新たなる挑戦
「う~ん、今日のご飯は何にしようかしら?」
その日の夕方、舞夏は歩と共に近くのスーパーへ来ていた。
目的は、今日の夕飯の買い出しの為だ。
この日の舞夏は、ある決意を胸にスーパーを訪れていた。
それは、自分も料理をしてみようというものだった。
普段は全く料理をしない……というより、火への恐怖心から極力料理という事柄を避けてきた舞夏だったが、この前の歩の退院祝いの時に振る舞われた進の手料理を見て、女である自分だけ全く料理が出来ない事に、ある種の危機感を覚えていた。
それに、自炊が出来るのと出来ないのでは、一ヶ月辺りの生活費、特に食費にかかる値段に雲泥の差が出るはず、だった。
「舞夏お姉ちゃん、大丈夫?」
おっかなびっくり食材とにらめっこしながら何を買うかを思案していると、隣に控えていた歩から声が掛かる。
「え、何が?」
「だって、それ……」
そう言って歩は舞夏が持っている物を指差す。
舞夏はグラム八十円と書かれた鶏肉のパックを持っていた。
他にもネギや醤油、料理酒に片栗粉といった食材がカゴの中に並ぶ。
「歩、別にお弁当でも平気だよ?」
これらの食材を調理する為には、火を使わなければならない。歩は舞夏の事情を察して声をかけてきてくれたのだろう。
舞夏はそんな歩の気遣いに双眸を細めると、歩の頭を優しく撫でる。
「大丈夫、今日はお姉さんに任せなさい。今日作るのは一切火を使わないで出来る料理なんだから」
「本当に?」
「本当よ。今日の為に、わざわざカオルちゃんから電子レンジだけで作れる料理をいくつかピックアップしてもらったんだから」
だから心配する必要はないと、自分の胸を力強く叩いて宣言する。
「そっか、良かった。じゃあ、歩も舞夏お姉ちゃんの手伝いするよ」
「うん、お願いね」
二人はにんまりと笑い合うと、買い物を再会する。
その中睦まじい様子は、まるで本物の姉妹のようだった。
「…………」
ただ、そんな二人の背中を見つめる二つの目があるとは、楽しげに買い物を続ける二人は全く気付かなかった。




