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奴隷商人は嘘をつかない  作者: 狼子 由
第3章 Causing a Commotion
26/184

interlude4

目の前に蹲る少女は、泥に塗れていた。


(……あれ? ここ、どこだっけ)

(また、夢かな)


種族の特徴である黒髪も。

つんと尖った頭上の耳も。

長いしなやかな尻尾も。

全てが泥に汚れ、くすんでいる。


(まるで黒猫みたいな)

(初めて見る種類の獣人だな)


それでも少女と顔立ちのよく似た少年は。

抱きしめた彼女の身体を離さない。


さてどうしようかと、困惑で隣に立つ男に問いかけた。


「……いいのか?」

「私にはどうしようもない。掟破りは追放する取り決めだ」


尋ねた自分に答えた長老の。

声は冷ややかに聞こえても葛藤が見えた。

自分だって似たようなものだ。


取り決めなんて――。

だが、自分達がそれを言う訳にはいかない。

口に出せば、もう戻せない。


(また、あんたは思いを口にしない)

(あんたが言うのは事実だけだ)


こんな幼い少女が一族を追放されて。

1人で生きていける訳がない。

だからせめてもの生命の保証として。

自分に売り渡すということなのだろう。


そう、自分なら。

この少女を売却する先にも当てがある。


(瞼の裏に、いつか見た王の顔が浮かんでる)

(それが当てってヤツか?)


「……分かった。じゃあ頂いていこう」

「いやだ、待って! 違うんだ、サラは悪くない! 全部僕が……」

「……トラ」


少年は少女を離さない。


並べれば、少女の方が聞き分けは良さそうだ。

2人は兄妹らしいけれど。


自分でも残酷だと思う。

それでも、少年の言葉に頷くことは出来ない。

求められたのは、少女の売買なのだから。


「お前も一緒に売られたいのか」


(……そんなに振り絞るような声で)

(無理に言葉を紡がなくてもいいのに)


少女の黒い瞳を見つめながら。

少年に話し掛けた。


少女が目を見開く。


彼女の次の言葉を自分はとうに予測している。

分かっていて煽るのは酷いと感じながら。


少女が静かに、少年の手を振り払う姿を、見ていた。


(思惑通りに進んだはずなのに)

(胸が苦しいのは……何故なのか)

(分かってるんだろ、本当は)

2017/02/12 初回投稿

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