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奴隷商人は嘘をつかない  作者: 狼子 由
第7章 I'll Remember
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4 復讐じゃない

【前回までのあらすじ】サラの先導でサクヤを助けに行く、オレと、狼獣人グラプル族のキリ。建物の中をこっそり移動してサクヤのところに向かってるけど。ああ、もう。あいつ何で、いつだってすぐとっ捕まるの? バカじゃないの?

 引き続き狭くて暗くてじめっとした壁の隙間を、ずりずりと降りながら感心する。

 サラって凄い。よくこんなルートをあの短時間で見付けたものだ。改めてその能力の高さに脱帽。


 足が床に着いて周囲を見渡すと、またさっきのような細い通路状の天井裏スペースだった。位置から類推して、この下が地下1階なのだろう。


 数メートル進んだところで、前方のサラとキリが同時に動きを止める。

 2人に数秒遅れたが、オレもぞわぞわする気配を感じて、真下に人がいることに気付いた。静かに床――つまり地下1階の天井に耳を付けると、ざらざらした板を通して声が漏れ聞こえてくる。


「……だよ、もったいねぇ」

「金額が……、で、お互いに吊り上げあって……、オークションに出すより……」

「オークションには出せねぇよ、奴隷じゃねぇ……、奴隷商人の方(・・・・・・)だからな」


 最後の男の言葉で気付いた。サクヤのことだ。

 顔を上げて、2人と目を合わせる。

 聴覚の優れている獣人達は、オレのように耳を付けたりなくても床越しの声がはっきり聞こえているらしい。キリが苦々しい表情で頷いた。


 声からすると、男が3人。普通の商店にいるにしてはどうも柄が悪い。どう考えてもまともな職の人間じゃないと思うんだけど。

 少しずつ声がはっきりしてくるのは、廊下をこちらに向かって歩いてきているからのようだ。


「……だよ。おれが言ってるのは、その前にちょっとくらい遊んでもいいんじゃねぇかってことだよ。このまま渡すのはもったいねぇだろ」

「だから、それがダメなんだっつーの。お客はどっちも『絶対に手を付けずに渡せ』って言ってきてんだとよ。手ぇ出すとボスに殺されるぞ」


 ボス? こいつら何なんだ?

 ボスって誰のことだ……。


「どっちに渡すんだろうなぁ。やっぱシオかね。あの美人」

「ボスが先のこと考えてりゃあ、お貴族様のカナイだろな」


 変態商人のシオと、そもそもの取引予定相手のカナイ。

 ボスとやらが両方からオファーを受けているということは――両者別々にサクヤを要求してる?

 2人は手を組んでいるのかと思ったが、そういうワケでもないのか?


「ああ……やっぱりもったいねぇ。見たか? あのお綺麗な顔をよ……」

「お前、本当に……が、付き合いきれねぇって……」

「……で、大人しく……」


 徐々に声が小さくなったところで、サラがオレをちらりと見た。

 出発の合図だ。再び静かに歩き出す。

 さらに10メートル程進むと、天井裏にはまだ先があるが、真下の廊下はちょうど突き当たりになっているのが覗けた。前方のサラが天井裏の床をナイフでこじ開けて、下に飛び降りる。


 オレとキリも続こうとして下を見下ろしたが、廊下に立ったサラから、ちょっと待て、と視線で止められた。

 オレがサラの合図に気付かなかったキリの服を掴んで、一緒に天井裏で待機している間、突き当たりの壁をサラがごそごそと弄る。しばらくすると小柄な身体でぐいっと押した壁がそのまま向こう側に開いた。


 なるほど、これが隠し部屋か。

 ちょい、とサラの黒い尻尾がオレ達を呼ぶので、キリとオレが順に飛び降りる。

 その瞬間――


「――おい! お前ら誰だ!?」


 廊下の反対の端から、声が響いた。

 やばい、さっきのヤツらか?

 剣を抜こうと柄に手を伸ばすと――そんなオレよりも早く、横を駆け抜けざまに、キリがオレの剣を鞘から抜いて持って行ってしまった。

 自分のタイミングではありえない速さで剣を引かれて、たたらを踏む。


 オレに見向きもせず、男の傍までたどり着いたキリが剣を一閃させた。

 ――早い! 悲鳴を上げるより早く、男の身体が断ち切られる。

 斬り捨てた死体をそのままにこちらへ戻ってくる途中で、キリは剣をオレの腰の鞘に戻してくれた。その顔には何の表情もなく、ただ当たり前のことをした、という感じ。


 サラが隠し部屋の中からそんなオレ達を見て呟いた。


「……中へ」


 部屋の中へオレとキリが滑り込むと、サラはすぐに内側から壁を押し始める。オレもキリも気付いて押すのを手伝うと、壁は元通り閉まった。これでちょっとは見つかりにくくなるだろう。

 

 まずはそれで、とりあえず一息。


 見回すとそこは、窓も家具もない四角い部屋だった。

 明かりもないけど、壁の隙間から微かに差し込む光で、何とか室内の様子が伺える。


 部屋の隅に、影が1つ丸まっていた。

 顔も見えないのに、それが誰なのか――すぐに分かった。


「――サクヤ!」


 思わず駆け寄る。

 床に転がる身体はぴくりとも動かない。


 抱き起こしてみると、手足を軽く縛られて口を塞がれていた。呪文を唱えられないように、だろう。慌てて首筋に指を当ててみたけど――脈はある。呼吸もしてる。縛られた縄を解きながら全身を観察する。

 暗過ぎてはっきりとは見えないけど、怪我は――触った感じ、服にいくらか血がついてるよう感触だけで、大きな怪我は見えない。もう治ったのかもしれないけど。


 ひとまず安心して肩の力が抜けた。

 後ろから忍び寄ってきたサラが、オレの耳元で囁く。


「……火薬の匂い」

「火薬? えっと……火がつきやすい粉だっけ? オレは見たことないけど。何か爆発とかするって師匠が言ってたような……」


 サラの肯定の気配がする。

 じゃあえっと……爆発、に巻き込まれたのか?

 見る限りはそんなひどい感じじゃないけどなぁ。ちょっと分からないけど、とにかくここを抜け出して後から本人に聞けば良いか。

 オレは改めてサクヤの身体を抱え直した。


「……私が持とうか?」


 キリが聞いてくれたけど、オレは首を振った。

 別にキリのことを信じてないワケじゃなくて、これは――オレの、荷物だから。

 サクヤには悪いけど勝手にマントを脱がせて、そのマントで身体を包んでオレの身体に括りつけた。これでしばらくなら両手を離しても大丈夫。多少はアクロバティックな動きも出来る。


「……帰り、別ルート」


 サラが呟きながら、部屋の隅を何度か叩いている。

 何か確かめている様子で、しばらくして腰からナイフを引き抜くと、壁の隙間に突き立てた。ごりっ、とこじ開けるようにナイフを捻って軽々と壁を剥がす。


「ここから行く」


 さっきも同じように壁の隙間を通ったが。どうやらこの建物、外壁と内壁の間の隙間が大きいらしい。しかも内壁側の造りが弱い部分が多い。サラのようにしっかりと見分けることが出来れば、こうしてすぐに剥がしてしまえるみたい。


 サラはサクヤを抱えたオレに先に行くように眼で指した。

 建物の隙間としては広い方でも、人を1人抱えて通ろうとすれば、やっぱり狭い。あんまり強く引っ掛けたり力をかけたりすると、弱い内壁が壊れてしまいそう。

 出来るだけぺったりと自分の身体にサクヤを抱き締めてから、隙間に潜り込んだ。


 その瞬間に、扉の向こうでバタバタと人の走り回る音と怒声が聞こえてきた。


「――なあ、さっき誰かこっちの方で……」

「何だ、これ!? 血痕が――」

「おい!? ……死んでるぞ!」


 廊下に置きっぱなしの死体が発見されたようだ。

 オレは抱えたサクヤを自分の腕の中に押し込むように、壁の隙間を進んでいく。オレとキリの後から入ってきたサラが、器用にナイフを動かして元通りに内壁を戻してしまった。確かに簡単にでも直しておけば、向こうから見つかりにくくなって、少しでも時間稼ぎが出来そうだ。


 やっぱり2人分通ろうとすると凄く狭いけど、何とか進めなくはない。でも部屋の中から見たら、何かがごもごも動いてるってバレてしまうかも。

 あいつらが隠し部屋に踏み込んで来る前に、ここを通り抜けた方が良いだろう。


 小柄なサラは、ちょこちょことオレの足元の隙間を這って、再びオレ達の前方に立った。サラに道案内を丸投げして申し訳ないが……もうこんな道、サラがいなきゃこの先どう歩けばいいのかも分からない。


「サラ。ここって地下だよな。どうやって上がるつもりだ? オレでかい荷物があるんだけど……」

「上がらない」


 軽々と言ってのけるサラの中で、逃走ルートは完全に出来上がっているのが伝わってきた。諸手を上げたオレとキリは、サラにルート案内を任せ、後をついてしばらく歩く。

 狭い通路の中、場所によってはぎちぎちとサクヤの身体を押し付けられるくらいに圧迫される。全然起きる様子がないのが不思議だが、首元に弱々しい呼吸を感じて、そんな場合じゃないけど少しだけほっとした。


 それに、こんなに密着することになるなんて。

 やっぱりこいつをキリに任せなくて良かった。


 歩いている途中でふと、どこからか異臭が漂っていることに気付いた。進む度に少しずつ強くなってくるそれが、オレの頭に1つの推測をもたらす。

 少し先で足を止めて、右手で口と鼻を塞いだポーズでオレ達を待っていたサラが、真下にぽかりと空いた穴を左手で指していて。

 ――異臭は、そこから広がっていた。


「おい、これまさか……下水道……」

「降りろ」


 ……命令形かよ。

 オレの尻込みを敏感に感じとっているらしい。


 確かにこれなら、サクヤを抱えて上らなくていい。

 むしろ、降りる――と言うか、落ちる?

 ここに忍び込む最初の時点で、サラはこの逃走ルートまで考えてたワケだ。


 ――ああ、くそ。

 もう二度と! このルートを使う羽目になりませんように!

 オレは一度、頭上を見上げて、神だか何だか分からないものに祈る。

 それから腕の中のサクヤの頭をしっかりと抱えると、息を止めて穴に飛び込んだ。


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●


 昼間は暖かいけど、やっぱり夜は冷える。

 それでも河に飛び込まずにはいられなかった。

 広い河の浅瀬で膝まで水に浸かって、出来るだけ布を擦って汚れを落とす。

 まさかこんなぐちゃぐちゃの状態で、風呂屋に行くワケにもいかない。


 不幸中の幸いと言うか、身体のほとんどがマントで包まっていた上に自分で歩いていないサクヤはほとんど汚れていない。少しばかり、ずるいと思うけど。


 もっとずるいのは、オレと一緒に歩いていたはずのサラとキリだ。

 オレなんか背中まで飛沫が散っているのに、サラもキリもせいぜい膝下くらいまでしか汚れていない。

 さすがに不機嫌そうな顔をしていたサラが、オレの汚れ具合を見ると、勝ち誇ったように笑った。


「……あんたの笑顔はレアだけど、そこ笑うとこじゃないから」

「歩き方が下手」

「下水道の歩き方なんて知らねぇよ」


 サラはいつもの無表情に戻ると、自分のブーツを洗うのに使っていた石鹸を、オレに貸してくれた。

 洗う範囲が少ないので、まだごちゃごちゃと洗いまくっているオレを置いてさっさと河辺に戻ってしまう。


 深夜の河原は大きな石の影がそこかしこにごろごろしていた。それでも草が密集して生えているところもあって、そういうところは多少柔らかい。相変わらず眼を覚まさないサクヤは、とりあえず草の上に寝かせてある。

 サラはそんなサクヤに近付くと、乱暴にマントを剥がしてから河へ戻ってきた。そのまま無表情で河の水にマントを漬けているのは――たぶん親切4割、怒りが6割くらい。


 だってそのマント、色々隠しポケットがあるんだよ。確か毒針とかもしまってる。

 それをこんなところで洗うと、まずいんじゃないかな……少なくとも本人に聞いた方が良かったと思うけど、終わったことは仕方ない。後でサクヤには教えてやろう。


「なあ、サクヤはいつ起きると思う? 寒いし火を焚きたいんだけど……」


 サラは無言のままマントをごしごしこすっている――多分この感じは、知るかよ、くらいの冷たい返事だろう。

 キリが片手にぐちょぐちょになった自分の靴を提げて、静かに近付いてきた。


「先程確認したが、彼女には外傷はなかった――治ってしまったのかもしれないが。どちらにせよ、その様子ならまもなく目覚めるだろう」


 ぼちゃり、と河に靴を漬ける様子は……まあ、こういうかっこいい大人でも下水道歩くのは嫌なんだな、とオレも納得する顔をしていた。

 靴を洗いながら、低い声で忠告をくれる。


「追手もそろそろ追いかけて来るはずだ。火を焚くなら彼女が起きてからの方が良い。私とそこのディファイの娘で撃退出来るとは思うが、可能なのなら万全を期した方が良いだろう」


 冷静なキリの言葉に、オレは強く頷いた。

 確かに今頃、サクヤが逃げたことに気付かれてるはずだ。追い掛けられて見付かるのは構わないんだけど、キリの言う通りサクヤが起きてからの方が迎え討ちやすい。

 宿まで追い掛けて来られるのも嫌だし、もうしばらくここでこっそりと待とう。


 とは言え。

 気になるのは、キリがずっとサクヤのこと『彼女』って代名詞使ってるとこなんだけど。きっとディファイ一族と同じ勘違いしてるんじゃないかな。姫巫女は――サクヤは女だって。


 教えた方が良いような、別に教えなくても良いような。

 まあ、本人が起きてから、自分で言えば良いか。


 引き続き自分の身体を洗うけど、それにしても匂いが取れていないような気がして仕方ない。

 髪にも飛沫が飛んでいるのかな。水に頭から潜って、石鹸を擦り付けてわしゃわしゃと洗った。


 ……うん、やっぱり匂いが取れない。

 くんくんと自分の全身を嗅ぎまくって分かった。――服だ。

 仕方ないので、下着以外全部脱いで石鹸で擦りまくる。寒いけど――この匂い、我慢できない……。

 隣でスラックスを履いたまま膝下と靴だけ洗っているキリが、オレを見て苦笑した。


「だいぶ汚れたな」

「うん。……何であんたら、そんなきれいなの?」


 サラに聞いたと同じ問を投げると、低い声が返ってくる。


「君は飛沫を飛ばし過ぎだ」

「好きでそうしたワケじゃないんだけどな……」


 オレだって出来るだけ飛び散らないように歩いたつもり。

 それでも獣人達の抜き足には敵わないんだから……やっぱり身体能力が段違いなのだろう。


 泡が流れて、それなりに匂いも薄くなったところで河から上がると、サラはサクヤの隣に丸まってうとうとしていた。相変わらず食う寝る欲求のはっきりしたヤツ。まあ、こんな場所では大して疲れも取れないかもしれないけど、寝れるなら寝ておいた方が体力温存になるだろう。


 びしょびしょになった服を絞る。

 さすがに下着まで脱ぐのはどうかと思うので、そっちは履いたままで端っこだけ絞るだけだけど。濡れて貼り付く感触が気持ち悪いけど仕方ない。


 びちゃびちゃと音を立てる水の音で、先程までぴくりとも動かなかったサクヤが、小さく身じろぎするのが見えた。

 慌てて駆け寄ってその頬を叩く。丁度同じタイミングで河から上がったキリも、オレの後ろから覗き込んできた。


「おい、サクヤ――」

「……う……ぁ――」


 オレとキリの注目を浴びているサクヤは、小さく呻きながら頭を押さえる。


「……あ、たま、いたい」


 途切れ途切れのサクヤの声を聞いて、真横でうとうとしていたサラが飛び起きた。すぐに腰から水筒を外して、差し出してきてくれる。

 それを受け取って、サクヤの背中を支えながら抱き起こした。


「とにかく水飲め。ほら」


 水筒を開けてその口元に当ててやる。眉をしかめているのは頭が痛いからだろうけど、入れ物を少しずつ傾けると、ごくごくと喉を鳴らして水を飲んだ。

 適当なところで口から水筒を離してやると、満足げに長い息をつく。


 うん、良かった。とにかく無事みたい――


 ――と、その直後。

 何故かその眼が改めてオレの姿を認めた瞬間に、ゆっくりと見開かれた。


「……お前、どこに行ってた――」

「は? 何の話だ」

「……嫌だ、どこに行くんだ!」


 いきなり抱きつかれて、避ける間もなく裸の胸に顔を埋められた。

 熱い息や柔らかい頬や押し当てられる唇が――ダイレクトにオレの肌を擦る。


「――な!? おい、ちょっと待て! あんた、おかしいぞ」

「嫌だ、嫌だ、嫌だ! 裏切らないと言ったのに!」

「裏切ってないよ! 何言ってんだ、あんた――」


 錯乱してるのは、この感じ、もしかして――


「――あんた、今再起動してる(・・・・・・・)のか」


 息をしているから大丈夫かもと思ってたけど。やっぱり、一度死んで生き返ったのだろう。オレ達が迎えに行った時には既に蘇生が完了していただけで。

 昏睡から覚めた今になって、何が何だか分からない再起動リブート状態に入っているようだ。


「嫌だ……どこに行くんだ……」


 鎖骨の辺りで喋られると、ぞくぞくする。

 ――ぞくぞくするほど、オレにしがみつくサクヤの様子が哀れだった。


 死なないと言ったって、死ぬことが辛くないワケじゃない。

 再起動リブートの時、この状態から立て直すのが辛いといつか言っていた。


 きっとまた現実と悪夢の狭間をうろうろしてる。

 オレは腕の中の身体を、力を入れて抱き締めた。


「もう離れないし裏切らない。あんたがオレを信じられないなら、何度でも同じことを誓ってやるから――」

「カイ……」


 オレの言葉を聞いて、背中に回っていたサクヤの手がゆっくりと離れてオレを解放した。

 細い身体がするりとオレの腕の中を抜けて……そのまま後ろに這い退がっていく。


「……お前、何で服を脱いでるんだ?」

「あ。戻った……のか?」


 少しほっとしてサクヤの表情を見下ろしたところで――

 ――え? ちょっと待って。その視線は何だ?

 何で、少しずつオレから離れてく?

 そんなまるで、汚いモノを見るような眼で――


「お前、俺が死んでる間に何をしようとしてた……?」


 震える声を聞いて、ふと自分の姿を見直すと。

 ――パンツ1枚しか履いてなかった。


「――っ!? ちょ、違うっ! あんただよ、あんたが抱き着いてきたの!」


 「なあ!?」と、遠心力で首が曲がりそうな勢いで、サラとキリの方に助けを求める。

 サラは何も喋らなかった。

 どうやらオレを見捨てるつもりらしい。小さく首を傾げてオレを見ているが、それ以上は何も言わない。その顔――「面倒」と書いてあるように見えるのはオレだけか? サラが口添えしてくれれば、それだけで誤解が解けるのに!


 一方キリはと言うと、小さな声で「君達の関係について述べる言葉はない」と呟いている。何だよ!? あんたもオレが何かしようとしてると思ってたのか!

 くそ! こんなことならさっき、サクヤは男だってちゃんと教えておけば良かったよ!

 つい15分前の自分の思考をひどく反省した。


 サクヤがふるふると首を振りながら囁く。


「……あれか? 昨日俺が変に煽ったのが悪かったのか? だからって人が死んでる間を狙うなんて……」

「違うってば! 何であんたはそんなバカなの!?」

「バカ!? お前に言われたくない! 目が覚めたら裸の男に抱き締められながら告白されてるとか、何の悪夢だ、これは!」

「こっちが聞きたいよ! 何の悪夢だよ、これ!」


 確かに目にもの見せてやるとは思ったけど、やってもいないことを疑われるのは非常に不愉快だ。

 何で助けてやったヤツに、こんな疑われ方されなきゃいけないんだ……。


 最終的に。

 今朝別れたところから、順を追って丁寧に説明したことで、何とか信じてもらえた。


 ただし、関係ないって何度も言ったのに、何故かサクヤは昨晩のことを謝ってくれた。謝るのはいいんだけど……こんなのは、オレが思ってた復讐じゃないっ……。

2015/10/09 初回投稿

2015/10/10 校正――誤字脱字修正及び一部表現変更

2016/04/26 誤字脱字修正

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