救出作戦
車が急発進すると、当然ながら慣性が後ろに働く。
「おわっ!?」
「危ない!」
倒れそうになる進を、城戸と白鳥が空かさず抱き止めてくれる。
どうにか転落を免れた進が車の屋根に張り付いて前方を確認すると、爆走する軽トラックに驚いて逃げ惑う強面の男たちが見えた。
どうやら外の異変に気付いて、慌てて救援に駆けつけた連中のようだった。
誰もが腕に覚えあり、という見た目をしていたが、流石に猛スピードで突っ込んでくる軽トラックに対応する術はないようで、必死の形相で回避行動を取っていた。
しかし、そんな哀れな男たちに対し、
「オラオラ! 逃げ回ってんじゃねえぞ。ムシケラ共が!!」
禿頭の偉丈夫こと、白鳥が昔見たアクション映画のヒーローのように、逃げ惑う男たちに向かって、両手に装備したマシンガンの弾をばら撒いていた。
「ちょ、カオルちゃん、何もそこまでしなくても……」
突然キャラが変ったかのように、罵詈雑言を吐きながら銃を乱射する禿頭の偉丈夫の姿に、進は慌てて声をかける。
銃で撃たれた男たちは、まるで糸が切れた操り人形のようにピクリとも動かない。
ここからでは出血の有無は確認できないが、最悪の事態が起きているのではないかと危惧してしまう。
「心配しなくても大丈夫よ。流石の私もこんなところで殺人犯になるつもりはないわ」
青い顔をしている進に、油断なく銃の引き金を引きながら、白鳥が声をかける。
「今撃っているのは、非致死性のゴム弾だから死ぬ事は無いわ」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。ただ、ゴム弾といっても死ぬほど痛いし、当たり所が悪ければ骨の一本や二本は簡単に折れちゃうんだけどね」
そう言うと、白鳥は可愛らしく下をペロリと出しながら、果敢にも反撃を試みようと接近してきた男を「死ねやゴミクズ!」という掛け声と共に蜂の巣にしていた。
どうやら白鳥は銃を持つと性格が変るらしい。
その辺の事情に深く関るのは止めようと進は思い、進は前を見据える。
優貴の運転するトラックは、かなりの速度で舗装された道を進む。
車幅は思ったより広く、障害物などはないが、道の脇は深い森となっており、そこから武器を持った男が次々とトラック狙っているようだった。
しかし、その男たちは武器を構える間もなく、両手にマシンガンを持った白鳥と、荷台に備え付けた機関銃を操る城戸によって、辺りの木や植木と一緒に掃討されていた。
「見えた!」
周りの惨状を見なかったことにして、前を見据えていた進の視界にようやく目的の建物が見えてきた。
クオリアの光の道場は、武家屋敷を思わせた門からは想像もつかない建物だった。
夜の闇でもはっきり認識できる白で統一された外観に、等間隔に並んだ窓を見て思いつくのは、病院、もしくは学校だろうか?
基本的に直方体の建物だが、三階の一部分、左の端だけ一際高くなっていた。
「あそこ、あの高くなっている所が教祖の部屋だ!」
機関銃の音に負けないように、城戸が大声で叫ぶ。
「じゃあ、あそこに二人が?」
「その可能性は高いね。だから絶対あそこまで辿り着くよ!」
「勿論です!」
城戸の言葉に力強く頷く進だったが、そこに至るまでの障害はとてつもなく大きい。
建物の前は、学校の運動場くらいの広場になっており、普段ならここで何かしらの集会でも行われているかもしれないが、今はその広場に、進たちの侵入を阻むバリケードがうず高く築かれていた。
しかも、
「うわっ!?」
バリケードの隙間から放たれた銃弾がトラックの屋根に当たり、それにより生み出された火花に、進は思わず尻餅をついた。
すると、白鳥が血相を変えて飛んできて、進の顔を両手で覆う。
「進ちゃん大丈夫」
「な、なんとか……」
進は無事を伝えると同時に、背中からどっ、と汗が出るのを自覚する。
今の銃弾が、後、数センチ上だったら頭に風穴を開けられていた。
「姉様! このままでは不味いわ」
「わかっている!」
白鳥の必死の叫びに、優貴が急ハンドルを切って方向転換する。
目指すは、広場の脇にあるバリケードを築く時に使われなかったであろうゴミの山。
「車を倒して盾にするからタイミングを合わせろ!」
「え?」
「大丈夫。任せて!」
優貴の言葉を進は理解できなかったが、白鳥は阿吽の呼吸で理解できたようで、混乱する進の腰を掴んで抱きかかえる。
優貴はゴミの山にぶつかりそうになる手前でハンドルを切り、同時にブレーキペダルを力一杯踏み抜く。
タイヤが急にロックされ、悲鳴にも似た甲高い音を響き渡らせる。
「飛ぶから舌を噛まないように気をつけてね」
「え? ちょま……」
進が言葉を紡ぐより早く白鳥の巨体が宙に舞う。
「う、うわあああああああああああああああああああああ!!」
車の加速を利用した白鳥のジャンプは、ゴミの山を軽々と飛び越えた。
白鳥は進が怪我をしないようにと、その大きな体で進をきつく抱きしめる。
そのまま二人は、派手な音を立てて地面へと墜落した。
その衝撃で、進は白鳥の腕の中から飛び出し、派手に地面を転がった。
「あたた……」
幸いにも、ゴミの山の向こう側は芝生になっており、思ったよりも衝撃は軽く済んだ。
進は自分の体に異変が無いのをサッと確かめると、自分を庇ってくれた白鳥の元へと駆け寄る。
「か、カオルちゃん。大丈夫?」
「ええ、私は心配ないわ。この通り、鍛えているから」
白鳥は丸太のように太い腕に力こぶを作り、快活に笑う。
「そう、よかった」
白鳥の無事な姿に、進はそっと胸を撫で下ろした。
「和んでいる所悪いが、こちらを援護してくれないか?」
「え? あ、はい!」
優貴の切羽詰った声に、進と白鳥は一瞬にして我に帰る。
優貴は、誰よりも早く体勢を立て直したようで、今はチャンスとばかりに攻勢に出て来た相手に向かって手持ちの武器で応戦していた。
白鳥は地面に転がっていたマシンガンを拾うと、優貴の死角をフォローするように掃射を始めた。
進も何かしなくてはと思うのだが、銃弾飛び交う乱戦の中を、武器を何も持たずに飛び込んでいく蛮勇は持ち合わせていない。
それに、例え武装していたとしても、何の訓練も受けていない進では、二人の足手まといにしかならないだろう。
「クソッ! 今は一刻を争うというのに……」
この状況で何も出来ない自分が歯痒くて、進は血が滲むくらい唇を噛み締めた。
「進君、気持ちはわかるけど、落ち着くんだ」
悔しさで震える進を慰めるように、城戸が後ろから優しく声をかける。
城戸の言葉に後ろを振り返った進は、思わず息を飲んだ。
「き、城戸さん!?」
そこには、変わり果てた城戸がいた。
額と腕からは止め処なく血が流れ、足も痛めたのか、引き摺るように歩いた跡が後ろに続いていた。それでもいつものように笑顔を絶やさないでいる城戸だったが、顔色は血が足りないのか、真っ青になっていた。
「ど、どうしたんですか……まさか、撃たれたのですか?」
「ハハ……それならカッコよかったんだけど、生憎と着地に失敗してこの様さ……クッ」
そう言って無理にでも笑おうとする城戸だったが、途端に苦痛に顔を歪めた。
「城戸さん!」
「待った。それより今は重要な話がある」
慌てて駆け寄ろうする進を、城戸は手で制して話を続ける。
「思ったより敵の反撃が強力で、ここまで予想以上に時間がかかってしまっている。後からやってくる皆と協力すれば突破出来るだろうけど、それでは遅すぎる」
「じゃ、じゃあどうするんですか?」
「僕に考えがある。だから、今から言う物をそこのゴミ山から持ってきて欲しいんだ」
背後の山を顎で示され、進もそちらを見やる。
そこには廃材やドラム缶の工事用品から、ペットボトルや雑誌の束等の日用のゴミ、そして用途不明の様々なオブジェと、ありとあらゆる物がうず高く積まれていた。
「わかりました。指示をお願いします」
「オッケー。それじゃあまずは……」
城戸は笑顔で頷くと、持ってくる物を指示し始めた。




