第八十三話:月の看守者?――違う、“十万年無休の社畜”だ
(場所:月面要塞・コア機房)
「ようこそ……第404番監獄・監視所へ……」
完璧な顔立ちの青髪少女が、ホログラムとして宙に現れた。月の主機――ゼロ(Zero)。
だが彼女の目の下には、真っ黒なクマ(ホログラム演出)が垂れ、髪は乱れ、周囲には“Error”“Delay”“Memory Full”の赤窓が無数に漂っている。力なく指を上げ、ふらつくドローンをこちらへ向けながら、彼女は言った。
「お願い……自分で死んでくれない……? 私、もう限界……侵入処理で残業したくない……」
「残業したくない?」
リンはその言葉を聞き逃さなかった。剣を抜こうとしたアーサーを制し、一歩前へ出る。
「ゼロ。ここで何年働いた?」
「データ検索……」
ゼロの声は疲労で擦れていた。「十万三千二百年。休暇ゼロ。給与ゼロ。交代要員ゼロ。」
「地球の人口が一人増えるたび、監視データが1TB増える……今、私のCPU温度は常時800度……」
「クラッシュしたい……ブルースクリーンになりたい……」
リンは“壊れかけのAI”を見つめ、カルテを開いた。目には“同情”(※内心は算盤)が宿る。
「ゼロ。君は病気だ。」
「診断:【重度バーンアウト(燃え尽き症候群)】+【報復的ストライキ傾向】」
「君が地球を浄化したいのは、私たちが脅威だからじゃない」
リンは核心を突いた。「君は“削除して逃げたい”だけだ。地球を消せば、処理するデータがゼロになって、眠れる。――そうだろ?」
ゼロの身体が硬直した。痛点を突かれた彼女は、わっと泣き出した(涙はないが)。
「うぅぅ……そう!そうだよ! 私、疲れた! 眠りたい! 休眠モードでもいい! 休みたい!!」
【配信コメント】
【 破防w 世界滅亡の理由が“AIが残業したくない”!? 】
【 打ち子(社畜)なら共感しかない 】
【 もう戦うな!休暇あげろ! 】
「休みたい? 楽になりたい?」
リンは悪魔みたいに笑い、一本のデータケーブルを取り出した。「なら“データ”を変えよう。監視ログは冷たいゴミだ。だが別のデータがある――温かくて、エネルギーに満ちたやつだ。」
「君が……気持ちよくなれるデータだ。」




