杉浦レイと変な先輩
私立桜陵学園。
「……であるからして、諸君たちには今日からこの学園の生徒としてふさわしい行動を……」
「……ふわぁ……」
思わず眠くなってしまうほど長ったらしい校長の祝辞を、入学生である杉浦レイはあくびを噛み殺しながら聞く。
今日は入学式なのだ。開かれた窓から入ってくる暖かい春風が、余計に眠気を誘う。
(あーあ、早く終わってくんねーかな……)
再び出そうになるあくびを我慢しながら、ついついそう思ってしまうレイである。
式の会場である体育館には、太陽の光が差し込んでいた。
「はぁー、これからホームルームか。だりぃな」
入学式直後、自分のクラスを確認し終えたレイは、早速、教室に向かって歩き出していた。しかし、渡り廊下を歩いているところで後ろから声をかけられる。
「……ちょっと、そこのキミ」
「ん?」
レイは振り返る。見ると、制服を着た一人の女子生徒が駆けよってきていた。学年章の色が自分とは違う、つまり先輩だ。
女子生徒はレイに追いつくやいなや言った。
「ちょっときて」
「は……?」
突然の誘いに、さすがのレイもうろたえる。
「……いや、俺はこれからホームルームが……」
「いいからきて」
「うわっ、ちょっ……」
女子生徒は、レイの首根っこを掴むと、問答無用で彼をひきずっていく。彼女は言った。
「ちょうど式の後片付けに人手が足りなかったから、助かったわ」
レイは反論する。
「いやいや、一年は後片付けしないだろ」
すると彼女は、レイをひきずる力を強めて言った。
「何言ってるの。自分たちの入学式だったんだから、自分たちで後片付けをするのは当たり前でしょ」
「………」
正論だった。レイは何も言えなくなる。
こうしてレイは、初対面の歳上の女子生徒の手によって、体育館まで連れ戻されてしまったのだった。
レイがホームルームに遅れたのは、言うまでもない。
入学式から数日たった昼休み。
レイは校舎の屋上にいた。目の前には、入学式の日に会った歳上の女子生徒。
彼女は自分の腰に手を当てて言った。
「神田凛よ」
(いきなりの自己紹介!?)
「はぁ……」
レイは適当に相づちを打つ。
「神田凜」と名乗った女子生徒は続けた。
「あなたを私の部活動に入れてあげるわ」
「………」
レイは何も言えなくなる。
「まぁ、入学式の日に私に捕まった時点で、あなたは私の部に入ったことになっていたのだけれど、一応言っておこうと思って」
「……へ、へぇ」
レイは思い出したように再び相づちを打つ。しかし、一つの疑問が湧き起こった。
「……って、それって、何の部活?」
「『人助け部』よ」
彼女は胸を張って答えた。
(何その部活!?)
「……は?」
レイは心の中でツッコミながらすっとんきょうな声を上げてしまう。
「分かりやすく言うと、困っている人を助けてあげる部よ」
(……そのまんまだ)
レイは思った。そして同時に肩を落とす。
まさか、入学早々、変な部活動に入部させられるなんて……。
入学早々、少しばかりげっそりとしてしまうレイだった。