表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷商人は嘘をつかない  作者: 狼子 由
第3章 Causing a Commotion
37/184

interlude6

眼が覚めた。

辺りには、人影はない。

今が何時で、ここが何処なのか。

思い出したいのに。


ぼんやりとした頭は、うまく働いてくれない。


(いつもの夢なのに)

(何だろう、視界が暗くて)

(前が見づらい)


身体を起こそうとしたが、まず、腕が動かない。

苦労して、首だけでも回そうとするのだが。

なかなか、思うように持ち上がらない。


(――何だ?)

(時々……)

(――意識が)

(……途、切れ、る?)


……あれ? 今、自分は、何をしていただろう。

最初に目覚めてから、どのくらい経っているのだろう。


ふわふわと浮かぶような感覚と。

どこかに沈んでいく感覚を繰り返しながら。


取りとめもなく。

幼い頃のことを思い出したり。

明日の予定を考えたり。

誰かの顔を思い浮かべたり。


(……何だ、これ?)

(本当に、取りとめがな、い)

(ぶつぶつ、と途切れて)

(一瞬ごとに、違うことを考えてる?)


何だか楽しくて。

何だか悲しくて。


そうして、時間が経つにつれて。

徐々に、感覚が戻ってきて。

身体中が、引き裂かれるような痛みに襲われて――。


(何だ、これ)

(痛い、痛い! 痛い!)


――ふと、気付いた。


そう言えば、さっき。

崖から、突き落とされて。

死んだんだった(・・・・・・・)――。



●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○



寒い。

眠い。


(また、違う場面だ)

(痛くはないけど)

(ひどく、凍える)


うとうとと、眠っては。

時々、眼が覚める。

純白に、埋もれる。


(この、瞬きをしている間に)

(どれだけ、時間が経っているんだろう)

(そもそも、これは、眠りなのか?)

(むしろ、眠りよりももっと深い――)


1人で、くすくす笑ってみた。

何もかも、馬鹿馬鹿しい。


空から振ってくるのは、何だろう。

砂糖菓子のような。

きっと、甘い?


誰かにあげたいような気がするけど。

誰だったか。


(随分と、意識が、飛んでる)


!! ――ああ、駄目だ。

違う、目を覚ませ。


死から戻ってくる時は、いつだってこうだ。

朦朧として、深く考えることが出来ない。


おかしな、夢のようなことばかり。

次々に浮かぶ、妄想のような――。


(また、ノイズが――)

(――ノイ、ズが走るように)

(途切れなが、ら、繋がる)


……あれ、何を、考えていたっけ?

何か、考えるようなことあったっけ?


ベッドの中で、ぬくぬくと。

ひだまりの下で、ぽかぽかと。

寝ていたのではなかったっけ?


(意識もはっきりしないまま)

(こうして、何度も繰り返し、続けている……)


……ああ、眠い。

春が来るまでは。

こうして、繰り返すしかない――。


(また、雪が降ってきた)

(雪が溶けるまで、このままなんて――)



●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○



自動再生が、身体を無理矢理、治そうとする時。

痛くても、それは、我慢できる。


(こんなに、軋むような、痛みでも?)


生きているなら、動ける。

動ければ、まだ、やれることもある。


(いっそ、この痛む身体ごと)

(切り離してしまいたいくらいなのに)


問題は、一度死んでしまって。

死んでから、再生される時。


いつも、何も持たないまま、放り出されたようになる。

何も分からなくて、苦しい程の、不安に喘ぐ。


それから、記憶が、少しずつ戻ってきて。

夢と幻覚が。

過去と現在が。

ぐちゃぐちゃに混じる。


どれが虚像で。

どれが現実で。

どれが、記憶か。


(幸せな夢の中から、現実へ叩き落とされて)

(悪夢の中、走り続けても、逃げられない)


――駄目だ。

脈が、弱まってきた。

再生が追い付かない。

この――、頼む、動け!


一度、止まれば、生き返るまで。

また、時間がかかってしまう。


それに――。


もう、嫌だ……。

死ぬのは――生き返るのは、辛い。


(傷付くことよりも)

(死ぬことよりも)

(この、狭間の感覚に怯えてる)


これを繰り返したから。

前代の巫女も摩耗していったのだろうか。

まだ、一族を憎むという気持ちはないけど。


ただ、ひたすら。

生き返る瞬間が、怖い――。

2015/07/12 初回投稿

2015/08/06 校正――誤字脱字修正及び一部表現変更

2017/02/12 サブタイトルの番号修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ