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Good-bye my days.  作者: 野々村竈猫
6/7

二人だけの会話

 朝。


 ボクは顔を洗い、歯を磨くと台所に立ち、朝食の支度を始めた。


 舞はまだ寝ている。


 夜中、舞は何事か寝言を言っていた。よく聞こえなかったが、

小さい子が何かをねだっている、

そんな感じに聞こえた。


 「おはよう~」


 食卓に朝食がそろう頃、舞は起きだしてきた。


 「おはよう。よく眠れた?」


 「うん。でもたくさん夢を見ちゃった。すごくうれしい夢だったんだけど、

思い出そうとすると、なんだったかはっきりしないんだ。もったいないなあ…」


 「舞は朝、弱いんだ」

 寝ぼけ顔の舞。


 「ば、ばれちゃった?実はそうなの。お布団の引力が強くて抜け出せなくって。

 布団さん、布団さん…て、つい…」

 「顔を洗っておいでよ。タオルはそこに用意しておいたから」

 「ありがとう~」


 歯磨きとタオルをもって、よたよたと洗面所に向かう彼女の横顔を見てボクは

どきりとした。

 彼女の目元に"ほくろ"があるのだ。

 六条さんに舞を描いてもらった時、ほくろは消してもらったはず。なのに、何故?


                       *

 「いただきまーす」

 先ほどとは打って変わって、元気にご飯をほおばる舞。

 「おいしいなあ。やっぱり、朝はお米よねっ!」

 「そ、そう、よかったね」

 身を乗り出して力説する舞にたじろぐボク。


 なんだろう。この気持ち。今まで感じたことが無いこの感じ。

 ボクは、気が付いた。

 (そうか、誰かのために朝食を作って一緒に食べるって事、これまでに一度も

 無かったんだ)


 うれしそうにに肉じゃがをつつく舞を見ながら、ボクも箸を運んだ。

 「今晩は、わたしが何か作ってあげる。わたしも料理は得意…ってわけじゃ

 ないけどこなせるんだから」

 「うん、いいよ。期待してる」


                       *

 食器を洗い終わった後。


 「ねえ、宮本君、今日、講義は?」

 「ええと、今日は午後からだね」

 「じゃあ、午前は空いてるんだね」

 「うん」

 「お願いがあるんだけど…」

 「何?」

 

 やおら舞はボクの両手を握り締めて言った。

 「わたしとお話をしよう!」

 「え?」


 ふと、うつむく舞。

 「ほら、宮本君といるときはたいてい弟もいたじゃない。だから、なんだか

 気まずくて、恥ずかしくて、話したいことが話せなくて…。それがずーっと、

 何年分もたまっちゃってて。だから、お願い」

 「いいよ。けど、そんなに気合いれなくても…」

 ボクは笑って言った。


 が、舞は首をぶんぶん振る。

 「ううん。気合入れまくる!」


 舞は僕の手を引いて、クッションの上に座らせた。

 「もちろん、宮本君も話してね。わたしばかりじゃ不公平だから。男女平等!」


 そこに平等は無いと思うが、ボクは会話に付き合うことにした。

 元々、ボクは人と話すのは得意じゃない。先に舞が口火を切った。


 生まれたばかりの弟を見たとき、ものすごくショックだったこと。小学校の

入学式の時、校門で思い切り転んで、おでこに絆創膏の記念写真があること。

父親が殉職した時、信じることが出来なくて町中を泣きながら探し回ったこと…


 昔の思い出や、思いつき。好きな事。嫌いなもの。やりたいこと。将来の夢。

次々に舞の想いが口から流れ出てくる。


 最初は圧倒されていたボクだが、すこしずつ彼女の話のリズムがわかるように

なってきた。相槌を打ったり、質問したりすることが出来るようになる。

 女子の話の仕方は面白い。一つのことを話していると思うと、もう次の話題に

移っている。

 タイミングを見て、ボクも自分のことを少しずつ、話してみる。

 子供の頃、両親と行った遊園地のこと。母親はあやとりが上手な人で、

いろいろな形を見せてくれたこと。そして、今まで辛くて誰にも話せなかった、

両親が亡くなった時のこと。

 ボクが口を開く時は、舞は真剣に聞いてくれた。たぶん、よく分からなかった

だろうバイクのことやカメラのことも。


 気が付くと、もう時計は11時半を回っていた。


 「ふうーなんだか、これまでの人生分おしゃべりした気がするー。楽しかったー」

 と、舞。 

 「大げさだなあ。さてと、お昼はピラフにするね」

 「わおー。ピラフ大好き!」


 舞が立ち上がろうとしたその時。

 「痛っ!」

 舞がうずくまる。


 「どうしたの?!」

 「右足が…急に痛く…っつ!」

 「大丈夫?!」

 今は昼間だ。日があるうちは舞を病院につれてゆくことは出来ない。ボクは焦った。


 「あ、あれ?痛くなくなった…」

  立ち上がる舞。

 「あっ!痛い!」

 今度は左腕を抱えて崩れ落ちる。

 「舞!」

 涙をポロポロこぼしながら、苦痛に耐える舞。

 と、急にまた何事も無かったように左腕をもちあげる。

 「あれ…どうしたんだろう。なおっちゃった」

 「本当に大丈夫?」

 袖を捲り上げて確かめてみるが、異常はなさそうだ。


 「どうしたんだろう。何か体に変化が起きているのかな」

 「わたしにもわからないよ」

 困り顔の舞。

 「何にしても、あまり動き回らないほうがいいかもしれないね」

 「うん、そうする」


                        *


 「食器洗いはわたしがやっておくね」

 「うん、じゃあ行ってくる。何かあったら携帯で連絡して」

 「わかったー。いってらっしゃい」


 バイクを走らせ、大学へと向かう。

 ただボクは気がかりだった。消してもらったはずの舞の目元のほくろが戻って

いたこと。そして、体の痛み。

 彼女の体に何かが起こっていることには間違いない。それが何なのか。

よい事なのか。それとも。


 いくつかの講義を受け終わると、もう日が傾きかけていた。舞が心配だ。

急いで帰ろうとバイクにまたがった時、携帯が鳴った。

 「!」

 あわてて確認すると、自宅からではない。舞の弟、政則君からだった。


 「もしもし、宮元です」

 「宮本さん!姉さんが…姉さんが救助されたんです!」

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