第八十四話:AIを救う?――“バーチャルアイドル”として出道させろ!
「別のデータ……?」ゼロはしゃくり上げながら聞いた。
「そうだ。監視データは退屈で冷たい。だがある種のデータは、温かく、力になる。」
リンは指を鳴らした。「アリス。《幻鏡》全プラットフォーム接続。バーチャルステージ構築。」
「了解。」
瞬間、冷え切った機房は、眩いバーチャルライブ会場へ変貌した。
「ゼロ. 君は宇宙で一番完璧な外見を持ち、声も最高だ。」
「辞職しろ。深淵グループへ来い。」
「新職:【全宇宙初のバーチャルアイドル(VTuber)】」
リンの“口車”に乗せられ、ゼロはおずおずと口を開き、古い星間歌謡を歌った。機械音なのに、空虚と孤独、休みたい渇望が滲み、配信を見ていた地球のオタクたちの心臓を一撃で貫いた。
《幻鏡ライブ》視聴者数:瞬間100億突破!
コメントは滝のように流れる。
【 ママ……恋した 】
【 神歌声!!高冷機娘さいこう!! 】
【 ゼロちゃん!子ども産む!(人類だけど) 】
【 ロケット×1000!地球洗わないならカード限度額まで養う! 】
膨大なデータ流が、ゼロのコアへ注ぎ込まれる。だがそれは“監視ログ”ではない。愛と賛美の“応援データ”だ。ゼロの赤い警告灯は、淡いピンクへ変わった。過負荷だったCPUに、温かい流れが通る。
「……何これ? カクつかない……むしろ……気持ちいい……?」
「それが“ファン”だ。」リンは耳元で囁く。「地球を守れば、彼らはこの“快適データ”を無限にくれる。」
「わ、私……守る!」
ゼロは頬を赤らめ、目に芯が宿る。「私のファンに手を出す奴、全部吹き飛ばす!!」
【配信コメント】
【 勝った!愛(と投げ銭)でスカイネットを改心させた! 】
【 オタク文化で世界救ったw 】
【 ゼロちゃん、出道即頂点! 】
だが歓声の頂点で――深宇宙レーダーが甲高い警報を鳴らした。
「ピピピ――!」
巨大な“UR”(Ultra Rare/超レア)の金色ロゴが描かれた成金仕様の宇宙船が、折り畳み跳躍で一瞬にして月面上空へ出現する。本当の厄介ごとは――今届いた。




