歓迎会へのお誘い
「ふぅ……ふぅ……あふぅ」
それから進は、たっぷり三十分、気持ちよすぎて喘ぎ声が出てしまうマッサージという名の快楽地獄を、強制的に味合わされ続けた。
結果、進の目は虚ろで、口から涎が流れていたがそれを拭う気力すらなく、息も絶え絶えといった様子で、浅い呼吸を繰り返すだけという、見るも無残な姿になっていた。
それでも顔だけは満足そうで、頬は緩みっぱなしだった。
「はあ……はあ……これだけやれば、明日に疲れは残さないでしょ」
恍惚の表情で動かない進を見下ろしながら、舞夏は流れてきた汗を拭う。
軽くマッサージをするつもりだったのに、思いっきりやってしまった。
進の全身は、普通では考えられないほど凝り固まっており、それをほぐすのに思った以上に時間がかかったのだ。
この男は、今までどんな生活送っていたのだろうか?
優貴から断片的ではあるが、進がどういう人生を送ってきたのかは聞いている。
妹を助ける為に、かなり無茶をしていたということも……。
その疲れがまだ残っており、体はずっと不調を訴えていただろうが、進ははそれを無視して精一杯仕事をこなしていたのだ。
「白川、進…………か」
最初、自分から何もしない、流されているだけの貧弱な男と思っていた進の評価を、舞夏は少しだけ改める事にした。
舞夏は口の端を少しだけ上げると、進の背中を優しく撫で続けた。
「キャー! あなた達、既にそんな関係になっているの!?」
「え?」
すると突然、野太い悲鳴が部屋を揺らし、驚いた舞夏が入り口へと顔を向ける。
そこには、いつの間に現れたのか、フリルが沢山あしらわれたピンクのエプロンを着けた禿頭の偉丈夫が自分の顔を挟んで絶叫していた。
「信じられない。私の進ちゃんの貞操を奪うなんて……この泥棒猫!」
「ど、泥棒猫って……何言ってるのよ」
「お黙りなさい! どう見てもそれ、入ってるじゃないの!」
「……はあ? 何言ってるのよ」
言っている事がわからず、訝しげな顔をしている舞夏に、偉丈夫は恥ずかしげに両手で顔を隠しながら、でも指の間からはしっかりとこっちを見ながら舞夏の下腹部を指差す。
舞夏は目線を下にして、自分の今の状況を確認する。
舞夏は進の背中を効率よくマッサージする為、最初に腰掛けた位置より随分と下に移動していた。
そう、それは調度進のお尻の辺りに……。
「――っ!?」
偉丈夫の言わんとすることに気付いた舞夏は、顔を真っ赤にしてかぶりを振る。
「ち、違っ……これは、こいつにマッサージをしようとして……」
「マ、ママ、マッサージですって!? 疲れて動けない進ちゃんに一体どんなマッサージをしていたって言うのよ。この阿婆擦れが!!」
「何もしてないわよ! 一体何を考えてんのよ。このガチムチホモ野郎!」
「ホ、ホモを馬鹿にするんじゃないわよ!」
無断で家に入ってきた事を叱責するのも忘れて、睨み合う舞夏と偉丈夫。
すると、そんな二人の間に割って入る影があった。
「おいおい、何をそんなくだらないことで言い争っているんだ?」
乱入者は爽やかに髪をかきあげると、歯を光らせて笑う。
「俺が余りにもカッコイイのはわかるけど、本来の目的を忘れちゃいけないぜ」
「うるさい。黙れ。この色情魔」
「そうよ。汚れは黙ってなさい」
「ひ……酷いね。二人とも」
舞夏と偉丈夫の物言いに、乱入者は引き攣った笑みを浮かべる。
しかし、二人に完全に邪魔者扱いされても、乱入者は尚も食い下がる。
「いや、そうじゃなくて。今日は進君を歓迎する為に集まろうって話だったじゃないか。二人とも、まさか忘れたわけじゃないだろ?」
「「……あ」」
その言葉に、二人は我を思い出したかのように揃って声を上げる。
完全に失念していた。二人の顔にはそう書いてあった。
「…………うへへへへ」
ただ一人、何も知らない進だけが幸せそうに涎を垂らしていた。




