クラゲの詩(2)
「なに、今日はお前しか来てないの」
これは、タカの言葉。
地元の若者たちの溜り場であるこの公園は、G-BOPのメンバーにとっても活動の拠点となっていた。といっても、実際のところは取り立てて言うほど大層なものではなく、サークルメンバーの中で暇な人間はこの公園にいることが多い、なのでここに来ればメンバーの誰かに会うことは出来るだろう、という単なる暗黙の了解程度の認識でしかないのだが。
「まだ時間早いっすから。みんなそのうち現れるんじゃないっすかね」
シュンはタカにヘラヘラと作り笑顔を浮かべながら言った。
そしてその時、ちょうどいいタイミングでサークルのメンバーが公園の入り口付近に現れたのを、タカが発見した。
「おっ、噂をすれば。お〜い、ヒナ〜」
ヒナと呼ばれた少女はタカの声に気付き、2人の方に駆け寄ってくる。そして、笑顔で2人にこう挨拶した。
「ども、タカさん。あっ、クラゲもいたんだ」
───クラゲ。
それがシュンの愛称だった。では、その不名誉とも取れる愛称の由来は何か。
こんな大規模なサークルのメンバーの割に、シュンは団体行動が嫌いだった。しかし、協調性がないのかと問われればむしろ逆で、他人に合わせたり自分の意見を押し殺すことには必要以上に慣れている。
要は、団体行動は大勢の人間に合わせたり愛想笑いをするのが疲れるから嫌いなのであって、苦手ではない、むしろ得意だということだ。
しかし、他人に合わせることが嫌いなはずのシュンだが、目上の人間などと話す時は無意識のうちに自分の意見を押し殺し、愛想笑いを浮かべながら相手に流されていることが専らだった。
一言で言ってしまえば彼は『長い物には巻かれるタイプの人間』なのである。
そして、そんなユラユラと相手によって態度がまるで違うシュンのことを誰かが不快に思ったのかは知らないが、いつの間にか
「クラゲ」
の愛称が定着してしまっていたのだ。
「クラゲって呼ぶのやめろって言ってんじゃん、ヒナ」
それは紛れもない否定の言葉。そしてシュンにしてみればそのニックネームで呼ばれることは本気で苦痛だった。にも関わらず、その表情はまたもヘラヘラとした笑顔だった。まるで冗談を言いながらジャレあっているかのように。
とくれば、必然的にヒナのそれに対するリアクションも冗談のようなものになる。
「あ、クラゲは嫌?じゃあアレにしよう、ワカメ。ワカメちゃん。あらシュンかわい〜」
どちらにせよ形が曖昧でユラユラしたものである。つまり、そういったものがシュンのイメージなのだ。
シュンは、相変わらずヘラヘラと笑っていた。