帰宅したら妻がツインテ美少女になっていた
結婚10周年の夜、妻がツインテ美少女になった。
「花束なんて、べべべ別にいらないんだからっ」
しかもツンデレっぽい。
僕たち夫婦は高校生のときに出会い、5年付き合って結婚した。妻ミナミ・夫ハルオ、共に齢22の頃。新婚時代はそりゃアツアツだった。僕が社会人になるタイミングで同棲を始めて、どこに行くにも何をするにも一緒で。
裸エプロンで作ってもらったオムライスはとてもおいしかったな。
そんな僕たち夫婦に訪れた最大の危機、それは、
倦 怠 期
である。
そいつはじわじわと、ゆっくりやってきた。いつからだったか、今マジメに考えてたんだが。おそらく27の秋頃からセッ○スしてない。最近では、ハダカはおろかミナミの肌が露出しているのをめっきり見なくなった。キャミソール姿すら見ていない。
そんな妻が今、スク水を着ている。
「何見てんのよ」
「いや、そりゃあ、見るだろう」
仕事から帰ったら妻がかなり若返っていて、スク水着てたら。
「ふんっ。別に、早くあんたに見せたくて夕方から着てたわけじゃないんだからね」
奇行はともかく、なんて素直なんだ。いつもの妻に比べるとまるでキャラが違う。普段の彼女は、単語レベルで話すのだ。ちなみに昨日耳にした発話は、ご飯、冷蔵庫、疲れた、遅い、寝る、別室、だけ。
「早く帰ってこれなくてごめんな」
「ふんっ」
「記念日、覚えてたのか」
「別に……あんたこそ」
妻は続ける。
「花束、やっぱ、嬉しい……。私、ハルくんと一緒に……お祝いしたかった、の」
そしてさらに続ける。頬を紅潮させながら。
「……っ、なんて、思ってないんだからね!!」
と、同時に。
ジョババババババババ。
!?!?!?!?!?
漏らしたーーーーーー!?
「あ……あぁあああ……や……やらぁ……」
妻はあふれてくる涙を手の甲でぬぐいながら、フローリングにへたりと座りこんだ。
「うぅ……はずかしいよぉハルくん……み……見ないでっ……」
ひたすらびっくりして立ち尽くしていた僕を、あられもない表情で見上げる妻。
床には水たまり。
「雑巾持ってくるから……ええと……そういうのは普段どこにしまってる?」
「あんたぁ……ひっく……ほんっと家のこと何も知らなひんらから……」
そう言って妻は、玄関の収納庫を指さすのだった。
やっとおもらしの後始末を終えた。スク水姿の妻を風呂場に連れて行き、僕は見ないから、と伝えてリビングに逃げ帰った。
シャワーの音が聞こえる。ああ、あの扉を開けたら……
僕の股間に、なつかしい感覚がよみがえる。ダメだろ、普通に考えて。今の妻は何から何までおかしい。あの見た目だと……ちょうど僕たちが出会った頃の年齢、つまり高校生なんだぞ。
僕は血流を下半身から頭の方へ誘導するため、逆立ちしようとソファから立ち上がった。そのとき。
――ん?
ゴミ箱からはみ出たそれに目が留まる。説明書のような紙切れ。くしゃくしゃっと丸めてある。僕は深く考える前に手に取った。
商品名:倦怠期オワラセール☆キット
使用方法:
①付属の錠剤を、パートナーとの性交渉を予定する8時間前に水もしくは白湯で服用します。
②ラブパッチを側頭部に貼付します。
③衣装を着用します。
注意事項:
・体質により、極端な若返り効果が現れることがありますが身体への害はありません。
・ラブパッチは体内へ自然に吸収されます。意識改善効果は3時間程度持続します。
……なんだこの怪しげな商品。
僕はさらにゴミ箱をあさる。すると、かの有名な大国の通販メーカー「TIMU」の文字が記された送り状が見つかった。
あのアホっ!
僕は浴室に走った。ミナミ、なんでこんなことしたんだ? 問い詰めてやる!
「あ……」
洗面台に足を踏み入れた瞬間、内側から浴室のドアが開いた。そこには素っ裸の妻が。そして先に取り乱したのは彼女の方だった。
「な、な、な、何見てんのよっ!!」
ふんわりと膨らんだ胸をとっさに手で隠そうとするも、それじゃ乳首しか隠れていない。胸から滴った水がなめらかなへそを伝って下腹部へ……
そこには控えめな花園と、蜜の溢れるつぼみが……
「あべしっ!」
僕の声だ。妻に殴られたのだ。
「あんた、今変なこと考えたでしょっ!」
「ごめんごめんごめんごめん目潰すから!」
「そ、そこまでしないでいいわよ……」
そんなわけで、ようやく鼻血の止まった僕と、その隣には湯上がりメイド服の妻。
メイド服?
まだ衣装を隠していやがったのか。
妻はきまり悪そうにもじもじしているが、いつものアンドロイドみたいなアレよりはかなりマシだ。
「……ごめん」
「僕を殴ったことか」
「違う」
「じゃあなんだ、怪しい通販で僕とセッ○スしようとしたことか」
「……っ」
言い過ぎた。
「べ、べ、別にあんたとセッ○スしたくてこんなことしたわけじゃ……」
セッ○スしたかったんだな。
このメイドさんはまだ話したいようなので、僕は黙っていよう。
「じゃなくて……大事なのはそこじゃなくて……」
「ごめんって言いたかったのは……」
「今も大好きだよって、言えなかったこと」
は?
はあああ?
言葉が出てこない。目の前には潤んだ瞳と真っ赤な顔の妻(17)。こいつは普段のミナミと違う。違うのに、やたらと真実味があるのはどうしてなんだ。
まさか、これが妻の本音――
「ミナミ」
僕は無意識の中、彼女にキスをしていた。
「んっ……」
柔らかい。記憶のどこかにしまっていた感触。妻の舌が熱い。僕を拒むように硬直したかと思えば、それは途端にやわらかく溶け、いっそう絡みついてくる。
「はる……くん……きもちひ」
その唇を、僕はまた塞いだ。
「すきっ、すきすきすきすきすき」
溢れ出るミナミの気持ちを一つ一つ抱きしめるような、そんな優しさでそっと彼女を押し倒し――
「全部すきっ……」
最中。あまり聞きたくない内容ではあろうが……
僕たち夫婦の愛の営み~妻、魂の喘ぎ~を一部抜粋してお送りする。
「あっ……ひゃっ……ゴミの日全部覚えてて出勤前に必ずまとめて出してくれるところとか…きもちっ……
排水溝の掃除してくれるとことかタイヤ交換してくれるとことか……んっ……意外とマメで力持ちさんで男の子だなーって思うし……
ら……らめ……飲み会は行くけどキャバクラは行かずに二次会で帰ってきてくれるとことか……
ぁぁぁぁ……私大事にされてるうって思う……っの……何より顔が……好き……あああああ、いっひゃう!!」
「僕も……愛してるッ……」
そんなわけで、僕たちは倦怠期を脱出したのだ。
後日。
僕の妻は32歳だ。そして、バニーガール姿でキッチンに立っている。
「ハルオ、ちょっと来て」
「はいはい、……って、おお」
今日も唐突な口づけ。そしてスープの口移し。
「……どうかな?」
「おいしいけど、ちょっとコンソメ足してもいいかもな」
「おっけ」
そう言って、口角を舐めながらニコッと笑っている。
――ああ、これだけは伝えておかねば。あの日から妻は、怪しい通販なんてやってない。コスプレにハマった、ただの主婦だ。リビングの棚には、プリザーブドしたあの日の花束と、年相応の僕たちの写真。
ちょっとおかしくて、人様には言えなくて、だけど平凡で。
夫婦ってそんなもんでいいんだ。




