9 憑依と操作
【前回までのあらすじ】継承戦の途中に襲ってきたヒデトは、第四王子シノの親衛隊長レイを乗っ取っていた。何とかヒデトをレイの中から追い払ったけど、ヤツの本当の狙いはサクヤだ――
現実に戻ってきた瞬間に、目の前にいたレイがくらりとバランスを崩した。
そのまま真っ直ぐに倒れる身体を、慌てて正面から受け止める。
「――レイっ!」
悲鳴のような声を上げてシノ王子が駆け寄ってきた。
「とりあえず中のヤツは抜けたから、もう大丈夫だと思う。だけど……」
言いながら、腕の中のレイの身体を渡す。
受け取るシノの腕にこもった力が、心配の強さを明確に示していた。安心してレイから手を離し、オレは森に視線を向ける。
「こっちは大丈夫でも、森の中はヤバそうだ……」
「待って、入っちゃダメだよ! 継承戦の途中であなたが乱入したりしたら――」
対象者以外が森に入るのはルール違反。
だけどヒデトがあの中にいるなら、行かなくちゃ。
レイに『憑依』出来るなら、サクヤ以外の他の8人だって危ないかも。オレが行かなきゃサクヤ1人で全員を相手しなきゃいけなくなることも考えられる。
心の力が大事な黄金竜には、気持ちの芯が強いヤツには『憑依』も『操作』も出来ないはずだけど。
……そんなの、確認も出来てなかった。
誰が一番操りやすいかなんて。本当はオレが確かめとくべきことだったのに。
止めようとするシノの手がオレのシャツを掴んだ。
振り払うために、森に背を向けたところで――
「――カイ、どけろ!」
突然、森から飛び出してきたサクヤが声を上げながらオレに体当たりをかましてきた。
まさかそっちからやって来るとは思ってなかったので、さすがに予想外で避けられない。
咄嗟に抱きとめて、そのままサクヤの身体と勢いで突き倒された。
「――ぐへっ!」
背中に地面が思い切りぶつかった。
痛い。
痛いけど……とにかく、心配していたその人が無事で良かった。
「さ、サク……」
「邪魔だ!」
オレの思いをよそに、冷たい声で引き剥がすように腕を押し退けたサクヤは、即座に立ち上がって森へ向かって指先を向ける。
その視線の先から、エイジと師匠が姿を現した。
森からこちらへ駆け出してくる2人の姿を見て、安堵したオレとは逆にサクヤは――
「――雷撃槍!」
指先から真っ直ぐに魔法を放った。
白銀の髪を透かして、電光が師匠へ向けて奔る。
「サクヤ!? あれは師匠だぞ――!?」
「ナギがおかしい! ヒデトが何かしてるんだ!」
端的な言葉でサクヤの言いたいことは理解できた。
慌てて師匠に向けて触手を伸ばせば、伸ばした触手が弾かれて――それで逆に確信する。『憑依』か『操作』かは分からないが、師匠にはヒデトの力が加わってる!
「カイ、お前なら何とかできるな!?」
「でき――何とかする!」
宝玉を握って、誰にも見えない精神の触手を更に伸ばした。
エイジが師匠から距離を取るようにこちらに向けて走りながら、背後に向けて弓を引き絞っている。
「あんま仲間割れはおいしくないけどさぁ――ごめんね、ナギちゃん!」
しゅぱっ、と風を切る音がリズム良く手元で続く。
足元ばかりを狙った連射はカンペキだけど、その全てを避け切った師匠は低く地を這うようにこちらに駆け寄ってきた。
「……ちっ、やっぱ読まれてるわー。さっき散々森の中追い回されたときに思ったけど、ありゃーナギの意識利用されてるな。何て言うんだっけ、少年? 『精神――」
「えっと――師匠の意識を利用してるなら『憑依』だ。蔵の国の麻里公爵みたいに、乗り移られてるってこと」
「ナギが残ってるならその方がやりやすい。エイジに後ろから援護させれば、俺なら倒せる――」
身も蓋もないことを言いかけたサクヤの言葉が、途中で止まった。
何だよ、とオレもその視線の先を追いかけると……周囲にいた見届け人達が何故か皆武器を取り、互いに争っている。
「……何だぁ? 見届け人のおっさん達、仲間割れかぃ?」
間抜けたエイジの声も、自分で言ったことをこれっぽっちも信じてない。そりゃそうだ、仲間割れとかそんなレベルの状況には見えないし。
オレはついさっきレイの中で聞いたヒデトの言葉を思い出して答えた。
「あれ全部ヒデトが『操作』してるのか……?」
「こんな大勢をいっぺんに? あいつ、そんなことも出来るのか」
苦々しく吐き捨てて、サクヤは向かってくる師匠に対峙するためにナイフを抜いた。
オレも周囲を観察しながら、師匠に向けて触手を伸ばす。
エイジが狙いを定めて弓を引き絞りながら、ぼそっと呟いた。
「……あ、矢が残り少ないわ。ごめん」
「ちっ……これだから弓使いは」
顔を引き攣らせながら、サクヤがぼやく。
だけど、んなこと言ってても仕方ない。オレは黙って周囲を見渡した。
どうやら見届け人達は半分くらいが操られてるみたい。操られてるヤツが操られてない人に攻撃してかかってるから、周囲はそれぞれ乱戦、混乱状態。
今はまだ操られてない人が防いでくれてるから、エイジの援護くらいで何とかなってるけど、もしあれが全部こちらにかかってきたら――その時に、師匠の中からヒデトを追い出せていなかったとしたら、かなりまずいことになることは疑いがない。
背後ではレイの身体を抱いたシノが頼りない表情でこちらを見上げている。
オレ達だけじゃない、この2人の安全も守ってやらないと……!
オレは改めて師匠の身体を触手でくるんだ。
包み込んだその身体に触手をずぷり、とめり込ませた瞬間に、それだけじゃとても止まらない師匠の身体が鋭い剣筋で斬り掛かってくる。
オレの前に出たサクヤが、師匠の刀をナイフで弾いた。
「――サクヤ!」
「黙ってそっちに集中してろ!」
しゃりん、と澄んだ音で跳ねられた刃が再び引き寄せられる前に、森の奥から黒いローブの人影が――
「火蜥蜴よ、炎の獣よ 我が名のもとに天空に踊れ――」
「……魔法使いか!」
「アキだ!」
シノの呼ぶ声を聞いて、ちっ、と舌打ちしたサクヤが師匠に蹴りを食らわした。よろめく師匠と距離をとってから、森へ向けて左手を掲げる。
「聖防御障壁!」
手のひらを中心に広がる魔法の防壁が、七色に輝いた。
その防壁にぶつかるように、完成した魔法使いの呪文が放たれる。
「――火焔珠」
赤く輝く火球がサクヤの魔法の壁にぶつかる。
壁に溶けるように薄まっていく紅を切り裂いて、再び師匠が突っ込んできた。
障壁を支えるサクヤの背中から飛び出したオレは、自分の剣で師匠の行く手を阻んだ。組み合う刃がぎぎっ、と耳障りな音を立てる。
つばぜり合いをする剣の向こうで、師匠の中をまさぐる触手に一生懸命心の隙を探らせながら叫ぶ。
「バカ! バカ師匠! あんたがヒデトに委ねちゃう理由なんてないだろ! この将来安泰、順風満帆のエリートめ!」
ワケの分からない罵り言葉で自分を鼓舞しておいて、触手を通じて言葉が心を掠めたのを確認しながら、師匠の刃をオレは自分の剣で弾く。
「あなたも……勝手なことばかり言って!」
「――ははっ今度はどうだ、分かるか? こいつの鍵が……」
苛々と叫ぶ師匠の声の後を追って、荒れたヒデトの声が、同じ師匠の唇から漏れた。
魔法の壁から完全に炎の色が消え、サクヤがオレの前に出ようとナイフを構える。
ひとまずは抑えきった、と安心した直後に、森の中から今度は別の声が呪文を放ってきた。
「……そぐ破滅の雨に身を委ねよ――火焔散弾!」
「――!? 聖防御障壁!」
消しかけた魔法障壁を慌てて再展開する。
さっきと同じような赤球が、今度は幾つもぶつかってきて、障壁越しにあぶられるような炎の熱で頬がちりちりした。
「待って、何で!? アキもテルも! 森の外に攻撃するのはルール違反だよ!? ……ねぇカイさん、2人もさっきのレイみたいに大魔王に操られてるの!?」
「大雑把に言えばそういうこと!」
シノに『憑依』と『操作』の違いを語る暇はない。
切りかかってくる師匠の刀を抜きはなった剣で再び弾いた。
弾いたところで、障壁を支えているサクヤが視線だけをこちらに向けて叫ぶ。
「ナギ――お前、見損なったぞ!」
ぴくり、と師匠の肩が揺れた。
サクヤの言葉でこんな反応するってことは、やっぱり。
「師匠……あんた……」
師匠の心の隙。
それはつまり。
「あんた、まだサクヤのこと諦めてねーのかよ!?」
「――諦めきれると思ってるのか、このバカ弟子ぃ!」
無茶苦茶本気の斬り込みがまっすぐにオレを狙って振り下ろされた。
慌てて剣で受け流したけど、すぐに2撃目、3撃目と続く。
「何年追っかけ続けたと思ってんだ、畜生! そりゃあなたは毎日ラブラブ楽しいでしょうよ、だけどねぇ、俺はどうなるんですか! 何でいつも真面目に答えてもらえないんですか! いつもいつもいつもいつも『うるさい』とか『お前は黙れ』とか本気にすらしてもらえないってどういう――」
「うるさい、お前は黙れ」
「――あんた人の話聞いてるんですか!? 俺のこと何だと思ってんだよ!」
オレの背中の向こうでサクヤが余計なこと答えたおかげで、ますます激昂した。
あー、もう。
師匠のこういうとこがサクヤにとっては鬱陶しいんだろうなぁ、多分。
しかし、それはそれとして。
「サクヤさん……頼むから真面目に相手してやってくれ。こんなこと続けてて、サラやアサギが心配なんだよ」
森の出口のところにいる2人は、白黒ローブの人間。ってことは、森の中にはシノ陣営の虎族がまだ残ってる。
サラ1人なら心配ないけど、アサギは接近戦はからっきしだから、そんな2人を置いて、オレ達だけ森の外にいる今の状況は芳しくない。このままじゃまずい。
エイジもオレを支援するように情けない声を上げた。
「サクヤちゃーん、矢が切れたよー。取りに行きたいけど、こんな魔法がんがん飛んでる中じゃむーりー」
双方から責められて嫌そうに顔を歪めたサクヤが、がん、とブーツを地面に叩きつける。
「――ナギ!」
「何ですか、サクヤさん」
師匠は相変わらずオレに向けて刀を振るう。
つまらなそうな声で返事をして、唇を尖らせてるけど。
声かけられて微妙に嬉しそうなのが、ちょっとムカつく。
「……1回しか言わないからな」
「何ですか……」
何故か突然上擦ったサクヤの声が、背中から響いてきた。後ろにいるからどんな顔してるのかまでは見えないけど、声だけでも十分予想がつく。
オレに対峙してる師匠からは、きっとサクヤの顔が見えてるはず。斬り掛かってくる力もちょっと抜けて、明らかに気もそぞろ。ちらちらそっち見てる様子は、期待してない風を装いつつニヤニヤしてる。
闇が深い、と言えば良いのか。
考えが浅い、と言えば良いのか。
とりあえず、サクヤのことが凄く好きらしいのは分かった。
「ナギ……俺は」
「はい」
「俺は、お前のこと……」
お前のこと――本当は好き? 子どものように思う? 愛してる?
ごくり、と師匠が息を呑む。
どんな言葉が続くのか、期待してるんだろう。
――だけど、師匠。
良いか、サクヤの発想は確実にオレらの予想の斜め上を行くぞ?
「俺はお前のこと――あんま良く分かんないから、何でそんなに俺にこだわってるのかが全く理解できない」
「……えぇぇえぇぇぇっ!?」
すかーん、と音を立てて、師匠が愛刀暁を地面に放り捨てた。
師匠の心に突っ込んでた触手が、行く手を阻む扉がぴきり、とひび割れた音を伝えてくる。
「ちょ、サクヤさんっ! 俺達むかし一緒に旅してましたよね!?」
「お前が小っちゃい頃な」
「俺、その後もあなたと一緒に行きたいって、あれ程言いましたよね!?」
「それがまず分からん。何でお前、そんなに旅に出たいんだ? 青葉の国は嫌だったのか? 別のところに売ればよかったのか?」
「そういうことじゃない! あなたと! あなたと一緒に行きたかったんですよ!」
「俺はお前とは行きたくない。お前、突然斬り掛かってくるから怖い」
「だーかーら! それはあなたが、自分に勝ったら俺を連れてってくれるって言ったからで……」
「こんな喧嘩してる場合か。俺はもう言うこと言ったぞ。
――我が名は悠き夜の羽
浮遊する器に注ぐ、紅の永遠に沈む
黄金の鎖かけ、古の盟約に従う者――」
言いたいことを言い切ってしまうと、もう師匠から興味を失ったらしい。
サクヤは魔法障壁を展開したまま月焔龍咆哮の呪文詠唱を初めてしまった。
ほーら。そもそもの気持ちが全く伝わってない。
すれ違いも甚だしい。
オレはそんなどうしようもないやり取りを横目で見ながら、師匠の心の中にぐいぐいと自分を入れ込んだ。目の前に立ち塞がる廃墟のような心の建物に意識を移す。
サクヤの冷たい態度によって、哀れにもばっきばきにヒビの入った扉を蹴り開けて、荒れ果てた部屋の中で苦笑してるヒデトに声をかけた。
「……人選間違えたな、ヒデト。師匠は強いけどアホなんだよ」
サクヤもだけど、と心の中で呟きながら皮肉ってやると、霞んだ指先を見下ろしてヒデトが笑った。
「さっきのもそうだが、親衛隊長ってのはこんなもんかね。それでも時間稼ぎくらいにはなったかな。この男にはできればお前を斬るくらい――おや?」
白銀の髪を揺らしながら、ヒデトはそこで言葉を切って、自分の身体を絡め取るように部屋の端から伸びた鎖を見下ろした。
「どうやら逆に捕らえようとしているらしい。そうすると、この男の心の隙は罠だったってことなのか。俺にすら本心を読ませないとは、予想よりも凄い男なのかもな……」
「罠って言うか、やること極端って言うか、行き当たりばったりって言うか……まあ、とにかく変な人だよ」
本心を読ませなかったんじゃなくて、多分、その時その時で良いと思う手段をとってるんだろう。
本気でサクヤに思いをぶちまけたくて隙を作ってしまったけど、侵入されたらそれはそれで良いチャンスだからこっちも片付けとけ、みたいな体当たりなんだと思う。
「まあ、師匠の本心なんかどうでも良いよ。こうしてあんたを捕まえられたなら、レイの時みたいには逃げられない。あんた、ここで終わりだ」
オレは自分の触手を出来るだけ呼び込んで集める。
ノゾミの知識が教えてくれる。
殺られても回復する黄金竜の魔術師を無力化するなら、この方法しかない。
相手を吸収して、消してしまう。自分の中に取り入れて、ノゾミの時みたいにぐるぐるに縛って倉庫に突っ込んでおくんだ。それでようやく――魔術師をオレの中に封印出来る。
オレの動きを見ながら、紅の瞳が楽しげに細められた。
「俺を取り込むつもりか? 動けないオレを触手で攻撃すれば、そりゃ見た目はお前の方が有利だろうが……精神体同士が混ざりあって、どちらが勝つかは分からんぞ。不利な俺でもお前を下して乗っ取ることも出来る」
「最後は自我の強い方の勝ちなんだろ。良いよ。オレは絶対負けられないって思ってるから」
ぞわぞわと揺れる触手で、狙いを定める。
槍のように尖らせて、付きこもうとした瞬間に。
「ま、それ以前に、そもそもここでこんなことしてる時間がお前にあるか、だな」
「時間……?」
何のことを言っているのかと、一瞬、外に意識を切り替えた。
「――カイ!」
呼んだのはサクヤだ。
はっ、と意識を自分の身体に戻した瞬間に、当のサクヤに押し倒される。
「うわっ!?」
見上げると、ほっとした表情のサクヤがオレを見下ろしてる。
どうやら斬り掛かられたオレを避けさせる為に、いっしょくたに地面に伏せたらしい。
オレの顔の横に、剣の先がぶっ刺さっている。
その剣を握っているのは、見届け人の1人。
「……戻ったか。剣を握れ、状況が悪い」
サクヤのナイフが一閃して、剣を握っている見届け人の手の腱を切り裂くいた。痛みに唸りながらも剣を握り直そうとして幾度も失敗する姿で、意識と身体がバラバラに動く『操作』を受けていることがはっきりと分かった。
見回せば、師匠は既に正気に戻って、斬り掛かってくるヤツを返り討ちにしてる。
これは朗報――いや、悲報か?
師匠が完全に正気に戻ってるってことは、さっきの隙にヒデトをまた逃がしてしまったみたいだ。
「そう言えば、さっきまでいたシノの魔法使い2人は……?」
「遠距離で間断なく打ち込んでくる魔法使いを、殺さずに止める方法はない。月焔龍咆哮で2人とも消した……」
きっと、この国との付き合いの長いサクヤにとっては、知っている娘たちだったんだろう。以前、双子執事を殺すことすら躊躇した時みたいに。
悔しそうなサクヤの声を聞きながら、オレも剣を取って起き上がる。
操られている見届け人達は身体が動く限りは止まらないので、手足を狙って攻撃するしかない。
振り向けば、シノの親衛隊長であるレイも既に意識を取り戻し、シノを守るために剣を振っていた。
一度取り戻したからには、もう二度とあいつの好きなようにはさせない。
レイにもシノにも師匠にもオレの触手を接続しておいて、もうヒデトには操れないようにしておいた。
さっきノゾミの知識を実践してようやく、こんなやり方があることを知ったけど。
最初から、この方法に気付いてれば良かったのに。
そうすれば、サクヤがあの白黒魔法使い達を殺す必要もなかった……。
嫌いな能力だなんて思ってないで、もっと、ちゃんと――
「おい、ぼんやりするな! エイジは倉庫へ保管してる矢のストック取りに行ってるんだ。人手が足りないけど、これじゃ人を呼んでも操られるだけだから、お前がきちんと働いてくれないと……」
答える途中で、別の見届け人が斬り掛かってきた。
正面向いてて先に気付いたオレは、サクヤを引き寄せて剣を避け、そのまま腕の中の身体を自分の背後――森の方へと押し出す。
「サラとアサギは?」
「まだ出てきてない。……なあ、ここはお前に頼めるか? 2人をこのままにはしておけないが、俺がここにいなくても大丈夫か?」
本当は、一番心配なのはあんたのこと。
ずっとオレの目の届くとこにいてほしい。
だけど。
「お前なら、やれるな?」
その言葉。サクヤがオレを信頼してくれてる。
いつだって背中に庇って、絶対に離れるなってそればっかりだったのに。
なら、オレだって。
「……分かった。援護する、行ってこい」
大きく頷く。
あんたも、オレも。
他のみんなも、皆でここを乗り切る為に。
「ありがとう。行ってくる」
踵を返したサクヤの軽やかな足音を背中で聞きながら、オレは改めて剣を構えた――
2016/05/24 初回投稿