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帰宅して待っていたものは

 もうすぐ夏の足音が聞こえてきそうな季節になったが、夜になるとまだ上着が必要なくらいには冷え込む。そんな中、進は全身に汗をかき、学校指定の上着を片手に引っ提げて帰宅の路についた。


「やばいな……すっかり遅くなっちゃったな」


 いつもなら遅くても八時ぐらいには帰宅出来るのだが、今日の仕事は特別だった。

 今日の現場は、近隣の家から何年も掃除をしていないゴミ屋敷として有名な家屋で、ボヤ騒ぎが起きたのを機に、家主がとうとうその重い腰を上げた家だった。

 今日、シフトが入っている人間総出でこの家の掃除に当たったのだが、掘り起こしても掘り起こしても床すら見えず、どうにか目処がつきそうになった所で、進が法律で仕事できる夜十時になりそうだったので、進だけが先に返されたのだった。

 他の仲間が黙々と作業している中で、進だけが帰らされるのは後ろ髪が引かれる思いだったが、これ以上遅くなって舞夏と歩を心配させるわけにもいかないので、仕事の仲間に精一杯の挨拶をして職場を後にしたのだった。

 せめて、メールで一言連絡を入れられればよかったが、舞夏との通話の後、暫くして電池が切れてしまったのだから仕方なかった。

 スマートフォンは電池の消耗が激しいと聞いてはいたが、ここまでとは思わなかった。

 これからはもっとこまめに充電をしなければ、と思いながら走っていると、


「あれ?」


 社員寮が見える所まで来た所で異変に気付いた。

 城戸と白鳥の部屋に灯りが見えないのはいつもの事だが、舞夏と歩がいるはずの自分の部屋にも灯りがついていないのだ。


「……何処かにご飯でも食べに行っているのかな?」


 舞夏は料理が出来ないし、簡単な料理は出来る歩も、火を使わないで調理となると殆ど何も作れないだろう。二人で何処かへ食べに行くという可能性もあるが、いくらなんでも時間が遅すぎるし、そうなると進のご飯だけ別メニュー、恐らくスーパーの値下げされた弁当という悲しい事態になる。

 それは、前に泣きそうな顔で弁当を温めていたら、可愛そうだから二度としないと舞夏に誓われたので、その可能性はかなり低い。

 となると、早いかもしれないが、二人とも既に寝てしまっているかもしれない。そう思った進は、寝ている二人を起こさないようにそっと鍵を開けて部屋の中へと入った。


「……ん?」


 靴を脱ごうとした所で、進は違和感を覚えて固まる。

 人一人立つだけで手狭になってしまう玄関に靴が一足もないのだ。

 まさかと思い、靴を乱暴に脱ぎ捨てて居間へと飛び込んで電気を点けると、やはりというか、二人の荷物が何処にも無かった。

 考えるまでも無い。二人はまだ一度も帰宅していないのだ。

 これはどう考えてもおかしい。あり得ない。

 舞夏は当然ながら高校の制服を着ているし、歩はランドセルを背負っている。

 そんな姿で外食をしていたら、誰かに余計な詮索をされかねないし、生活指導の先生やPTAの関係者にでも見つかったりしたら色々と面倒だ。

 そんな事は舞夏も百も承知だろうから、これはもう何かトラブルに巻き込まれたと考えるのが妥当だろう。


「クソッ! こんな事ならさっさと帰宅するべきだった」


 しかし、起きてしまった事を悔いても仕方ない。


「二人とも、無事でいてくれ……」


 進は最悪の事態を想像し、それを打ち払うかのようにかぶりを強く振ると、夜の闇へ向けて駆け出していった。

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