おかえりなさい
「それじゃあ、今度こそ私は帰るとするよ。本当にもう限界なんだ」
優貴は欠伸をして大きく伸びをすると、車に乗り込んだ。
「はい、本当にありがとうございました。今日はゆっくり休んでください」
「ああ、そうさせてもらうよ」
頷いた優貴が車のキーを回し、赤いスポーツカーが甲高いエンジン音を響かせると、進は安全の為に一歩下がって車との距離を取る。
優貴がシフトレバーを操作し、アクセルを踏むと、スポーツカーは今までのエンジン音より一オクターブ高い音を響かせ、滑るように走り出す。
あっという間に見えなくなった車を見送った進は、最期に一礼して家へ向けてゆっくりと歩き始めた。
松葉杖での歩行はまだ慣れていないので、たった数分の距離とはいえ、いつもより余計に時間がかかるのがもどかしい。
今は一刻も早く帰り、歩と舞夏の顔が見たかった。
二人に会って、話したい事が沢山あった。
舞夏に、家族として頑張っていこうという話をしたらどんな顔をするだろう。
喜ぶだろうか。それとも迷惑な顔をするだろうか。
しかし、そうなっても一向に気にしない。
どれだけ舞夏に煙たがれても、これから先、舞夏が何かよくない目に遭ったら全力で助けてやるんだ。
歩と同じ様に、舞夏にも無償の愛を注いでやるんだ。
それは、進の新たなる決意だった。
この決意さえ忘れなければ、進は何度だって立ち上がれる。
二人の為ならば、親父にも負けない正義の味方になれるんだ。
自分の決意を確認しながら、進は一歩一歩ゆっくりと歩く。
程なくして、恋い焦がれた社員寮が目に映る。
何度も転びそうになりながらようやく玄関まで辿り着くと、玄関の脇のキッチンの窓から食欲をそそる香りが漂って来た。
そういえば、優貴から舞夏が料理を作ってくれるという話を聞いていた。
どうやら舞夏の料理は、噂より期待できそうだった。
進は、指を絆創膏だらけにして、涙目で包丁を振るう舞夏の姿を想像していた事を心の奥底で謝罪しながら、胸いっぱいに芳しい香りを吸い込む。
大きく深呼吸をし、顔を上げた進は精一杯の笑顔を作ると、ドアを開け、中に居る愛しい家族へ向けて挨拶をした。
「ただいま」
「「おかえりなさい」」
家族を題材としたほのぼのした作品が書きたい。そう思っていたはずが、随分と違う作品になってしまいました。柏木サトシです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。無事「幸せ家族計画」を完結させることが出来ました。
冒頭にも書きましたが、この作品は当初全く違う展開を予定しておりました。その作品がこうなってしまったのは、私に振りかかったある事件が関与しています。
とあるサービス業に従事する私ですが、ある日、信じられないような万引き被害に遭ったのです。被害額にして一万円以上盗まれ、忸怩たる思いを抱えていたのですが、その犯人が当日の夜に再び現れ、再び犯行に及んだのです。
警戒していた私と他の従業員が店を出た犯人を取り押さえたのですが、この犯人が物凄い勢いで暴れ、取り押さえて警察に突き出すまでにかなり四苦八苦させられました。
当然ながら警察に被害届を出すことになったのですが、この手続きがとんでもなく大変で、全ての書類を書き終えて警察署を出たのが夜中の三時過ぎと、散々な一日でした。
この時に警察の方から色々な話を聞かされたのと、身勝手な犯人に対する強い怒りが作品へと影響を及ぼし、ほのぼのアットホームな作品が変わっていったのです。
タガが外れるという言葉がありますが、一度でも罪を犯したことのある人は、警察に逮捕され、会社を解雇される。家族の信用を失って一家離散してしまう。などといった目に遭っても再び同じ過ちを繰り返してしまうそうなので、一度だけなら、などと思わずに犯罪の誘惑は絶対に跳ね除けるようにして下さい。
この作品を読んだお蔭で、犯罪の誘惑を跳ね除けられた。これまではバレなければいいと思っていたけど、もう足を洗うようにします。という方が現れてくれれば、作者として本望であります。
さて、少し説教くさくなってしまいましたが、最後に今作も掲載させていただいたた小説家になろうサイト様、私の作品を少しでも気に入っていただき、わざわざブックマークに登録していただいた読者様、ここまで読んでいただいた全ての方に心からの感謝を申し上げます。次作も、出来るだけ早く発表させていただきたく思っておりますので、その時はもしよろしかったらお付き合い下さいませ。
それでは、今回はこの辺でペンを置かせていただきます。
柏木 サトシ




