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初仕事

「つ、疲れた~」


 その日の夜、進は家に戻るなり靴も脱がずに玄関に倒れこんだ。


「ちょっと、そんなところで倒れないでよ!」

「あ~、う~」


 すぐ後ろから舞夏の抗議の声が聞こえたが、進はそれに応える気力すらなかった。

 あれから進は、優貴の勧めてくれた仕事をこなしてきた。

 本来なら履歴書を提出した上で面接を行い、それをクリアしてからようやく仕事の契約を行うのだが、今回の仕事はそういう類のものは一切必要なかった。

 何故なら、雇い主からのお墨付きが既にあったからだ。

 進は優貴が経営する会社「御神楽クリーンサービス」で働くことになった。

 その業務内容は、会社の名前が示すように清掃業務だった。

 今日は勤務初日ということで、多少は楽が出来るのでは? と思っていた進だったが、生まれて初めての仕事はそんなに甘くなかった。

 一番下っ端の進は、体のいい雑用係として、荷物の運搬から飲料の買出しまで、一緒に働く仲間から容赦なくこき使われたのだった。

 肝心の掃除の業務には全く呼ばれなかった進だったが、それでも健気に荷物運びに精を出す姿が好印象を与えたのか、仕事を終えると皆から「お疲れ様」と笑顔で声をかけて貰えた。


 こうして会社の一員として認められたのはよかったが、ここである問題が起きた。

 それは、張り切りすぎて、精も根も尽き果ててしまったのだ。

 そんな一歩も動けないほどに衰弱していた進を救ってくれたのは、意外な人物だった。


「動けなくなるまで頑張るなんて、あんたバカなんじゃないの?」


 仕事着であるツナギから通っている高校の制服に着替え、やれやれと首を振る滝川舞夏その人だった。

 優貴の会社の寮に住んでいるのだから、当然の如く舞夏も同じ現場にいて、進の頑張りを諦観した様子で眺めていたのだった。

 それでも、舞夏は悪態をつきながらも進の肩に手を回し、支えるようにして家まで送ってくれた事に、進は心から感謝していた。

 それが例え、扉の前で捨てるように放り投げられたとしても、だ。

 投げ捨てられた意趣返しではないが、舞夏がロックを外すと同時に、進は舞夏を押し退けるように中へと飛び込み、玄関先でそのまま倒れたのであった。


「いつまでそうしているつもりよ。あたしが入れないでしょ」

「う~、今日はもうここで寝る」

「なに馬鹿なことを言っているのよ。あ~もう、しょうがないわね!」

「え? ちょっと……ってぐえっ!」


 いつまでも進が動かない事に業を煮やした舞夏が、スカートが翻るのも構わず、進の背中を踏みつけて無理矢理家の中に入っていく。


「な、何をするんだよ!」

「うるさいわね。少し黙ってなさい!」


 舞夏は進を無視して、家の奥に引っ込んでしまった。

 そして、すぐに戻ってきたと思ったら、ダイニングの床の上に部屋の奥から持ってきた物、ヨガをする時に下に敷いて使うヨガマットを敷いた。

 舞夏はヨガマットの上で仁王立ちをすると、足元を指差す。


「ほら、とっととここまで来なさい。それくらいなら出来るでしょ」

「え? あ、うん」


 進はのろのろと靴を脱ぐと、そのまま這うようにヨガマットの上へ移動する。

 その途中、舞夏が穿いているチェックのスカートの中身が見えそうになるが、


「ちなみに、スカートを覗こうとしたら家の外に蹴り出すからね」

「……はい」


 舞夏から棘のある言葉を頂いたので、進はホラー映画でお馴染みの、呪いのビデオの人みたいな動きでヨガマットまで移動した。

 進がマットの上に納まったのを確認した舞夏は「よっ」と掛け声をかけて進の背中に腰掛けた。


「ちょ……」


 いきなり座られた事も驚いたが、背中に舞夏の柔らかいお尻の感触が伝わってきて、進はどうしたらいいかわからず、頬を紅潮させて身を硬くする。

 進が人知れず緊張している間にも、舞夏は進の背中を上から下まで丹念に撫で続ける。


「…………」


 特に何をされるわけでもなく、ただひたすら背中を撫でられ続けるという行為に、先程から色々とマズイ状況になりつつある進がたまらず舞夏に声をかけようとする。


「あ、あの……これはいあはあぁぁぁん!」


 が、その途中、突如として体を突き抜けた快感に嬌声が洩れた。


「ちょっと、変な声を出さないでよ」

「ご、ごめん。んふ……余りに気持ちよくってつい……」


 進が言い訳している間にも、舞夏の手は進の背中を上へ下へとゆっくりと体重を乗せるように、優しく背中をマッサージし続ける。


「このあたしが、マッサージしてあげるんだから光栄に思いなさいよ」

「うん、ありがとうふぅ……でも、どうして?」


 これまでの進への態度からしても、舞夏が進に対してこんな事をしてくれる理由がわからなかった。


「そんなのあたしの為に決まっているでしょ」

「え……滝川さんの?」

「そうよ。あんたがあたしと一緒に住んでいるのは、既に社内の全員の知る所なの。その状況で、明日以降にあんたの体調が悪かったら、あたしが注意されるのよ」

「そ、そうなの?」

「そうなの! だから、あんたは大人しくあたしの言う事を聞いていればいいの」

「その意見には賛同しかねるうううぅぅぅぅん!」

「何、あたしに意見の意見に口答えする気なの? そういう奴は……」


 舞夏は両手を振り上げてわきわきと手を握る仕草をする。


「ちょ……まっ……」


 嗜虐的な笑みに、嫌な予感しかしない進が待ったをかけようとするが、


「それ、あたしのテクで快楽地獄に落ちるがいい!」

「ら、らめえええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 バックを取られ、且つ身動きが取れない状態では舞夏に抗う術はなく、進は自分でも今まで聞いた事ないような嬌声を発し続けた。

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