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逆バレンタインな恋心【笹原結衣 編】


 ある日、家に一人の珍客が来た。

 ――Kだった。


 来るなら電話してくれればいいのに。


「……」

 Kは何も言わない。

 と、いうより。この人普段いったい何を考えているんだろう。


 ……。

 あたしは無言で扉を閉めた。


「開けろよ。渡したいものがある」


 あたしは再び扉を開けた。


 渡したいもの?


 Kがあたしに、かわいいラッピングされた小さな箱を手渡してくる。

「ホワイトデーにもらったお返しだ。言っておくが誤解するなよ。Eにもさっき届けてきた」


 Kって意外とお返し気にする人だったんだー。不思議ぃー。また作ってあげるね。


「本気でもう勘弁してくれ」



 ※



 部屋に戻ると、家に遊びに来ていた親友二人があたしを出迎える。


 親友の一人――まなっちが、ニヤニヤした顔であたしに言う。

「見ぃーちゃった。ねー。あの彼、例の灘区校男子よね?」

 もう一人の親友――美里みりも同じくニヤニヤした顔であたしに言う。

「あんた達、付き合ってんの?」


 あたしは平然とした顔で答える。

 え? なんで? フツーに友達だよ。


「で? 何もらったの?」

「早く見せて見せて」


 チョコだって。


「チョコぉ?」

「チョコぉ?」


 うん。この前暇だったから知り合いと一緒にホワイトデーにクッキーを作ってその人の家に持っていってあげたの。そのお返しにって、わざわざ持って来てくれたみたい。


「律儀ねぇー、灘区校男子」

「真面目すぎるわー」


 チョコみたいだし、みんなで食べよ。


「早く開けて開けて」

「カモーン、甘物!」


 待って。今開けるから。


 そうしてあたしは何も知らずに箱を開けて、親友と一緒に生チョコを分け与えてしまった。

 これがいけなかったのだ。

 ――そう。まさかこれが、これから巻き起こる壮絶な大騒動の幕開けになるなんて誰が予想できただろうか。


 あたしは二個目となる生チョコを口にして満悦の笑みを浮かべる。

 本当においしい。甘いものが苦手なKが選んだだけあって、この生チョコちょっとビターな感じ。いったいこの生チョコどこから買ってきたんだろう。それだけがすごく気になる。


 親友の一人──まなっちが、三個目となる生チョコを口にしてぽつりと言う。

「結衣」


 ん? なに?


 以心伝心するかのごとく、横からもう一人の親友――美里が言葉を続ける。

「明日、灘区校で例の男子を待ち伏せするわよ」


 え? なんで? どうして?


「この生チョコめちゃくちゃ美味いんですけど」

「どこの店で買ったのかフツーに気になるんですけどー」


 待ち伏せして聞くほどのことでもないでしょ。そんなに気に入ったんなら夜にでもKに電話して聞いてみるから。



 ※



 ――というわけで、電話してみたの。あの生チョコどこで買ったの?


 その問いかけに、電話先のKは素っ気無くもちゃんと答えてくれる。


「……別に。普通」


 それだけ。

 本当にそれだけの会話。


 奈々ちゃんと一緒に居た時だってそう。

 彼はなかなか自分を語ろうとはしない。

 唯一口数が多いのは、向こうの世界の話をした時と奈々ちゃんの話をした時だけ。

 向こうの世界の話をするとKはすごく楽しそうに話に乗ってきてくれる。

 奈々ちゃんの話をするとKは面白いくらいに動揺してくれる。

 面倒くさいと思ったことはすぐ顔に出すし、嫌々ながらも買い物とかに付き合ってくれるし、荷物とかも持ってくれるし、たまにそういったすごく優しい一面を見せてくれる。

 でもそれってきっと、あたしが奈々ちゃんの友達だからなんだと思う。

 友達だから一緒に居て楽しいんだと思う。

だからこそ彼と一緒に過ごす時間が居心地良く思えるんだって。

そう思う。



 彼との電話を終えて。

 あたしは携帯電話をベッドに放り、傍に置いていた生チョコの箱を手に取った。

残していた最後の一口サイズの生チョコをそっと口に入れる。

 ほろ苦くて。

 本当に彼らしい生チョコだった。



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