第九十七話:店を潰す?――それ、“食べ放題”の出張サービスだろ
(場所:第13区・深淵SPA会所 前)
夜の帳が降りる。猛毒スモッグに覆われた第13区は、眩いサーチライトに照らされ、真昼のように白く染まった。
――大地が震える。
【廃土財閥】の私兵、“屠夫軍団”。全高五メートル級の重殺戮機甲が五百機。唸りを上げるプラズマ切断ブレードを握り、開業したばかりの深淵SPA会所を完全包囲していた。
『中の者、聞け!』
拡声器越しに、財閥代理人の傲慢な声が響く。
『技術の中核を差し出せ! そしてこの星から消えろ! さもなくば、“生物抹消”を実行する!』
城をも滅ぼす鋼鉄の濁流を前にしても、リンは椅子を一脚運び出し、門前で平然と茶を啜っていた。
「生物抹消?」
リンは湯呑みを置き、背後の闇へ声を投げる。「ベルゼブブ、寝てる場合じゃない。夜食だ。」
「んぁ……やっと飯か?」
特大サイズの店員エプロンを着け、寝ぼけ眼のデブ――暴食魔王ベルゼブブが、のそのそと出てくる。彼は赤く点滅する機甲の群れを見た瞬間、濁った瞳が一気に輝いた。
「いい匂い……チタン合金の香り……高エネルギー電池の酸味……」
『殺せ!』代理人が命じる。
先頭の機甲が突進し、数千度の熱をまとったプラズマ巨刃がベルゼブブの頭蓋へ叩き落とされる――ベルゼブブは、避けない。ただ、口を開いた。
「バキッ。」
耳がきしむ金属破断音。戦車すら切り裂くプラズマ刀と機甲の片腕が、ベルゼブブの一噛みで“折れた”。
「ん……ちょい熱いが、歯ごたえは最高だな。」
彼は鋼を咀嚼しながら、恍惚の呻きを漏らす。「サクサクだ。機油の香り. 唐辛子粉があれば完璧だ。」
操縦者が硬直した。「ば……化け物! 俺の刀が……食われた!?」
「もっと寄越せ! 歯の隙間にも詰まらねえ!」
ベルゼブブは、まるでブラックホールに繋がっているかのような大口を開き、深く息を吸い込む。
【暴食・吞天】
凶悪な吸引が炸裂。最前列の十機は抵抗すら間に合わず、掃除機に吸われるレゴのように、捻じれ、潰れ、そしてベルゼブブの口へ消えた。
「げふっ――」
電火花混じりの満腹ゲップ。「三分目。次。」
恐怖の虐殺現場は、瞬時に“巨大ビュッフェ会場”へ変貌した。不遜な殺戮マシンが、いまやデブ店員の目には“歩くフライドチキン”にしか見えていない。
【配信コメント】
[ 前方高エネルギー!食レポ配信者、復帰! ]
[ 機甲:こいつの目、ファミリーバレル見る目なんだが!? ]
[ 物理商戦じゃない、物理消化戦だ! ]
軍団が“おやつ”として食い尽くされていくのを見て、遠方の代理人は逆上した。
『くそったれ生物! 切り札だ! あいつを放て!!』
――地面が裂ける。全高百メートル、全身にミサイルを吊った“機械ゴジラ”(超大型攻城機甲)が地下からせり上がった。ビルを踏み潰す巨脚が空を覆い、たった三階建ての会所へと踏み下ろされる!
『突入できないなら、土地ごと――お前らまとめて踏み砕く!!』




