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雨男

作者: 十月十日

 椅子に座って本を読んでいた彼がふっと視線を上げ、腰を浮かせた。無言のまま一度奥に戻り、普段はしまってある傘立てを取り出してくる。何事もなかったように座り直した彼の横顔が、暖かな日差しに縁取られていた。

「ありがとう」

 声を掛けると、こちらを見た彼は微かに頬を緩めた。手元に視線を落としたその表情が、刹那、記憶の中のものと重なる。

 雨の中に立ち尽くしていたせいで、掴んだ大きな手は氷のようだった。濡れそぼった面差しと疲れたような諦めきったような表情は、どこかに熱を置き去りにしてきたようで。

 そんなことを思い出していると、いつの間にか日が翳っていた窓の向こうから冷たい雨音が聞こえてきた。両手にマグカップを持って立ち上がり、顔を上げてぼんやりと外を眺めている彼に片方を差し出す。

「飲む?」

 見上げてきた彼は、少しの沈黙の後にそれを受け取った。あの日のように冷たい指がふっと手を掠める。

「――……ありがとうございます」

 初めて聞いた声は掠れてこそいたものの、低く穏やかに空気を震わせた。


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