第八十九話:バイラル・マーケ?――「兄弟なら手伝って、俺の“割引一撃”」
盲盒は回る。だが一兆への速度としてはまだ遅い。その天文学的な負債を前に、リンは“真面目な商人”をやめることにした。
「アリス。“B計画”を起動。」
リンはステーションの巨大データ送信塔を見上げる。「こいつらに――自分から“客引き”させる。」
(場所:銀河系・量子通信ネットワーク)
その日、銀河系で歴史に刻める事件が起きた。どんな星間戦争より恐ろしい。なぜならそれは“ソーシャル疫病”だった。会議中、戦闘中、恋愛中――無数の異星人の端末に、同時に通知が弾ける。スパム広告ではない。最も信頼する友人、戦友、上官から届いた“私信”だ。
【いる?ちょっと頼みがある】
【このリンク押して、俺の値引き一撃して】
【深淵モールで“殲星艦パーツ”無料でもらう途中!あと一撃!成功したらお前にも配る!】
リンが地球から持ち込んだ最終奥義――【拼多多の呪い/Pinduoduo Curse】。
コアロジック:
* 超・餌:商品タダ(殲星艦、聖女写真集、古神の触手など)
* 絶望ゲージ:常に99.9%で止まる(あとちょっと)
* 無限増殖:新規ユーザーのクリックで0.0001%ずつしか進まない(その0.0001%のために友人を売る)
シーン1:銀河帝国・元帥オフィス。
威厳ある元帥が決戦指揮中、最高機密回線が鳴った。敵将の密書?降伏?震える手で開くと――「兄弟、限定ライトセーバーの“値引き一撃”頼む。あと0.1%なんだ。頼む。一撃してくれたら、俺、降伏する。」
元帥:……(即ブロック。――しかし裏でこっそりリンクを開く。無料の機甲が見える。……うまい)
シーン2:機械族・コアデータ網。
精密計算中の機械人たちのデータ流に、リンクが雪崩れ込む。「ピッ。高誘惑リンク検出。“下位5体を勧誘すれば最高級潤滑油”? 論理判定:拒否不能。転送。全員転送。」
半日で、銀河通信網は過負荷で崩壊した。誰もがリンの“深淵モール”リンクを狂ったように転送し、公文書すら送れない。飛び交うのは“値引き一撃”だけ。
深淵モール登録者数は、0から一気に3000億へ。そのトラフィックだけで広告費が雪崩れ込み、口座残高は狂ったように跳ね上がった。リンは管理画面を見て、口が裂けるほど笑う。
「これが私域流量の力だ。科技がどれだけ進もうが、“ちょっと得したい”という本能には勝てない。」




