クラゲの詩(1)
田舎というには栄えていて、都会というには物足りない。そんな街の中央付近の駅前に、その公園はあった。
夏にしては肌寒い気候に、Tシャツ一枚で出てきてしまったことを後悔しながら、シュンは小さく身震いした。
この公園──市立中央公園は、地元の若者たちの溜まり場と化している。あるものはラジカセから大音量で流れるHIP-HOPサウンドに合わせて踊り、あるものはスケートボードで自分なりの障害物──空き缶なり低いガードレールなり──を跳び越えようと躍起になり、あるものはアコースティックギターを掻き鳴らし、人気アーティストの曲を弾き語りしている。
これがこの公園のいつもの風景。そしてこれが、この街に住む大多数の若者にとって当たり前の日常。
それはもちろん、シュンにとっても例外ではない。
彼も他の若者同様、それに疑問も抱いていなかったし、それなりにこの公園を気に入ってもいた。
「おい、シュン」
自分を呼ぶ誰かの声に気付き、シュンは声のした方向を振り返った。
「タカさん」
タカと呼ばれるその男は、背の丈170半ばほどの、筋肉質な体型の男だ。黒を基調にところどころ金色の刺繍が成されたジャージに、ダメージ加工が施されたボロボロのジーンズを合わせている。髪はサッパリと短い黒髪で、その容姿はワイルドという形容がおそらく一番相応しい。
そのタカだが、彼は地元では多少名の知れた『GROOVY BOP』、通称G-BOPというチームに所属していた。
話は多少逸れるが、あなたはイベサーというものはご存知だろうか。正式名称イベントサークル。要はそのサークルのメンバーで集まって様々なイベント──飲み会やカラオケ、果ては海外旅行などをするものもある──を行おう、という団体である。
G-BOPとはつまり、タカが所属しているそのイベサーの名称なのである。
そのイベサーごとにもちろん特徴というものはある。
さて、ではこのG-BOPというチームの特徴はというと、非常に様々な趣味、嗜好を持った人間が所属しているチームという部分が真っ先に挙げられるだろう。
元暴走族のヘッドで、現在も巷では喧嘩小僧として名高いアブナイ人物もいれば、小説家志望で雑学をつけるためにチームに加入した、という人物もいる。簡単に言えば何でもアリなのだ。
その自由さに惹かれるのか、チームに所属している人数は今現在40人以上にも及んでいた。そして、このサークルにはシュンも所属している。
つまりシュンとタカは同じチームに所属する仲間の訳だが、タカという名前はいわゆるニックネームのようなものらしく、シュンは彼の本名を知らない。それがこのサークルのルールだったからだ。
本名や家柄、学歴などを気にせず楽しくやりたいというのがG-BOP設立者の意向らしい。
自分の名付け親はもちろん自分。その中には本名がそのまま呼称という者もいるが、タカという名前は本名ではない、という話をシュンは以前にタカ本人から聞いていた。
もちろんシュンという彼の名前も本名ではないし、彼はそれでいいと思っていた。
問題は相手がいかに信頼出来る人物かということ。
その点に置いて、タカは非常に誠実で、仲間からの信頼も篤い。よく仲間から相談を持ちかけられている姿を目にするし、シュンにしてみれば十分すぎるほど信頼に足る人物だった。
本名さえも知らずに信頼関係がどうなどと喚いてる自分に矛盾も感じず、
その、ある種非日常的な絆がどれほど希薄なものかなんて考えもせずに。