表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/143

第九十一話:被告は“全人類”か?――いいえ、俺は「快楽の運び屋」だ

(場所:銀河連邦・最高高等法院)


ここは銀河系の権力中枢。巨大な審判廷が虚空に浮かび、周囲には各星系から集った代表がびっしりと座っている。裁判席には、頭部が巨大な金色の天秤になっている“天秤星人”の大法官が鎮座していた。


「静粛に。」


大法官が木槌を打つと、その音は星間ネットワーク全域へ響き渡った。


「被告人:リン・アドラー(第404号惑星代理人)。」

「原告:銀河連邦・市場監督局。」

「罪状:大規模星間詐欺、空気通貨の発行、悪質マーケティングによる銀河網の機能不全。」


原告席の機械族執行官が、冷え切った声で長大なデータ列を読み上げる。


「裁判長。被告は『ブラインドボックス』と称する賭博機構を利用し、数兆単位の資金を騙取。さらに『値引き一撃』と呼ばれる悪性ウイルスを創出し、銀河系の生産効率を30%低下させました。求刑:『文明フォーマット(文明の初期化)』。」


場内がざわめいた。配信を見ている地球人たちは震え上がる。被告席のリンは、ぴしりとした黒いスーツ姿。恐怖は一切なく、むしろ微笑しながら袖口を整えた。


「異議あり。」


リンの声が拡声器を通して法廷全体に響く。


「原告が『詐欺』という語を使った時点で、それは商業芸術への侮辱だ。」


「詭弁だ!」執行官が怒鳴る。「石を掴まされた被害者はどう説明する!」


「被害者?」


リンは首を振り、陪審席――各種族の大物たちへ向き直った。


「諸君。この技術が極限まで発達し、寿命すら無限に延びた宇宙で、あなた方に最も足りないものは何だ? ――“感覚”だ。あなた方の意思決定は、すべてアルゴリズムが算出した最適解。人生は死水のように平坦で、起伏がない。」


リンは黒い盲盒を一つ取り出し、高々と掲げた。


「私が売っているのは商品ではない。私が売っているのは――“鼓動”だ!“驚き”だ!久しく忘れていた“ドーパミン”だ! 開封の瞬間、彼らは数万年ぶりの刺激を味わった。破産した?結構。私は慈善をしている。宇宙規模の“感情冷却症”を治療しているのだ!」


「暴論だ!」執行官が叫ぶ。


「そうか?――裁判長。」


リンは、あの威厳ある天秤星人を真正面から見上げた。


「あなたは毎日、絶対の公平を維持している。疲れないか? たまには……“わがまま”に、一度だけ運で賭けてみたいと思わないか?」


リンが手首を返す。盲盒は滑るように裁判長の卓上へ正確に届いた。


「贈り物だ. 中身はゴミかもしれない。だが、ひょっとすると――あなたがずっと欲しくて、買えなかった“自由”かもしれない。」


場内が凍りつく。大法官は黒い箱を見つめた。理性は没収を命じる。だが……くそ、好奇心が勝つ。


「カチッ。」


全宇宙の前で、大法官は我慢できずに開けてしまった。眩い金光が爆ぜる――! 中身は【宇宙一周・80日有給休暇券(リン提供)】。


大法官は三秒沈黙し、咳払いを一つ。


「……こほん。被告の弁論は……過激ではあるが、しかし……一理ある。」


【配信コメント】

[ ヤバい、法廷で賄賂!? ]

[ 違う、これは法廷治療だ!見ろ、法官が嬉しそうだ! ]

[ リンの舌は死人も生き返らせるわ…… ]

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ