明日の為に
進と歩の新しい生活が始まってから、一ヶ月の時間が過ぎた。
優貴のお陰で学校を辞めずに済み、更には当面の生活費も確保できた進だったが、その後も御神楽クリーンサービスでの仕事を行っていた。
職場の皆と親しくなれたという理由もあったが、やはり父親が残してくれたお金に、簡単に手をつけたくない。という理由が一番だった。
今度こそ、本当の意味で自立してみせる。そう心に決め、進は気持ちも新たに日々を過ごしていた。
「……うん、大丈夫。これでも少しは仕事を任されるようになったんだ。もう、そんなヘマはしないよ。うん、それじゃあ今日は歩をよろしく」
進は故障してしまったガラケーに変わり、新たに手に入れたスマートフォンの画面に表示された通話終了ボタンを押して一息つく。
今の電話は、別の高校に通う舞夏からで、今日の予定についての確認の電話だった。
歩が退院してきた翌日から、進と舞夏は交互に御神楽クリーンサービスの仕事に就いていた。
進と舞夏、どちらか一方が仕事をしている間、もう一人が歩の面倒を見る。
そして週に一度、学校が休みである土曜日に、歩が御神楽クリーンサービスで優貴の事務職を手伝い、進と舞夏は現場に出て仕事を行う。
何か手伝いたいという歩の意見を尊重しながら、且つ進と舞夏もキチンと仕事に就ける。
優貴からのこの提案は正に渡りに船で、断る理由は何処にも無かった。
しかし、顔には出さないが、進はこの提案に少しだけ不満があった。
それは、やはり歩の存在だった。
何と言っても歩は小学生なのだ。
普通であれば、よく寝てよく学び、そして放課後や休みとなれば、同級生と遅くまで遊んで過ごすべきなのだ。
今の状況が普通ではない、どうしようもない状況であるのは重々承知している。
この芳しくない状況を見て、歩が手伝いたいという気持ちも凄く理解できる。
だが、その献身的な気持ちの所為で、歩は友達と全く遊べないでいる。
歩は「仕方ないよ」と大人ぶって笑うが、その笑顔が進の心に冷たく突き刺さった。
「そうだ。このままでいい筈がない」
あんな悲しそうに、諦観したように笑う歩なんて見たくない。
歩にはもっと年相応の、友達と一緒に愛らしい笑顔を見せてくれるような子であって欲しい。
その為には、仕事も私生活も今よりもっと頑張って、歩を安心させなければならない。
「今はまだ頼りないかもしれないけど、近いうちに必ず……」
歩一人くらい養えるような男になってみせる。
自分の目標を再確認した進は、気合を入れる為に自分の両頬を強く叩くと、今日の仕事場へ向けて駆け出していった。




