夢の中で死ぬ
赤い髪が、街灯に反射してギラギラ光っている。まるで赤色矮星のようだ。
だってそうじゃないか。
見上げた先にいる赤髪の女性が、あんまりにも美しいから。
長い赤い髪がマグマみたいだ。冬の装いとは思えないようなトップスに垂れている。
女性は寒さなんて気にもしないような素振りで、街灯にもたれていた。
急性アルコール中毒なのかもしれない。同窓会の飲み会の帰りだった。積もる話がありすぎて、ついつい深酒してしまった。
「ああ…」
そう言って座り込む。冬の地べたは背筋が凍るほど冷たいが、アルコールで煮え切った頭には丁度良かった。
赤髪の女性がこちらに近づいてくる。見れば見るほど綺麗な赤髪だ。染めているのだろうか。だとしたら、腕の良い美容師だ。
「おい」
赤髪の女性は目を吊り上げながら言った。
「こんな所で寝ると死ぬぞ、おっさん」
その乱暴な口調もらしい、と思ってしまった。この人の名前すら知らないというのに。
呂律もおぼつかない口で喋った。
「そうだよね。今、立つよ」
多少ふらつきもしたし、一度倒れかかったが何とか立てた。年々、身体の自由が効かなくなるのを感じる。
改めて女性を見る。私よりほんの少し背が低く、典型的な日本人顔だ。目付きは涼やかで、アイラインが濃い。やはり染めているのだろうか。でも似合っている。
赤髪の女性はジト目でこちらを見つめ言った。
「なんか危なっかしいなぁ、おっさん。今、タクシー呼んでやるよ」
「ありがとう、優しいね」
「こんなの、優しさでもなんでもないだろ」
なんてことないような言葉に、この人は日頃からこうして人助けをしているのだろうか、と思ってしまう。それは私にとって少し危うく思えた。世の中そんな、善人だけじゃないのだから。
「あのねぇ、こんなこと私が言うのもあれだけど、世の中思ったより危険だから、気をつけるんだよ」
「ご忠告どーも、でも今のおっさんに負ける気はしないけどな」
そう言って、赤髪の人はニカっと笑った。寒さを忘れさせる、太陽のような笑みだった。
それもそうか、どう見たって、今の私よりこの人の方が強そうだ。
タクシーを待っている間、一緒にいてくれた。ポツポツと、なんてことない話をする。
「なぁ、セクハラだと思ったら答えなくていいけど、その格好寒くないのかなって」
「私は寒さに強いんだ。これくらい、なんてことないよ」
なんて羨ましい体質だ。
やがて、タクシーが来た。
「それじゃあな、おっさん」
「ありがとう、本当に」
タクシーに乗り込もうとした瞬間、ふと思い立って、咄嗟に振り向いて質問する。
「あの、何で赤髪なんだ?」
背を向けかけていたその人が、また私の方を見て、今度はニヤっと笑った。
「私の1番好きな色だから!」
タクシーのドアが閉まる。今度こそその人は何処かに行ってしまった。
運転手の声に、機械的に反応する。
もう二度と会う事はないだろう、その人。
最初に見た鮮烈な赤が忘れられない。
夢の中なら会えるだろうか。
夢の中なら、あのマグマに焼かれ死んでもいいのかもしれない。
車窓に街灯が反射して、それが走馬灯のようだ。




