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父の再婚相手の連れ子を保護したら、未来の魔王でした。でも可愛いので溺愛します!可愛いので!  作者: 衛星 奏志


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学園編「いちゃいちゃは家でやれ」

大人になりました。

「またルシェが訓練場の天井をぶち破ったらしい」

「この前学園長が結界を構築し直したって言ってなかったか?」

「言ってた言ってた。学園長ってかなり有名な魔導士だったよな? それをぶち破るルシェって……」

「「ヤベェ!!!」」


 笑い声が響く学園の中庭のベンチ。


 ルシェの噂を聞きながら一人、得意げにしていると、隣に座る友人──皇太子ライナスがくつくつ笑っている。


「ルシェも大概セドリックを好き過ぎだが、セドリックのルシェバカも大概だな」

「セドリックは無自覚だからルシェは苦労しますね」


 賛同する様に公爵令息でライナスの護衛、ベルンが苦笑している。


「あれはあれでルシェは楽しんでるんだ、きっと」

「うちのルシェが素晴らしい魔術師だ、ということですね?」

「全然違うけど、そうだな」


 ざわっと中庭が沸いたかと思うと、向こうからルシェが歩いてくる。


 スラリと長い体と足、整った顔、手入れされ風に揺れる長い艶やかな黒髪。最高級の紅玉でも敵わない、輝く瞳がセドリックを見つけるとゆっくりと笑みの形に変化する。その瞬間はこの世のどんなものよりも美しい。


「セドリック、ここにいましたか」

「ルシェ、お前は今日も美しいな」

「恐縮です」


 手を伸ばし、柔らかな頬を撫でるとルシェはスリっと頬を寄せる。


「俺達がいるの忘れてないか?」

「忘れてますね」

「忘れていませんよ」

「忘れてなくてこれか。あー、いちゃいちゃは家でやれ」

「いちゃいちゃ? これが? 普通では?」

「……」


 ライナスが絶句してしまった。

 なにもおかしなことはしていないのに。


「まあ、いい。ルシェ、まず座れ」


 ライナスが言うと、ルシェはジッとライナスを見つめた。しばらくそうしていると、ライナスがベルンのベンチに移動しルシェが隣に座る。


「お前、俺は皇太子だぞ。不敬罪で捕まえるぞ」

「そうなると、エルトハイム侯爵家は敵になりますね」

「城を壊して脱出するくらいの力はありますよ?」

「もう嫌だ、この二人」

「まあまあ。そうだな、脱出くらい簡単だろうな。ルシェ相手だったら殿下を守り切る自信はない。訓練場の天井をぶち破ったくらいだ」

「そうだそうだそれ。もう何回目だ?」

「えーっと……」


 指を折っていく途中でライナスが止める。


「分かった、数えきれないほどなんだな。ほんと、ルシェが味方でよかった」

「まあ、ルシェが味方と言うよりもセドリックが、の方が正しいかもしれませんけどね」

「尤もだ」

「うん。うちのルシェが、本当に素晴らしい魔術師だ、ということですね?」

「セドリックっ……」

「あーはいはい、そういうことそういうこと。だからぁ、いちゃいちゃは家でやれと──」


「あー! ここにいたーーー!」


 皇太子の言葉を遮るなど学園の外ですれば本当に不敬罪になる行為で、貴族であるならば学園内でも絶対にしないのだが、遮るように女生徒の声が中庭に響いた。思慮の欠片もない。


 ルシェの表情が一瞬で抜け落ちる。


 普段はこれが普通なのだと言うから信じられない。いつもあんなに可愛いのに。


「見つけたわ、あんた早く魔王に戻りなさいよ! そうじゃないと私が活躍できないでしょ!」

「は?」


 ルシェを指差し放った、聞き捨てならない言葉に低い声が出る。


「なんで、飛び級なんてしてんのよ! 私と同じ学年のはずでしょうが!」


 そう、優秀なルシェは今までなかった制度、飛び級制度を学園に作らせた。

 学力、魔術、どちらも“飛び抜けて優秀”であることが条件で、学力は“飛び抜けて優秀”だったが、魔術に関しては、“数千年に一人、他に類を見ない”という評価を得て飛び級し、三つ上のセドリックと同じ学年にいる。今年卒業なので実質一年間しか通わないことになる。


「何を根拠に我々に声を掛けている。貴様は誰だ」

「私は聖女よ」


 ライナスを見ると首肯する。


「だから何だ。聖女如きが我々に無礼を働く正当な理由にはならない。すぐさまこの場を立ち去れ。不愉快だ。ルシェを魔王と宣ったこと、エルトハイム侯爵家から強く抗議させて頂く」


 聖女はグッと一瞬詰まったが、深呼吸をして再び口を開く。


「無礼をお詫びします。ですが、そこの者は魔王です。もしくは、これから魔王になる者です。このままではこの国が危機に陥ります。どうか、私の話を聞いて下さい」

「断る。聞く価値もない。つ──」


 さらに言い募ろうとしたところをライナスに止められる。


「聖女セラフィアよ、不確かなことを公の場で言うものではないよ」

「でも──」

「ルシェはエルトハイム侯爵家の方ですよ。何か勘違いされているのでは? 誰か、聖女を連れて行ってくれ」


 嗜めた皇太子に対し反論しようとして、ベルンの言葉に遮られる。


 王族に否を唱えるなど、無礼が過ぎる。


 ベルンの言葉に周囲にいる生徒がサッと動いた。

 彼らもまた、生徒兼ライナスの護衛だ。


 喚く聖女が連れていかれる。


 ライナスが手を振ると集まっていた生徒達が散っていった。


「はぁ、何だあいつは。あれが聖女? 神はとち狂ったのか?」


 ライナスがククッと笑い、毒気を抜かれる。


「ルシェのことになるとセドリックは口が悪くなるな。……まあ、どうなんだろうな。神殿は未来視のできる聖女だと言ってきたが、実際何ができるかは分からん」

「実績がないのですか?」

「まあ、幾つかはある。だがどれも空を読むことやこれまでの統計の域を出ない。まあ、ルシェを魔王と言うくらいだ、信憑性は低いな。俺の方からも抗議文を出しておこう。せめて最低限のマナーくらいは身につけて欲しいものだ」

「そうですね」

「おいセドリック、そろそろルシェを離してやれ」


 ベルンの言葉に抱きしめていたルシェを見る。


 ルシェは両手で顔を覆い隠しているが、見えている耳は真っ赤になっていた。


「可愛いな!」

「だぁかぁらぁ! いちゃいちゃは家でやれ!」


 ライナスに怒鳴られ、ようやくルシェを解放した。


 家に帰って真っ先にやったことは、聖女の愚行への強い抗議文を送ることだった。


 ありったけの怒りの文言でもって送ったので効き目はあるだろう。


 次にやったのはルシェを労ることだ。


 部屋を訪ね、開け放たれたドアの枠にもたれて中を覗く。


 ルシェは窓際のソファに座って本を読んでいた。


 陽光が後光のようにルシェを照らす様は、神を描いた絵画のように美しく、見惚れてしまう。


 この扉は開いていることが多い。小さいルシェがセドリックが来たらすぐ分かるように、と言っていたことを思い出し、ふっと笑う。


「セドリック、入って来られてはいかがです?」

「邪魔したか?」

「いいえ。セドリックを邪魔だと思うことはこれまでもこれからもありません」


 部屋にいる時、ルシェは普段後ろでまとめている髪を、解いて垂らしている。

 黒髪が山肌を落ちる滝のように、なだらかにシャツの上を流れるのを見るのが好きだ。


 長い髪を一房手に取る。


 まるで最高級シルクの様な手触りを指先で堪能する。


 うちのメイド達を褒めなくては、と思っていると、肩にルシェの重みを感じた。


「今日は怒ってくれてありがとうございました」

「当然だ」

「僕はいつもセドリックに助けられてばかりですね」

「そんなことは、ないと思うが?」

「ふふ、そういうセドリックが大好きです」


 腕を回して、肩を引き寄せる。

 ルシェは額を猫の様に首元に擦り付けてくる。その行為が可愛くて。


「俺も、ルシェが好きだよ」


 他愛のない会話だけれど、幸せだと思った。



 数ヶ月経ち、卒業間近。

 王家主催のパーティーの招待状が届いた。


 今回はライナスの婚約者の発表だから大掛かりなものになるだろう。国中の貴族が集まるはずだ。


 婚約者。学園も卒業するし、そろそろ考えなくてはならない。気乗りしないまま、父も急かさないし伸び伸びここまで来てしまったが──ふと、ルシェのことが頭に浮かぶ。


 ルシェにも婚約者が必要だろうか。そう考えて、じわっと嫌な気持ちが広がる。


 なぜだろうか、と思ったところでノックの音がして、ルシェが姿を現した。


「セドリック、仕立ての者が来ました。今度のパーティーの衣装ができた様です」


 ルシェの声を聞き、ルシェの顔を見たら嫌な気持ちが霧散する。ホッとして、思わずルシェを抱きしめた。


「セ、セドリックっ、どうかしたのですか?」

「どうもしてないんだけど、なんだかホッとしてしまって、何となく……かな?」

「よく分かりませんが、セドリックのお役に立てるならお好きなだけどうぞ」

「そういうことは、俺以外に言ってはいけないよ」

「セドリック以外で誰に言うというのです?」

「ルシェは本当に可愛いな」

「へ?」


 おでこと頰にキスを贈ると、きょとんとした後、真っ赤になってしまった。


「セ、セドリック! 不意打ちはダメです〜」


 アハハハと声を上げて笑い、廊下を進む。


 追いついてきて並んだルシェはパタパタと顔を仰いで冷ましていた。


 ──ずっと二人一緒にいられればいいのに。


 不意にそんな気持ちが浮かび、なるほど、と思う。


 きっと今の生活を壊したくないんだろう。


 結婚となればルシェはこの屋敷を出て行ってしまう。可愛いルシェが居なくなる? そんなの耐えられる筈がない。


 ルシェがこの屋敷にずっといられる最善の方法を見つけなくては──と、あれこれ思案する。


鈍感主人公、本領発揮です。

あまりにも近くにいるとなかなか自覚しにくいものですよね。

それにしたって、て感じですけども。


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