お酒の雨と桜
とても冷える雨が降る。
なぜ冷えるかって?
それはね、降っている滴が全てお酒だからだよ。
「今日の雨は最高ですな」
「そうですね」
「あなたの花びらも最高ですよ」
「そう、嬉しいです」
「本当ですよ、根っこの先から枝の先まで私の全てがそう感じてますよ」
「あら嬉しい」
もう、この木たっら何年、同じこというのかしら。それも雨の日に限って。
「時に最高なのは春です。まさに今、あなたは美しい」
「そうでしょ」
私の花びらを褒めてくれる。それはとても嬉しいんだけど。
「だけど元気で深緑のあなたも綺麗です」
「そうですか?嬉しいです」
正直に受け止めとこう、雨が降ってるんですもの。
「冬の雪化粧もとても綺麗でしたよ。早く冬にもなってほしいです、白く彩られたあなたを見たい」
「…うれしいです。それにしても今日は雨がよく降りますね」
「そうですねぇ今日の雨は最高ですよ」
「そうみたいね」あなたがいつもよりいっぱい話すんだから、相当なのね。
「今日も二人っきりですね」
「…」私も酔いに任せようかしら、そろそろ二十年といわれ続けて飽きたわ。「あのね、桜藍さん」
「はい、桜花さん」上機嫌な声。よほど私に名前を言われたのが嬉しいのかしら。
「あなた、私を口説こうとしても私には触れられないんですよ。私たち、木、なのですから」
「…」
「桜藍さん?」ちょっと、酷すぎたかしら。せっかく私を慕ってくれてたのに。
「分かってますよ、そんなこと」
「え?」
「分かってるからこそ、伝えたかったんです。私があなたのことを好きだと。美しいと思っていることを」
「桜藍さん…」そうだったんだ。
「私は、私は伝えたかった……好きだと…あ、雨、止みましたね」
「そうですね」
「…虹、ですね。ほら、あそこ」
「綺麗…」
「ええ、七色で」
「違いますよ、桜藍さんが、ですよ」
「え、私が?」
「桜藍さん綺麗です、カッコいいです」