突撃
気持ちも新たに、ゴミ山を登り始める進だったが、
「おわっ!?」
ゴミ山に登っている最中、自分のすぐ真上に流れ弾が当たり、思わず首を竦める。
「言い忘れたけど、カオルちゃんがいなくなって相手の反撃が激しくなっているから充分気をつけてね」
「そ、それを早く言って下さい」
進が泣き言を言う間にも、先ほどとは比べ物にならない量の流れ弾が飛んでくる。
これでは上がった途端に、蜂の巣されてしまう。
「き、城戸さん。これはちょっと無理です」
「うん、そうだろうね」
一方の城戸は、安全な場所にいる所為か、冷静に頷いていた。
そんな城戸を進がうらめしく眺めていると、城戸が苦笑しながら謝る。
「ゴメンゴメン、それについてもちゃんと考えているから」
城戸は手を上げると、優貴に向かって大きく振る。
「それじゃあ、優貴さん。一発かましてやって下さい」
「ああ、任せとけ」
頼もしげな優貴の声が聞こえ、何事かと思った進が目を優貴へと向ける。
「いっ!?」
それを見た瞬間、進の顔が凍りついた。
一体何処に隠していたのか、優貴の手には今まで撃っていた小型自動小銃が玩具に見えるような巨大な筒、ロケットランチャーが握られていた。
優貴はロケットランチャーを肩に担ぐと、颯爽とゴミ山の陰から躍り出る。
「おい、ゴミ虫共! 今からこいつを貴様等の汚いケツにブチ込んでやるから、死にたくない奴はとっとと逃げな!」
優貴が叫びながらロケットランチャーの撃針を引いて肩に構えると、明らかに相手側に動揺が広がる。
ここまでの兵装を用意しているとは思っていなかったようで、武器を捨てて慌てて逃げ出す者もいた。
「弾け飛べえええええええええええええええええええええええ!!」
叫び声と共に、優貴はロケットランチャーの引き金を引いた。
瞬間、爆音と共に肩に担いだロケットランチャーが発射され、後方から大量の煙が発生する。
「ヒッ!?」
後方にいた進は、発生した衝撃波でゴミの山から振り落とされそうになったが、それに驚くより先に次なる衝撃が進を襲う。
優貴の撃ったロケットランチャーがクオリアの光の道場二階部分に着弾し、大爆発を起こしたのだ。
衝撃で地面が揺れ、まるで夜が終わりを告げたかのような赤い閃光と熱風が吹き抜ける。辺りに爆散したコンクリート片が飛び散り、下に居た人間は破片で下敷きにならないように必死の形相で逃げていた。
「……無茶苦茶だ」
一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図となった広場を見て、進は生唾を飲み込んだ。
「ほらっ、何をボサっとしている。とっとと飛べ!」
進が呆然としていると、軽トラックの下から二発目のロケットランチャーを取り出した優貴から檄が飛ぶ。
「は、はい!」
優貴からの言葉に、我に返った進は、這うようにしてゴミの山を一気に駆け上がる。
一番上まで登って立ち上がると、下では既に白鳥がキスをせがむように両手を広げた姿勢で唇を突き出し、目を閉じてスタンバイしていた。
「さあ、進ちゃん。私を思いっきり飛ばして頂戴!」
「え……あ、はい」
白鳥の態度に鳥肌が立ったが、進はかぶりを振り、白鳥の後ろにそそり立つクオリアの光の道場、その教祖の部屋の窓を睨んだ後、
「いきます!」
思い切って足場を蹴って宙へと躍り出た。
歯を食いしばり、自分が着地すべき場所、シーソーの上を凝視する。
勢いをつけて鉄骨の上に着地すると、一瞬の抵抗の後、風を切り裂く音を響かせながらシーソーの上下が逆転して白鳥の姿が消える。
「クッ……」
着地の衝撃がもろに足に響き、進は思わず顔をしかめる。
しかし、今は足の痛みを気にするよりも、白鳥の行方が気になる。
そう思い、顔を上げようとすると、
「はい、進君」
「うわっと!?」
突然、城戸から何かを投げ渡され、進は慌てながらもどうにか受け取る。
それは優貴が表の見張りを倒すのに使った武器、テーザー銃だった。
「って、これは……」
「一応、護身用にと思ってね。使い方は簡単。標的に銃を向けて、引き金を引くだけ。相手に針が刺されば、引き金を引いている間だけ電圧が流れるから、それを忘れないようにね」
「えっ……あ、はい。でも、どうして?」
進はとりあえずテーザー銃をズボンと尻の間にねじ込みながら城戸に尋ねる。
どうしてこのタイミングで、こんな物を渡されるのかが理解できなかった。
混乱する進に、城戸はカラカラと笑いながら上を見るように指を指す。
その指示に従い、上を見上げた進は、
「え?」
それに気付いた。
進によって飛ばされた白鳥は、目を見張るほどの高さで静止していた。だが、高さは精々地上五メートル程で、教祖の部屋へは遠く及ばなかった。
上昇への慣性がなくなった白鳥は、当然ながら重力によって落下を始める。
まさか……先ほどの城戸の言葉がフラッシュバックし、進は思わず城戸の顔を見る。
「言っただろ? 進君の出番はすぐに来るってさ」
「な……」
その言葉に進は絶句した。
つまりは最初から教祖の部屋に飛ばされるは、
「俺だったってことかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
百キロを越える白鳥が五メートルの高さから落下した衝撃によって、進はまるでカタパルトで射出されたかのような勢いで空へと飛ばされる。
白鳥は真上へと飛んだが、進は白鳥との体重差の所為で斜め上、城戸の計算通り教祖の部屋に向かって一直線で飛んだ。
その勢いたるは先程の比ではなく、状況を正しく理解するよりも早く目的地が迫る。
「このっ……もう、なるようになれ!」
進は覚悟を決めると、顔の前で両手を交差させ、来るべき衝撃に備える。
そして、派手な音を立てながら、進はガラスを突き破って教祖の部屋へと飛び込んだ。
「どうやら、上手くいったようね」
進が教祖の部屋へと消えたのを確認した白鳥は、安堵の溜め息をつく。
「僕が計算したんだ。間違えるはずがないだろ」
「フン、何、余裕ぶってるのよ。本当は進ちゃんが心配で仕方ないくせに」
「そりゃそうだろ」
城戸は肩を竦めると、爽やかに笑って宣言する。
「だって進君は、僕たちの家族じゃないか」
「……そうね。そうだったわね」
城戸の言葉に白鳥は大きく頷くと、シーソーから飛び降りて銃を拾い上げる。
「じゃあ、進ちゃんを援護する為にも早くここを切り抜けなきゃね」
白鳥は城戸にウインクすると、優貴の援護へと向かって行った。
それを見届けた城戸は大きく嘆息すると、その場にゆっくりと腰を下ろす。
気丈に振る舞ってはいたが、体に受けたダメージは思ったよりずっと酷く、先程から体が鉛のように重い。
どうやら自分はここまでのようだった。
「進君。二人を……君の大事な家族を絶対に助けるんだぞ」
ゴミ山にもたれかかった城戸はそう呟くと、ゆっくりと目を閉じた。




