


 目が悪いことは否定しないけれどもクラスの女子の皆さん、あなたたちの目もさほど良くはないですよ。後ろの席に座る佐山高校の皆戸翔はかっこいいけれど、わたしの知ってる皆戸翔は顔だけ人間だ。


「悪いのは目だけじゃなく顔もだけどなぁ」


 後ろから聞こえる嘲笑を含んだ小声こそわたしの知る皆戸翔のもの。

 翔と同じクラスになるだけでわたしのストレスはネズミ花火みたいに弾けて暴れる。わたしの将来有望な毛髪が悲しいことになったらきっとこいつのせいだ。


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