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奴隷商人は嘘をつかない  作者: 狼子 由
第6章 Cherish
78/184

interlude11

(さて、いつに繋げようか)

(この人の時間は長すぎて)

(今までの全部を追うことは出来ない)

チャンネル(・・・・・)を、選ばなければいけない)

(カウントダウン――。5……3……1……)


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●


「――ほら、何でそこで魔力を絞るの!?」

「何でって……」


これ以上、出力を上げれば。

暴走するからだ。


抑え込む力を必要としない義姉には。

多分、理解しづらいのだろう。

さっきから「もっと上げろ」と言われるが。


周囲を取り巻く魔力で。

伸ばし始めた髪が宙に浮くのが見えた。

その色が義姉と同じ白銀に染まっていて。

そのことだけで少し、嬉しいと感じる。


「さあ、詠唱を続けて……『刻澱む、砂海を越えよ』」

「刻澱む、砂海……、っを、越えよ」


詠唱を道標に魔力が自分を囲む。

細かい調整で魔力を流し込む。


(熱い)

(これが、魔法を使う感覚……)

(この熱い液体のようなシロモノが、魔力?)

(身体の中を流れるこれを)

(少しずつ、外に)


詠唱は、魔力を高める為の道具のような。

描かれた下図のような。

その意味を理解して唱えれば。

魔力の制御が楽になると、義姉は言うのだが。


「もっと魔力を上げて! 『極彩の、業火の庭を渡れ』」

「極彩、の、……業火ぁ」


無理だ――違う。

もっと絞れ。


――通らない。

そこじゃない。

違う――溢れる!


詠唱で、無理矢理に開かれた中を。

魔力が勝手に通ろうとして。

溢れそうになるものを抑えようとした腕が震える。


(だめだ、押さえきれない)

(力が散開する――)


「ダメよ、サクヤ! 出力を下げないで!」

「あぁぁあっ!」


鼓膜が震えるような爆音とともに。

左手の肘から先が、弾け飛んだ。



「――っいぁあ!……」


――熱い!

――熱い。強烈な喪失感。


何度失敗しても。

この欠損する感覚には、慣れない。

身体中から冷や汗が吹き出る。


慌てて駆け寄ってきたイワナが。

残った二の腕に両手をかざしてくれた。

まるで歌のように響くリドル魔法の呪文を唱え。

治癒魔法を発動させて、その両手が白く光る。


(この歌――いつか、あんたが)

(唄ってたような気がするけど)

(これが、リドル魔法なのか)


歯を食いしばりながら、イワナの魔力を受ける。


それでも義姉に言わせれば。

欠損しても何度でも失敗出来るのだから。

それでいいだろうと、いうことだが。


(いや、痛い痛い痛い――)

(全然良くないっ!)


腕に自動再生が走り、そこからぴりぴりと。

身体中に電流のように魔力が走り続ける。


魔法の使用を止めれば。

普段なら、巫女の姿から戻るはずが。

性別だけが戻らない。


髪の色は、徐々に金に戻っていくのが見える。

どうせなら――髪も眼も戻らなければいいのに。


かざされたイワナの手のひらから。

温かい、光のような波動が伝わってきた。

すぐに出血が止まり、左腕の復元スピードが早まる。

痛みが和らぐ。


手際の良さに、我が義姉ながら惚れ惚れする。


「……俺も、これを覚えられればいいのに」


苦痛が薄まると、冷や汗も止まった。

固まっていた身体の力が抜けて、思わず膝を突く。


「治癒魔法はリドルなら誰でも使えるけど、その代わりそれ以外の魔法を私達は使えないのよ。だから、あなたに頑張ってもらわないと」

「……やっぱり、俺には無理なんじゃ……」


言いかけた口を両手で押さえられた。


「言ってはダメと言ってるでしょ!」

「…………」


条件反射で頭を下げた。

しかし、考えるだに無茶だ。

もともと、リドル族は治癒魔法に長けた一族。

個体差はあっても、皆が幼い頃からその能力を発揮する。


もともとが魔力を持った一族だから。

誰が姫巫女になっても。

泉の莫大な魔力に耐えられるのだ。


魔法も使えぬ人間の身で。

突然、これを操作しろと言われても。


(後悔?)

(いや、でも、諦めようとしている)


腕の再生が終わる。

体内を走っていた電流のような力が途切れて。

巫女の身体から戻ったことが分かった。


復元した腕を動かしながら確認していると。

義姉がいつものポーズで、両手を腰に当てた。


「サクヤは細かいのよ。もっと振り切って、出力を上げてしまえばいいのに」

「いや、何て言えばいいのか……出力を上げると、あちこちから魔力が漏れる感じがするんだ。それを抑えようとするとキャパオーバーする」

「私なんか、そんなの気にしてないのに……」

「そのままにしとくと、そこから暴発しない?」


これは自分の感覚なので。

義姉も全く同じことを感じているのかは、分からない。


(今、1回経験しただけのオレには)

(全く分からない)

(あんたの頭の中で、必死になぞっているけど)

(……ダメだ、理解出来ない)

(やはり、自分にない概念を理解するには、時間がかかる)


ただ、話をする限り多分。

義姉の治癒魔法も、姫巫女の魔法も。

同じ道理に則って発動しているような気がする。

ならば義姉のアドバイスは有効なはずだ。


ああ、と義姉が思い付いたように手を打った。


「ねぇ、これ見て」


地面を指差す。

何故か、自分と義姉の足元だけ。

緑の草が、異様な背丈に伸びていた。


「これ、治癒魔法の余波なの」

「……今、イワナが使った?」

「そう。多分、サクヤの言っている『漏れる』という感覚が、これだと思う。そうすると、私なんかだだ漏れにしてるのね」


義姉は微笑みながら言葉を続ける。


「ね。サクヤも気にしなくていいのよ。そこから暴発すると言っても、実際に暴発が始まるまでに発動させてしまえば、こちらのものよ」


何という力技。

少し……呆然とした。


(ああ。さすが、あんたの義姉ねーちゃん……)


だけど、イメージとしては分かった。

魔力を塗りつぶす感覚。

はみ出ても、必要な部分に魔力があれば構わない。

発動してしまえば、暴発も余波も。

発動した魔力に吸われてしまうだろう。


(何だか、いいイメージだ)

(原理は分からなくても、この感覚)

(うまくいきそうな感じがする)


「……随分、力技に思えるんだけど」

「まずは、それで魔法の感覚を掴むのがいいわ。それで慣れてきたら、細かいところを補修出来るようになればいいんじゃないかしら」

「イワナは今でもその方法を使ってるんじゃないか?」

「私は気にしないもの」


自分は気になるのだが。


(オレも気になるよ)

(でもさっきから広がってるこのイメージ)

(このパターンって)

(……あんた、今でも使ってるような気がする)


とにかく一度試してみることにした。


暴発する前に発動させるには、詠唱を省略した方がいい。

泉の魔力を受けている限り。

魔力不足には悩まなくて済む。


安全の為、義姉には遠くへ移動してもらう。


身体の中の魔力を。

外側との接点を一息に開放し。

一瞬で、流出量を全開にする。


周辺でバチバチと火花が散っている。

溢れた魔力が暴発寸前に陥っている。

それでも、魔法の発動の方が早い。


詠唱なしでも、もう魔力のルートを思い起こせる。

今までに何度も練習した。

その、魔法――。


「――月焔龍咆哮ルナティックロア!」


鍵になる言葉(キーワード)と共に、ごっそりと魔力を抜かれた。

抜かれた魔力が左手の前で渦巻く。

白い光が渦の中央に固まって。

真っ直ぐに、放たれた。


(これ)

(あんたの――決め技だ)


周辺を飲み込みながら進む白い光を。

茫然と、見送った。


「……できた」


左手を見つめていると、背後から。

勢い良く押し倒された。


「――やったあ!」


耳元で上がった歓声は、義姉のものだ。

抱きついてきた義姉と一緒に。

頭から地面に突っ込みそうになったが。

危ういところで、手を突いた。


それでも2人分の体重と勢いを支えきれず。

結局は、地面に転がる。


「やった、やった、やったね!」


自分の背中の上で、義姉がはしゃぐ声を聞いていると。

これはこれでいいかと、怒る気も失せた。


(……すげぇ、痛いけどな。膝)


真っ先に地面とぶつかったのが膝だった。

自動再生が発動したところを見ると。

結構ひどくぶつけて、擦りむいたと思う。


それでも、先程の左腕を喪った痛みに比べれば。

大したこともない。

やり切れない思いの中で負った怪我に比べれば。


「あ、ごめんね。痛かった?」

「……いや、さほど」


先程と比べれば(・・・・・・・)、さほどではない。

これは嘘ではなくて、全てを言い切らずに略しただけだと。

自分に言い聞かせるように考える。


守り手は嘘をついてはいけないが。

本当のことを言わねばいけない訳ではない。


(本当に)

(今のあんたが、使いこなしてる論法だ)


なるほど、こういうことかと納得した。


「ああっ、折角ここまで伸ばしたのに……」


義姉が悲鳴のような声を上げた。

見ると、髪の先が焼き切れたようになっている。

先程の魔力の余波でできた火花に接触したのだろう。


「……今度からは結んであげるね」

「頼むよ、イワナ」


微笑む義姉を、心から愛しく思う。


この人の為なら。

多少の痛みなど。


命でも。

人生でも。

俺の持てる全てを、捧げてやる。


●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●


(そう、これが義姉ねーちゃんか)

(あんたにとって、そういう存在なんだ)


(そろそろ朝だし、切断するよ)

(カウントダウン――、5……3……1、切断――)


――暗転――

2015/09/20 初回投稿

2017/02/12 サブタイトルの番号修正

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